二度目の恐怖 修正済み
俺たちは湖の辺で荷物を下ろし、疲れ果てたツチノコを囲むように地面に立っていた。
「まずは濡れた体を拭きましょうか。」
俺は万が一に備えて防水袋に入れておいたタオルをトウカ、アフロへと配り、そしてクミへ配ろうとすると、クミはすでに自前の濡れていないタオルで顔や腕を拭いていた。
そう言うところは完璧なのか。しかも防水まで……。
「さて、これからどうしましょうか?」
そう言いながら服を脱いで上半身裸になると、トウカは「キャッ」と赤らめた顔を手で覆った。
何を今さら……毎年水泳の授業で男子の裸は見ているだろう……が?
違う、これは照れや恥ずかしさによる紅潮ではない。
トウカはフー、フーと鼻息を荒げていたのだ。
興奮……。
男の裸を見て興奮しているのか、トウカは………。
すると「どうするって、やっぱりカマイタチを助けるんだろ?」と、俺と同じく上半身の服を脱いで体を拭いていたアフロがそう言った。
やはりそうなるか、カマイタチが俺たちを殺そうとしていない事は分かったしな。
そんな事を考えながらズボンを下ろすと、アフロは「ドリャァワィ!!」と叫びながら俺の下半身を女子から隠すようにタオルを広げた。
どりゃぁわぃ?
「ユウマくん!女の子前で裸になるなんてどんな変態だよ!!」
「………下着は脱いでいませんが。」
「せめて木陰に隠れろよ!」
「失礼。では……。」
そう木陰に向かう途中もアフロは溜息を吐きながら俺をタオルで隠し続けた。
俺とアフロが着替えて女子2人の元へと戻るとトウカは大量の鼻血を出して倒れていた。
古い娯楽作品か……。
「ユ、ユウマ先輩の、は、はだ、裸……や、柔肌………ぁんっ♡」
おい待て。言いたいことは山ほどあるが、まず1つ言わせろ。
喘ぐな……。
俺とアフロが互いに見張り合う間にクミは木の陰で着替えた。
ツチノコは俺のリュックの中で寝かせている。
そしてカマイタチに「ついて来い」と言われた俺達は、ツチノコを俺のリュックの中で寝かせ、着替えていないまま気を失ったトウカをアフロが抱えて歩いていた。
「何で俺がトウカちゃんを抱えないといけないんだ?というかトウカちゃんは濡れたままだから俺まで濡れてくるんだが……。」
………。
「クミ先輩が同性とは言えど勝手に脱がせるわけにもいきませんからね。それに………アフロ先輩も気付いているはずです。」
単純に、今のトウカを抱えるのは嫌だ。
すると俺の顔を見たアフロは何も言わなくなった。
今の俺は、まるで裸でおしくらまんじゅうをしているオヤジ達を見たような顔をしていることだろう。
地下とは思えない森の中を歩いて行くとあちこちの木の上から何かの気配を感じた。
「チッ……。」
その木々の葉の中では7〜8匹のカマイタチが息を殺していたのだ。
かと言って何か危害を加えられたわけでもない今、こちらから何かをするわけにもいかず、存在を感じながらも俺達の前を歩くカマイタチに続いた。
「俺たちはどこへ案内されているんだ?」
そう聞くとカマイタチは振り返ることもなく、「長んとこだ。人間。」とだけ言って歩みを進めた。
人間。
そう、俺は人間だ。カマイタチとは<違う>。
つまり分からないのだ。そしてそれは互いに言えること……。
もし相手が人間なら俺の力は相手に容易く伝わる、人間を知っている分容易く比較できるからだ。
しかし種族が違うもの同士の場合は比較しずらい、まして人間というものを深く知らないカマイタチにとって俺の力は伝わりにくい。事実カマイタチはあの落下時の俺を見るまで俺を一般的な人間と同列視していた。その一般的な人間をどこで知ったのかはしらないが、それは<今まで欺いてきたもの><欺ける程度のもの>だったのだ。でなければ種の存続がかかる俺達をここには呼ばないだろう。
いわばなめていた……互いに。
まさか原理も分からない、分かりえない能力を使うとは、使えるとは思ってもいなかった。
だが俺達の目的は敵対ではない。
まずは対等に………分かり合う。
「人間はやめろ。俺は霧崎 優真だ。お前の名前は何だ?」
