印象 修正済み
「誰がイタチだぁぁぁ!!!!」
その童女の声が洞窟に響いた次の瞬間、俺達を台風のような風が襲った。
「な、なんだよこの風!!」
ありきたりな反応で風に抗うアフロに「アフロ君!?」とクミが心配の声を口にした。
何気にクミがアフロを呼んだのは知っているかぎり初めてだな。
「ユウマせんぱぁいぃぃぃぃぃ♡」
「ちょっとトウカちゃんは黙って!!」
クソ!風のせいで周りがよく見えん!
暗闇と風の中目を凝らすと、カラよりも一回り小さいカマイタチが見えた。
そのカマイタチは最初に聞いた童女の声を時折漏らしながら、俺たちを囲うように洞窟の壁や頭上を走り回っている。
「クタバレェェェ!!!」
するとカマイタチはそう叫びながら洞窟の壁を蹴り、カラとは違った黒い鎌をアフロに向けて高速で飛んできた。
「そんな言葉を使ったらダメだろ。」
俺はカマイタチに立ちはだかるようにアフロの前に立ち、飛んで来る鎌を親指、人差し指、中指の3本指で挟んでそのカマイタチごと動きを止める。
「………ハァ!?」
カマイタチが一瞬の間を置いて驚いた反応を見せていると、カラがツチノコと反対側の俺の肩に飛び乗り「長!!暴れないでください!」と説得を始めた。
長?この子供声が?
あとツチノコもそうだが勝手に乗るな。
「カラ!?だって人間は敵って!!」
「待ってください!この者達は長を救うために来ていただいたのです!!」
そう言って話すカラは標準語だった。
「………ごめんなさい。」
結果的に説得されたカマイタチの長は不満そうに謝罪をした。
さっきカマイタチの表情はわからないと言ったばかりだが、長は誰が見ても分かるくらいに不満気だった。
あの鎌の錆……。
長の鎌は暗い洞窟でも光るカラの鎌とは違い、金属光沢がなく赤みがかった黒い色をしていた。
あそこまで錆が広がるまで放置するとは……歯磨きをサボるなんてもんじゃないな。
「さて、だいたい想像は出来るが。カラ、俺たちに何をしてほしい?」
「さっきも言った、この長の鎌の錆を取ってほしい。」
即答だった。
やはりそれか。ただの雑談として錆の話をするわけもないからな。
俺達にとってはたかが錆、こいつらにとってはされど錆。
ならば。
「俺たちには何をしてくれる?」
そう静かに長とカラを見下ろすと、長はもちろん俺の後ろに立つUMA部員も「なっ!!」と声を上げ、長は呻くように続けた。
「これだから人間は!」
釣れた……。
「人間もカマイタチも関係ないさ。ただ両者の利益のための交渉。アリがアブラムシをテントウムシから守る代わりに甘い蜜をもらう。それと同じだ。」
「利益のためだけに動くのではなく助」
「助け合いなんて言うなよ。」
言いかけた長の言葉を遮ると、長が歯を食いしばった音が聞こえた。
「助け合いは助け<合い>だ。助けたから助けろ、助けられたから助ける。それは自らの信用、信頼をつくるための形も確証もない不確定な保険。つまり利益だ。そもそも今回の件は文字通り身から出た錆。それとも自らの失態をタダで助けてもらえるとでも思っていたのか?」
よし、あとは笑顔を作る。より不敵に、より邪悪に、より威圧的に。
「……何が目的だ。」
そして
「俺達と友達になってくれ。」
拍子抜けさせる。
「………はぁ?」
さてどうしたものか……。
長の鎌を眺めながらその処理方法
「クミ先輩。リュックの中を見せてもらっても?」
俺は無言で渡されたリュックの中を覗き込む。
「クミ先輩。なんでこんな物を?とは聞きません。なのでこれを頂いても?」
「ふふ。………いいよ~?」
笑った?……まあいい。
「では頂きます。」
ひとまずはそれは脇に置き、
さてどうしたものか……。
地面に座り、スマホのライト照らした長の鎌を眺めながらその処理方法を考える。
鎌の錆は想像以上で、0.5㎜程の厚さがあったのだ。
「鎌に痛覚、痛みはあるのか?」
そう問いかけたものの長は無言を貫き、少しして呆れたようにカラが口を開いた。
「よほど深い傷なら血が出て痛みを感じるが、浅い傷なら痛みは感じん。ただ若い者ならちょっとした傷でも痛みを感じこともあるな。」
「治るのか?」
「時間はかかるがそれでも1ヶ月もすれば傷がどこだったかも分からんようになる。」
表面に痛覚は通っていないが奥には痛覚がある。猫の爪と同じようなものか。
「なら少し錆を削るぞ。」
そう言葉にはしたが、許可の返事の前に腰のナイフを抜いて錆を削っていく。
問題はこの後だ。
カマイタチを探すために錆を取る物など持ってきているはずもない。
一応手段はあるにはあるが、それだと俺の用意が足りなかったと自ら言うことになってしまう。まぁ、そんな用意をしている方がおかしいのだが。
かといって俺一人ではない以上、今から準備をするのもリスクがあるか……。
そう考えた俺は静かに長とカラに注意を向け、そして「仕方ない……。」と溜息を吐いた。
