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霧崎UMAの優真譚  作者: 尾高 太陽
File.6
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9-2

 ・飛行機内

「ふぃー!やっと机が使えるね。」

 自分の座席に座るなり、前列座席のシートに畳まれた机を出して、その上にノートパソコン一台を置いた。

「もう少しで離陸しますよ?」

 俺達は搭乗前に通信設定はしたので通信設定をしている訳ではないだろう。

 そう注意するとクミカは「分かってるよ~。」と微笑した。

「ちょっとやっておきたい事があってね。」

 レオの時のように何か企んでいない事を願おう。




「さて。」

 離陸した飛行機が水平飛行に入り、機内通信サービスの使用が可能になったとアナウンスが流れるなり、俺達はノートパソコンを開いた。

 ガブリエルが気を利かせてくれたらしく3人列に座った俺達は隣を気にする事なく、3つの机に5台のノートパソコンを並べる事ができた。

「と言っても昨日は夜通しプレイしていましたから休みたければ気にせず休んでください。」

 俺の左側にクミカ、ガブリエルの順で座る2人にそう言うと、2人は返事をしたものの、休む事なくゲームを続けた。



「わぁ!すごいねぇ!」

 飛行機を乗り換え、同じく3人席に同じ順番で座ってゲームを続けていると、真ん中に座るクミカが、5台のノートパソコンの内の中央の一台を眺めてそう言った。



 今、俺達がプレイしているゲームの世界大会の予選が行われている。

 そこで昨年の世界大会進出チームを1回戦で敗退させたチームが現れた。

 そのチームは、個々のレベルが高く、さらに完璧と言えるようなチームワークで勝利を収めた。

 その試合をライブ配信で観戦していた観戦者はすぐさま情報を拡散し、今となっては新たな優勝候補などと囁かれている。

 ただ、そのチームは、過去の大会で成績を残した事もなければ、参加した経歴すらなく。優勝経験者がアカウントを作り直したのではないか。巨額の賞金を払えなくなった運営がプロを雇ったのではないか。新開発されたAIプレイヤーではないか。などと噂されている。



