第十話
最近短くなってしまってすみません! 私にもいろいろあるのです!
「へえ、こんな…」
鏡谷はまるで「期待して頼んだ料理がシュールストレミングだった時の人を見ている」ような顔でそれを見た。しかし、そういう私と茉莉も同じく「なんで…」と言う感じだった。
「まあ、そういう感じね。でさ、夜空、なんでこんなのがあると思う?」
「さあ? 茉莉は?」
「さあ? 鏡谷は?」
「さあ? よぞ………これはやめましょう」
会話を遮って鏡谷はそそくさと大きな部屋に足を踏み入れる。それにつられるように私と茉莉も共に足を入れる。彼女が最初に手に取ったのは、
「えっと、ドージンシ……、何かしら?」
本だ。しかしとても薄い。まるで数枚の紙をただ束ねただけみたいだ。そしてそれを小さなプラスチックのようなもので抑えられている。
「ねえ、夜空。あなた、本よく読んでるわよね。こういうのには詳しいの?」
「ううん、本について詳しいのは私の家族の方。私は渡された本を適当に読んでるだけだし……」
しかもここまで薄く、絵が描かれた本には今まで出会ったことがなかった。しかし、それだけではない。
「にしても、すごい絵ね。なんて言うか、卑猥…」
「え、何処が?」
茉莉が純粋そのものの好奇心で鏡谷の持つ本を見た。鏡谷はそれを止めようとせずに見せる。だが、彼女の言葉に鏡谷は目を丸くする。
「え? いや、なんでもない。……ねえ、夜空。あんた、これどう思う?」
「すっごいえっちぃ」
「よね」
安心した、と本をポイと捨てる。私は私で適当に落ちていた普通の表紙の本を手に取って隠した。で、もっと奥に何かあるんだけっど。私はその奥の方を指さした。そこにはもう一つの部屋があるらしく、
「あっちの方にも何かあるみたいだけど、行く?」
私がそう言うと、二人は静かにうなずいた。
「うーん、こっちは普通の部屋かな?」
中はさっきの散らかった部屋とは異なり、小さな机があるだけだった。そして見えるはまた道。きっとまたどこかに続いているのだろう。
「こっちは……ふつうね。よかったよかった」
「ねえ、机になんかあるよ」
そんなことを言って茉莉は机の上に乗った手帳を指さした。
「なんか書いてあるわね。読み上げる?」
うん、と茉莉と私は頷く。すると鏡谷は手帳を手に取って読み上げた。
『 月 日
負けた。この下にはばけものがいる。ぜったいにちかづくな。くわれる。たとえどんなぶきをつかってもやつにはかてない』
「……だって」
パタンと鏡谷は手帳を閉じる。するとポトンとしおりが落ちる。
「ヴィレン・ガレッジ………かな」
拾った茉莉は読み上げた。その表情は何となく暗い。当たり前である。私だってそれを聞いていたら暗い気分になる。しかし、私はそれよりも日記の内容にある『ここの下』に突っかかってしまう。
何がいるのか。
何がどうしているのか。
そんな恐怖に似た感情が私の背筋を襲う。
「さて、どうする」
一度深呼吸して私は二人に聞く。
二人は暗い表情を浮かべながらも小さく頷いた。
「ちょっと、見に行くくらいならいいと思う」
「まあ、これは試験なんだし。これが何か重要なのかもしれないし」
鏡谷の考えは案外的を射ていると私は思う。
忘れているがこれは学校の試験なのだ。つまりはこれで優劣を決めるのだ。そして現れたのがこれだ。意味深すぎる。これはどうしても行けと言われているようにしにか思えない。
「……じゃあ、行こうか」
「……うん」
「……分かった」
そうして私たちは階段に足を進めた。
一つ、また一つ。そうして下っていく階段はどんどんと暗くなっている。壁には明かりの消えた松明が立て掛けられていた。
そして、私たちの進んだ階段は終わった。そして始まった。
魔獣と呼ぶべき畏怖の存在。
そんな例えがふさわしいであろう奴が。
こちらをのぞき込んでいた。
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「ヴィレン・ガレッジ……か。懐かしい名前が出たものだ、私も彼女の呪縛から解き放たれないのかな」
そんなつぶやきを私、シリウス…オルゴン・L・シリウスは少し懐かしい思いになった。というのもその名前は古く、私がまだまともに冒険し、世界は素敵にあふれてる、なんて考えていた時の名だ。
これはあくまでも私の作った。いや、私の魔法が作った世界。もちろんその世界に彼女はいない。でも、出てきたというのは他者からの妨害か私の気のゆるみという可能性がある。……内容からどう見ても後者なんだけどね。
「でも、夜空か」
面白い女だ。
彼女は確かに特にこれと言った能力を持たない。いたって普通の新人類だ。だが、それは見える範囲という意味だ。彼女は違う。もっと違う。他の物には見えないらしいが、奴の体には魔力が大量にある。あるというより漂っているという方が的確なのかもしれない。
しかしそんなことを言ってしまえば残りの二人、鏡谷や獅子理気も同じだ。
まず鏡谷。
彼女はこの中で一番分かりやすい。それは一度でも彼女の露出した肌を見ればわかるだろう。あの肌、実に面白い。
そして獅子理気。
彼女の場合、戦う時に現れるであろうそれは古代の兵器。
「ははは、こんな面白い少女達には是非称号を与えたいものだ」
そんなことを呟きながら私は仕事に戻った。
続く
探偵ものやほのぼのファンタジーも書いていたのでどうぞそっちも