するとカマイタチは足を止め、ゆっくりと振り返った。
「オラは……オラはカラだ。空と書いてカラ。」
漢字………。
「いい名前だ。」
動物はどういう仕草をするか分からないために、カラが嘘をついているかは分からない。が、今のところは信じておくことにしよう。
すると「私も私も!」と声を張ったクミが割って入ってきた。
その大人げない立ち振る舞いに溜息を吐き「クミ先輩……。」と呟くと、先に名前を知ったカラは復唱し、クミの自己紹介を聞く前にアフロに目を移す。
「ユウマとクミ、あとは鼻垂れか。覚えとこう。
カラが真面目な声でそう言うとアフロは「うおぃ!!」と声を上げた。
「鼻垂れって俺か!?俺の事か!?」
ほう、アフロは鼻垂れという名前が気に食わないのか。
「適当にアフロとでも呼んでくれ。」
アフロはそう言うと「まぁ、本名じゃないがな。」と不敵に笑った。
「ユウマにクミにアフロ……その娘は何と言うんだ?」
そのカラの質問にクミが「トウカちゃんだよ。」と教えると、カラはブツブツと俺ら4人の名前を復唱したのだった。
「、ぅ………ぅん?ユウマセン……?パァンチ!!」
「ゲフッ!」
目を覚ましたトウカは抱えられているのがアフロと気づくや否やアフロにアッパーを食らわせた。
アフロの腕から落ちたトウカは、回転しながらも上手く着地すると「何でアフロが私の事抱き抱えているんですか!!」とアフロを睨みつける。
しかし仰向けで倒れ、体をピクピクと痙攣させているアフロが答えるはずもなく。それを見下ろしていたトウカはゆっくりと俺に顔を向けた。
やめろ。
恐怖したのは小学校に入る前の頃、ある男が二股をかけた女2人にリンチされ、その後女2人が殴り合っているのを見た時以来。恐怖と言う感情にはまだ慣れて……。
………おい待て、何で目が光ってる。
トウカの目は赤く光っているように俺には見えたのだ。
「お前さんら、ついたぞ………で、何しとる?」
暗い洞窟の前で止まったカマイタチは、俺達の姿を見て溜息交じりにそう言った。
そんな俺達を一歩後ろで眺めるアフロは片手を額に当てて溜息を吐き。
俺には目もくれないクミは洞窟に目をキラキラと輝かせ。
そして俺は平然としていた。
そう、平然だ。
俺の右足に抱きつき、息を荒くしているトウカなど決して怖くない。
もう一度言おう、決して怖くは無いのだ。
「まぁいい、長はこの奥にいる。神経質なのであまり騒がぬようにな。」
俺達は「分かった」と頷き、洞窟へ入っていくカラに続いた。
洞窟内は確かに暗かったが外の光が入り、一般的な人間でも暗視ゴーグルを着けずとも見える程度の暗さだった。
まあ明るいといえどその外も洞窟の中なのだが……。
まぁ、見えることよりも、気付かれないためにわざわざ暗視ゴーグルをつけなくてもいいことの方が助かるな。
「なんだい?こんな洞穴に長って、天照大御神か何かなのかい?」
起きたツチノコは俺の肩に出て来てそうぼやくと、その言葉にカラは「あながち間違いではないな」と溜息混じりに苦笑した。
なぜ人間と関わりのないはずのお前達が天照大御神を知っている。
「長は昔からサボり症でな、オラらの鎌が水に弱いにもかかわらず手入れを怠った。お陰で長の鎌は錆だらけになり、今では『醜い姿を見せたくない!!』と、この洞窟に籠ってしまったのだ。」
水が苦手な理由はそれか。
「人間で言う歯磨きをサボって歯石が溜まって感じか?」
そう言いながら、アフロは暗闇の中、白い歯を光らせた。
「一応そうでしょうね。」
籠った理由は天照大御神からはかけ離れているな。
「しかしサビが理由で引きこもるとは……。」
そう呟くとカラは振り返り「鎌は我々がカマイタチだという証のようなものだ。鎌の無いカマイタチは死んだも同然。ただのイタチだ。」と自慢気に鎌を光らせた。
「………そうか。」
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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