「クミ先輩。持ってきていたリュックをお借りしても?」
錆を削りながら俺の後ろに立っていたクミにそう言うと、クミは無言で俺の隣にリュックを置いた。
中身は確認せずとも分かっていた俺は「なんでこんな物を……。」と内心呟きながら、作業を止めてクミに目を向ける。
「これを頂いても?」
するとクミは小さく頷き「いいよ~?」笑みを浮かべた。
「では頂きます。」
大まかに錆を落とした後、ナイフを刺すようにして錆に数か所穴を開けていく。そしてクミから受け取った物をビニール袋の中に注ぎ、そこに長の鎌を入れさせる。
「っ!何この臭い!」
すると長は暴れながら声を上げた。
さすがイタチだ嗅覚が過敏だな。
「一応刺激臭だからな。だが毒じゃない。」
俺は指にソレを付けて舐めて見せる。
「このまま1時間我慢してくれ。」
そう言うと長は「1時間!?」と目を見開いた。
「ところでユウマくんよぉ?なんであんなことを言ったんだ?」
袋を支えるついでに鎌の錆を見ていると、後ろからアフロが話しかけてきた。
「それはこの部活の方針がUMA達と仲良くなる。だからですよ。正式書類では多少変えるつもりですが部活の発案者であるクミ先輩の考えた方針通りにするべきでしょうし。」
アフロは頷きながらも、少しして首を傾げた。
まぁ聞きたい事はわかる。それならばなぜあそこまで威圧する必要があったのか……だろ?
単純に友達になるためならばあの行動に意味は無い。ただ友達になるためならば……。
俺はアフロが言葉にしなかった疑問への答えを口にする。
「優位に立つため……ですかね?」
その瞬間、後ろのアフロがハッと声を出した。
そう、友達になるためならば威圧はいらない。むしろ威圧をしない方が友好的にはなりやすかっただろう。
しかしカマイタチ共は人間を敵視していた。カラは口にはしていないが長の「カラ!?だって人間は敵って!!」と言う言葉から、長の人間への敵対心はカラやその他のカマイタチから伝わった幼い頃からのものだろう。
ならば言葉だけの契約で友達になった、だけでは意味がない。ではどうすればいいのか。
それはこうだ。
<過程1>従順な姿を演じる。
少しも拒否することなくカラに着いて行ったようにだ。
そこでカラの中で俺たちへの警戒心が少し弱まる。
<過程2>普通を演じる。
カラの名前を褒めたように。
カラが喜んだ事からカマイタチも人間と同じように互いを褒め合うのだろう。
もし褒められれば嬉しい、と言う概念が無ければ怪しまれるというリスクもあったが、俺の読み通りだったからいいだろう。
これで俺たちが悪い奴という考えは無意識に小さくなる。
<過程3>威圧する。
例を交えた事実と表情を使って威圧を放ったように。
カマイタチ達は俺たちを甘く見始めていた。
ならそこで主導権を握ればいい。
甘く見ている状態を1。警戒されている状態を0。そして俺が威圧している状態、つまり俺達人間の方が主導権を握っていると気付かせた状態を-1。
やはり印象的にするのは差を作ること。
0から-1に行く<1の差>より、1から-1に行く<2の差>の方が印象が強い。
結果俺の威圧はただの威圧よりも強い印象を与えたはずだ。
印象は感情に影響しやすい。今回の印象は恐怖や不安を与えるもの。
あとはここで選択肢と考える時間を与えればいい。俺と言う人間を背負って長を救うか、否かを選ばせたように。
人間、いや未来の事を考えられる生物に選択肢というものを与えた時、どうしてもリスクを優先して考えてしまう。
リスクがわからない場合はそれがどんなものか考え、考え、考え、そして今ある情報から予測する。
あの時カマイタチ達にあったのは俺への警戒心と恐怖、そしてリスクの謎だ。
カマイタチ達は考える<こんな人間共の考えることだ、きっと酷いリスクだろう>と。
そう、カマイタチ達は勝手に俺らへの恐怖を増大して行く。
この時、他の人間が下手な事をすれば台無しになる可能性もあったが俺が放った威圧のお陰で何もしなかった。
<過程4>最後に困惑させる。
<友達になってくれ>と頼んだように。
俺の駆け引きを水の泡にするような交渉内容。しかしこの内容にカマイタチ達は困惑する。
<あそこまでの威圧をしておきながらしておきながらする頼みごとではない、きっと裏があるはずだ>と。
しかしカマイタチ達は自分自身気付かない。その考え方をしている時点で受け身、つまり俺の事を上と認識していることに。
あとは予定通り友達になるだけだ。
友達になるだけで長を救えるのならば断らないだろう。
それが言葉だけの契約だったとしても、俺を警戒し上として認識しているのならば。今はそれで十分だ。
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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