プロローグ
6時30分
カーテンを開け、室内に光を招く。
寝室に入ってきた日光は埃を照らし、その眩しさに僕は目を細める。
朝は弱いのだ。
家には僕以外誰もいない。少し前まで母と2人暮らしをしていたが、母親は僕が南梟高校に受かると同時に海外を飛び回り始めたのだ。
母曰く、
「あんたももう15歳なんだから自分の身の回りの世話ぐらい自分でやりなさい。」
だそうだ。メモ曰く。
受験シーズン終了直後に突然料理スキルを叩き込まれて当初は困惑したが、今考えると成程合点がいく。僕を1人にしても餓死しないように、という所だろう。
まぁ自分でも家事スキルが低すぎるなぁとは常々思っていたし良い頃合いだとは思う。思うのだが…
「何故それ以外何も教えなかったし…」
感謝の気持ちよりは、恨みの方が多いかもしれない。母は僕が家事を何もできないと知っていたが、敢えてなのかうっかりなのか、それ以外は何も教えるでもなく、去っていったのだ。(まぁ僕が昔から何事も人任せ、という態度がいけなかったのだが。)
その後は、昨日の夕飯の残りを食べ、後片付けを終わらせ、少し早いが家を出た。入学初日という事でまだ完璧に道を覚えていない為、余裕を持って行動する為だ。道に迷う事もあり得るからな。
「行ってきまーす。」
僕は誰もいなくなった我が家にそれだけ告げ、家を出た。
それが、ねずみ色の右耳をもつ少年、遠藤豊成の高校入学初日の朝の事であった。