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霧崎UMAの優真譚  作者: 尾高 太陽
File.6
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7-8

「まさか。」

 ………。

「ここまで不快だとは………。」

 スマホのライトで照らされた足を上げると、良く言えば光沢のある粘性の高い……悪く言えばテカりヌメヌメネチャネチャした液体が糸を引いた。

「もう諦めたら?」


 ・南極 海 ニンゲン口内


 ニンゲンの口内はそれこそ粘液は不快だったが大きく揺れる事もなく、むしろバスや電車よりも揺れないために、動いていないのではないかと思うほどだった。

「…….諦めていない訳ではありません。」

 クミカの言葉に答えた俺は、そう。天井……上顎が低いために、触れないようにしゃがみこみ。出来るだけ地面……舌に触れる部分が少なくなるように爪先立ちをしているだけだ。

「とは言えど、よく座れますね。」

 出来るだけ空間の広い中央にいる俺とは違い、隅に尻を付けて座り込み、人間のような歯にもたれかかるクミカに関心する。

「帰ればお風呂に入れるしね。」

 そんなものか………。





 口内に入ってから十数分が経ち、言葉を交わすこともなくスモールの口が開くのを待っていると、クミカが大きなあくびをした。

「クミカ。さすがにここでは寝ないでくださいね。」

「流石にね。」

 そうは答えたもののクミカはまた大きなあくびをした。


 そろそろ酸素が薄くなってきたが、まあこの程度なら命には関わらないか。

 万が一に備えてスモールに確認しようと、息を吸った瞬間。

 節電のためにライトを消していた暗闇に光が差し込んだ。

「クミカ。」

 光の差し込む方から、隅のクミカに目を移すとクミカは静かな寝息を立てていた。

「……クミカ!」

「ハイ!クミカです!!」

 すると大声を上げて目を覚ましたクミカは座ったまま敬礼をする。

「何ふざけているんですか。着いたようですよ。」

 俺とクミカは上顎にぶつからないように姿勢を低くして立ち上がる。

 ん?

 するとずっとしゃがんでいたからか、立ち上がる時に力が入りすぎるような感覚がした。

 しかしそんな事は気にせず、俺達は少し進んでスモールの口内から覗くように外の景色を眺めた。


「ひゃー!すごいね~!!」

「えぇ……本当に。」


 眼前に広がるその風景は、美的感覚の欠けた俺にも分かるほどの美しい物だった。

 南極とは思えない、カマイタチの住処を思わせるような森や青い海などの自然の多い広大な土地が、地平線が見えることなく徐々に反り返っていき、俺達の真上にも逆さまになって存在しているのが雲の隙間から霞みがかって見えた。


 つまり、俺達は重力が外に向かった球体の中にいたのだ。


 そんな球体の中はあちこちから雲よりも高い、カマイタチやジャッカロープの住処で光っていた物を巨大にしたような光る結晶が生えており、空中で他の結晶と交わり別れ、球体の中央部分以外に張り巡らされた立体な蜘蛛の巣のようになっている。

