第九話
「ちょっと、早く起きなさい!」
ぼんやりする意識の中、鏡谷の強い口調でそう言われるのに気付く。
体を起こすと、既に茉莉も鏡谷も出る準備をしていた。
「流石に早くない?」
もうちょっと寝たいよ。
「何言ってんの! 言っとくけどさ、今試験中なのよ! って聞いてるの?」
待って、ちょっと眠い。あと声がでかい。あと五分。
「あんた、それもうニ十回目よ」
まじで? その都度寝てるのか、私凄いなぁ。
でも起きたくない。
「早くしなさい! 茉莉でさえもう起きてるのよ!」
「酷くないかね…」
鏡谷は遠慮も無く茉莉を叩く。いつの間にそんなツッコミとボケが出来る間柄になったんだろう。昨日は私と深い仲となったのに。
「いいから、起きなさい!」
うげ!
私の腹部に思いっ切り何かの堅い果実が落ちてくる。
「は! や! く!」
はい、ワカリマシタ。
重たい身体を起こし、微妙に痛い頭を抱える。しかし、そんな事は日常茶飯事なので気にする事なく、用意する。用意すると言っても何も用意するモノがないので、服を整えたくらいで終わった。
さて、行こうかな?
「で、今日はどうするの?」
私が聞くと、鏡谷は少し考えた後に
「とりあえず探検かな。出来ればみんなと合流できればいいんだけど」
と、答えた。
「じゃあ、森出るの?」
あくびしながら茉莉はつぶやくように聞く。
「どうだろう。まだ食料も十分じゃ無いし、そういう意味で今日は前半森で後半森の外って感じにしようと思ってるよ」
うん、そうしよか。
もうどうでもよくなって私はそう答えた。まあ、どうせ反対意見があるわけでもないし、それ以上にいい案もない。
「それじゃ、れっつご~」
私の力の入らない掛け声に二人も呆れて「「お~」」と答えた。
そこからあまり目新しいことはなかった。昨日のように果実が実っていればそれを取り、道なき道を行った。実につまらない散歩だった。これが試験とか、私はもうちょっと敵がわんさか出てきてそれを倒した数でどうたら…みたいなやつを予想していたため、いささか不満である。
しかし、まあ、戦えるかと聞かれれば微妙だけど。一応、戦えるかっていう疑問に対する私の回答は「まあまあ」で、本当にそれなのだ。もっと詳しく言ってみると武道の心得が少しある程度、武道と言っても私の叔父、つまりはよぼよぼのおじいさんから教わったくらいのものなので最近の若者についていけてない可能性もある。あ、それと銃も使い方も本で読んだことがあったから多分使える。でも昔、弓を使った時、全く当たらなかったため、きっと遠距離戦闘は苦手なのだろうというのが私個人に対する私個人の感想だ。
こうして考えてみると、弓とか魔法の練習とか…私色々体験してるなぁ。
まあ、そういうのは置いといて、私たちは森の中を散策していると、とある物を見つけた。
「これは………遺跡? かしら」
森の中、ジャングルと言っても差し支えないような空間で鏡谷の視線の先にあったものは人工的な建造物だった。しかも結構古い。蔦やコケがたくさんついた石でできた建造物。
「そうじゃない?」
「いや、そんな簡単に…って茉莉! ちょっとは警戒しなさいよ」
適当、っていうかすぐに答える私に鏡谷はおいおいと反応し、茉莉は勝手に近づく。すると何かに気付いたのか、「二人共~」とこちらに手を振る。
「何?」
「なんなのよ」
「これ」
と、茉莉は指をさす。
それに私と鏡谷は凝視する。しかしそこには何もない。それはただの壁だった。蔦が絡まっていてよく見えない。
「……で?」
「これだよ」
茉莉は再び指を指す。今度は指すだけではなくそこに触れた。
二人は目を凝らしてそこを見た。じーっと……、あ!
「…なーる」
「え? 何? 夜空も分かったの?」
鏡谷は両脇にいる分かった二人にきょろきょろと驚く。
なるほど……ってなる程でもないのだけども、へぇ~。
この真相を鏡谷に告げる。
「なるほど~……ってなるかい!」
綺麗なノリツッコミだった。
「ただ目が良かったら気づくことじゃない! ただ私が遠視だっただけじゃない!」
「いや、知らないよ……やっぱり生理?」
「違うわい!」
蔦を退かしてそこをよく見る。一回見えたせいか、先ほどよりもよく見える。それは何かのスイッチだった。灰色で岩に擬態していたのだ。
私たちはじっとそれを見る。きっと誰かが言わなきゃずっとそうしていただろう。そしてその間を終わらせたのはやはり鏡谷だった。
「お、押す?」
「「押してよ」」
「私が⁉」
戸惑った様子の鏡谷だが、こういう押すな的なボタンには興味津々らしい。その時、私と茉莉の思考が完全に一致した。
「押してよ」
「い、嫌よ」
「押そうよ」
「嫌だってぇ」
「「押そう!」」
「い、いや~」
もう一息!
「「押そうよ! 生理なの⁉」」
「ちゃうわ!」
「痛い! なんで私だけ!」
ポチ。
鏡谷の振り下ろした腕は見事に私の脳天を直撃し、よろけた私の肩はボタンに直撃した。
「ど、どうしよう?」
「ど、どうって……どうしようか?」
「ひ、開くよ。なんか…」
三人は慌てるが、そんな様子を無視するように壁がドアのように重く開く。
そしてその中には……?
「あ~、そういうのなんだ……、へ~」
続く
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