1話 黒の男
僕は決して慣れ親しんだ、というわけではない道を歩いていた。それはそうだ。ここは受験に来たとき以来一度も通ってきたことのない道だからだ。
中学の時は冬場以外は基本的に自転車登校だったから、歩いて登校することには少しだけ違和感を感じる。まぁ、しばらくすれば慣れるだろう。それに、歩くと言っても途中からはバスを使うから、そっちの方がキツイかもしれない。僕は乗り物ですぐ酔ってしまうからだ。
小学生の頃に、当時飼っていた犬と車内でじゃれあっていた頃にやらかしてしまってからだなぁ。
あの時は犬を溺愛していたが、それがあってからはどんな犬にも嫌われるようになったんだよな。初対面だろうとなんだろうと。
犬に嘔吐した人間として彼らの間で有名になったりでもしたのかな?…ホント当時の事は申し訳ない……
その後散歩中の犬と出くわし、当時のトラウマを思い出した僕は……………!
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数十分後…
彼は全速力で走っていた。
案の定腹を下した豊成は、バス停までの道を一心不乱にダッシュしているのだ。
昔から持久力には自信があり、たまに体も鍛えてはいるが、それでも人の出せる最高速度には限りがある。
朝少し早めに出たとはいえ、その時間的余裕をトイレで帳消しにした彼には、チンタラと歩いている暇は無いのである。
「畜生!」
『ソレ』がこちらに飛んできた瞬間は、まさにその悪態をついた時だった。
確かに前から飛んできて、豊成が今通り過ぎ自販機にぶち当たったのだろう。それを辛うじて理解できたのは、遅れて沸いて出た音が彼の鼓膜をバリバリと裂くように刺激したからで、それが無ければすぐ横で犠牲になった自販機の惨状にすら気付かなかったと断言できよう。
「!?」
震える体に鞭打って、なんとか首だけそちらに向けた先には、粉々になって所々に飛び散った元自販機と、中に入っていただろうペットボトルや缶、その中心部に人1人を丸めた様なサイズの黒いものが残っていた。
否
それは言葉通り、黒のコートに身を包んだ1人の男だった。
男は20代半ばくらいで、コートの上からでも分かる様ながっしりとした肉体を、体育座りで小さくしていた。背は豊成よりも頭2つ分くらい高く、強そうな印象を受ける。
豊成はその男を見て、遅刻しそうだという現在の状態をすっかり忘れていた。それも当然かもしれない。
何故なら豊成は自分がこの男に今殺されそうになったと判断しているからだ。
その理由は2つ。
1つは、この男の容姿にある。黒一色だから怪しいとかそういう事ではない。確かに不審ではあるが。
彼は、視認すら困難なスピードで自販機に衝突したのだ。しかし、それにしたっては不自然なのだ。
本来ならコートはズタボロになり、男は血を流すくらいはするものだ。
しかし彼には傷1つ無く、コートは新品同然…とまではいかないが、ぶつかったにしては綺麗なものだった。当たり所が良かったとかでは理解できないレベルで。
2つ目に…これは神経質になっているだけかもしれないが…豊成の体質をこの男が知っているかもしれないからだ。これは、豊成と両親しか知りえないことである。
まぁ、その事に関しては今は気にしても仕方がない。
「大事なのは、コイツが何をしに来たかだ。こればっかりは、本人に直接聞くしかあるまい。」
そう言って、ため息をつきながら豊成は彼の顔を間近に見ようと、少し屈んで……
「何コレ?」
彼は今までの自分の考えが全くの見当違いだった事に気づいた。
彼が阿保の様に口を半開きにしている前では、顔中を殴打されまくったのか、歯が何本か抜け落ち、頬はパンパンに腫れ、福笑いの様な顔をしている男の顔があった。
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「理解不能」
その一言に限る。
自分を襲ったと思った奴が実はただぶっ飛んできただけの被害者でした、なんて事でまとめられる状態なのだ。マジで意味分からん。ダメだ…混乱してるせいで自分自身何を言いたいのか分からない!
「お前は誰で、何なんだよ……」
巻き込まれただけの豊成にとっては至極もっともで、今更とも言える問であった…
それを答えてくれる人間は、いないのだが。
また豊成はため息を1つ出した。
だから…
「俺が教えてやろうか?」
まるで図った様に路地裏から姿を現し、こちらの様子を伺ってくる初対面の筈の青年に憎たらしい笑顔を向けられるとは思っていなかった。
後半目に見えて雑になってて書いてる時に「あれ、コレ投稿して大丈夫…じゃなくね?(汗)」ってなったのは別のお話し……