 クミカの目の前にある端末には、Live配信されているゲームの予選大会、その観戦者達のSNSでの会話が映し出されていた。

「ここまで早いとは思いませんでした。」

 それを尻目に俺は呆れを口にすると、ガブリエルも溜め息を吐いた。

「相手が悪かったといいますか………。」


 真ん中の端末以外の4台でプレイをしながら、そんな会話しているとクミカが1つのコメントを口に出して読んだ。

「新たな優勝候補チーム!だってさ。」

 そう俺に向けて笑みを浮かべるクミカに、俺は溜め息で答える。

「ただの暇つぶしだと伝えたいものです。」

 するとガブリエルは小さく苦笑した。

「それはそれで目立ちそうですね。」



 だが、噂はあくまでそれは噂でしかなく。

 とある3人のプレイヤーが長い飛行時間の暇潰しのためにプレイしているだけだという現実を観戦者が知る事はないだろう、




「そろそろ潮時ですね。」

 その呟きにクミカとガブリエルが同意したのを確認して、俺は運営に棄権する事を伝えた。


「まあ南極に行く時に、帰る時に暇つぶしになるかと思って参加してただけだしね~。」

「仕事が終わって、暇になったらトウカちゃんとアフロ先輩も誘って参加しましょうか。」

 南極から帰る飛行機の中からプレイし続けて、初めて休憩した俺達はそんな会話をしながら飲み物を飲んでいた。

「別のゲームにしますか。」

 また同意が来るかと思って発言したが、今度はガブリエルからしか同意はなかった。

 同意をしなかったクミカは無言でキーボードを打っていた。

「クミ先輩?」

 声をかけてすぐ。クミカはゆっくり口角をあげると、キーボードから手を離し、「見ろ。」とでも言うかのように俺とガブリエルの顔を見た。

「これは……。」

 画面にはSNSでのダイレクトメッセージ画面が表示されている。

 その宛先に、俺は見覚えがあった。

「確か、昨年の大会で優勝した……。」

 そう言うとクミカは笑みを浮かべて頷く。

「その。優勝チームとのプレイのアポ。」

「うん。飛行機に乗る前に連絡を取ってたの。」

 やっておきたいこと。と言うとはその事だったか。

 「最後にどう?」と首を傾げて言ったクミカに、俺とガブリエルはノートパソコンを開いた。




 ・シュレメーチエヴォ国際空港 ロビー

「次が最後の乗り換えです。到着してからは忙しくなりそうですし、休んでおきましょう。」


 乗り換えのために、この空港では数時間の足止めを食らう。

 その間に休んでおこうと椅子に座ると、クミカとガブリエルも続いて椅子に座った。

 南極点から、ほぼ48時間ゲームをした状態で仕事をするのは、できなくはないが望ましくない。


「さっき機内食食べちゃったけどご飯どうする?」

 クミカがそう言うと「何か買ってきましょうか?」とガブリエルが立ち上がった。

「自分はもう十分食べたので、今は大丈夫です。」

 機内食で十分なエネルギーは摂取できた。

「んー、私もそんなにお腹空いてないかな。」

 なら何故言った。

 そんな事を思いつつも目を閉じるとガブリエルも「私も今は空腹ではありません。」と答えた。

「寝よっか。」

 クミカがそう言うと、ガブリエルは椅子に座り直した。



 睡眠というものの必要性は記憶の定着や整理、そしてホルモンによる身体の回復などの心身のメンテナンスと言われている。

 しかし超記憶能力を持つ俺は記憶の定着は不要であり、記憶の整理も起きている間に同時進行で可能。完全身体制御が出来る俺はホルモンの分泌や老廃物などの除去も自らの意思で出来る。

 つまり俺に限った話なら、睡眠の必要性は無いようなものなのだ。

 かといって寝ないわけではない。自分自身理由は分からないが、1日3時間程度の睡眠を取る。

 その睡眠も絶対に必要という訳ではなく、取らなかったからと言って何かがある訳でもない。

 ただ「寝るか。」となれば寝ると言った感じだ。

 まあ結局ショートスリーパーの俺は3時間もしないうちに目を覚ますのだが。



 そんな睡眠を取っていると突然ガブリエルが立ち上がった。

「どうしました?」

「起こしてしまいましたか。」

 いくら睡眠といえど五感は働いているからな。

「ここで私は別の便に乗ります。」

 仕事か……。

 しかし、それにしても。

「急ですね。」

 眠るクミカを横に向かい合って立つガブリエルを見上げて会話する。

 するとガブリエルは小さくため息を吐いた。

「報告する為に場所聞いたところ。私の進路と、それからの状況を逐一報告するようにと言われまして。ついさっき、数時間後に乗り換えることを報告すると、別の飛行機に乗れと指示を受けました。」

 行動の直前に指示とは、警戒されているな。

「どこまで行くんです?」

「詳しくは分かりません。」

「なるほど。まあ気を付けてください。」

 ガブリエルは小さく笑って荷物を片手に搭乗口へと向かった。

 相手の情報は知りたかったが、あれだけ警戒されているなら足がつかないように航路も遠回りしている可能性もある。

 詳しくは帰ってからガブリエル直接聴くことにしよう。



 ガブリエルが見えなくなり、俺は瞼を閉じる。

「また寝たふりですか。」

 そう言うと隣から「ふふっ。」と笑い声が聞こえた。

「バレた?」

「カマをかけてみただけです。」

 隣で「あちゃー!」と大げさに反応するクミカの声を聞いて俺は声を出さずに笑う。



 レオのいる大学に忍び込む時、クミカが外壁を登れた時クミカの才能は身体系だと思っていた。

 事実、才の学園で生き残った中でバカと噂されている奴の才能は運動や芸術などの、勉学以外に絞られる。

 しかしゲーム上とは言えど俺の戦略を見抜き、かつ本人も気付いていない弱点を指摘した時点で俺はクミカがバカでは無いと考えた。

 だがバカという噂があるという事実は変わらない。ということは事実バカかバカのフリをしているかだ。

 そして帰りの飛行機、俺はカマをかけた。「最初にバカを演じたのもきっと今は言えないんですよね。」と。

 これにクミカは「……うん。ごめん。」と謝った。つまり演じた事を認めたのだ。

 よってクミカはこの俺を騙し続け、最低でもあの一瞬、俺以上の思考をした事になった。

 そして今もまた〈俺と同等以上の存在=思考が読めない〉という仮説に当てはまるクミカにカマをかけ、引っかかった。


 つまり、俺と同等以上だと言っても俺の思考を読める訳ではないということだ。

 それすらも演技だという可能性も捨て切れないが………。

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