 そしてその中央部分には小さな太陽のような物が光り輝いていた。


 スモールの口から出ると、また力が入りすぎる感覚に襲われた。

「ん?」

 しかしそれは間違いだった。力が入りすぎるのではなく、力が作用しすぎていたのだ。

 スモール口から飛び降りると、俺とクミカは少しの滞空時間を経て着地する。

「重力が小さい?」

 試しに軽く跳んでみると、俺は意思したよりも明らかに高く跳び、そして時間をかけて着地した。

「………小さいね。」

 俺達はクミカの呟き以外に何も言える事はなかった。


 周囲を見渡すと俺達は河辺にいた。

 スモールは浅瀬で腕立て伏せのような態勢になり、俺達が降りやすいように地面ギリギリまで下げていた頭を上げたところだった。

「感謝する。」

 そう言葉にするとスモールは南極よりも素早く動きで頷いた。

 スモールの顔から視線を下ろすと南極では海に浸かって見えなかった腹から下が見えていた。

 胴体から足にかけて体が細くなっていき、その途中には尻びれを思わせる小さなヒレが左右に2つ、そして最終的に足は鯨のような尾びれになっていた。

 その全長15メートルほどある巨体が、アシカのように浅瀬に乗り上がれるのは低重力ゆえなのだろう。


「ユウマ様。クミカ様。」

 すると突然、気配のなかった背後から日本語で、敬称を付けて名を呼ばれた。

「ええ。人がいなければどうしようかと思っていた所です。」

 振り返るとすぐ近くの木の陰に、身長190㎝ほどあるであろう白人を思わせる顔立ちのゴールデンブロンドの長髪の男が、白いローブを身にまとって立っていた。

「それはそれは。」

 男は朗らかに笑みを浮かべて俺達に近づく。しかしその歩き方は定重力など思わせない素早い歩き方だった。

「ではまずこれを。」

 そう言った男に俺達は金属製のバングルのような物をそれぞれ1つずつ渡された。

「これは?」

「付ければ分かります。」

 俺とクミカは男の言葉の不信感に顔を見合わせつつ、何を出来ることもなくとりあえずバングルを腕に付ける。

「っ!」

 すると付けた瞬間、身体全体が押される感覚……重力を感じた。

「これは……。」

「お二人の元いた場所と同じ重力にしています。お二人はここの重力に慣れていないでしょうから。」

 重力を制御しているのか?

「では貴方はここで待っていてください。」

 男はそうスモールに言うと「それでは行きましょう。」と俺達に背を向けて、芝のような短い草が茂った森を進んで行った。

「「………。」」

 俺とクミカは再度目を合わせ、やはり何を出来るでもなくスモールに会釈をして男に続いた。



 森には見たことのない様々な動植物が溢れていた。

 それらは人間に怯えており、それはここでも人間が生物の命を奪っている事を意味している。

「貴方は?」

「私達の名前はそちら側の言語と発音では伝え切れませんので……お好きなようにお呼びください。」

 男は振り返らずにそう答えた。

 俺達に言語を合わせていたのか。だがお好きなようにと言われても情報屋のように特徴もないしな……。まあここにいるのは男1人だから適当な二人称でいいか。

「どうして名前を?」

「お二人は特異点ですので。」

「この世界はどうですか?」

 すると俺が〈特異点〉という言葉の意味を問う前に問いかけられる。

「まず物理法則を覚えて貰いたいものです。」

 そう言うと男は声を出して笑った。

「覚えていますよ。ただあなた方が法則に当てはまる答えをまだ知らないだけです。」

 足音を立てないような歩き方で俺達の前を歩く男はそう言った。

「それは一体どう言う意味で?」

「お二人がここの存在をどう認識しているかは分かりませんが、その認識と考えが正しいとは限らないという事です。」

「抽象的すぎます。」

「地球が二重の層からなる空洞で、その内側の層が高速回転する事で重力が外に向かっているのがここと考える事も。ここが全く別の星、世界、次元と考える事も。ただの地下空洞にいるにも関わらず、内側にいると勝手に錯覚、もしくは私達に〈見せられている〉と考える事もできる。認識が正しいとは限らず。1つの認識でも様々な考え方が可能という事です。」

 見せられている?

 俺は反り返っていく地面に合わせて、様々な向きで存在する木や水を確認する。

 これが錯覚………。

「答えは何です?」

 そう聞くと男は少しの間を置いて答えた。

「あなた方は特異な存在です。よってここに来る事が出来ました。ですが本来〈こちら側〉は〈そちら側〉とは最低限関わらない決まり。特異とはいえど過度な情報提供はできません。」

 なるほど………別の答えは出たな。

 向こうが関わらないと言っているのだ、ここの存在はネイトやガブリエルには伝えないべきだろう。


「分かりました。ところで今どこに向かっているんです?」

 答えの出た今。仕事としてここに滞在する理由はないが………。

「そちらでは様々な呼び方をされているようなので名は明かしませんが、こちら側の国へ。」

 すると男は立ち止まり、俺達は男の一歩後ろで止まる。

 男が立ち止まったそのすぐ目の前からは地面がなくなり、崖になっていた。

 崖かなり高いもので、上に立つ俺達からはさっきよりも広大な自然がよく見える。

 そしてその自然の中には、河のすぐ近くに立つ巨大な結晶の根元に並ぶ近代的な建物が小さく見えていた。

「ここからはコレを使います。」

 男は振り返り。最初に出会った振りに顔を見せると、俺達に渡された物と同じバングルを手首に付けた左腕を、見せるように上げた。

 お二人は私が操作しますのでそのままでいてください。

 男は手を下ろし数秒動かなくなる。


 その様子をただ眺めていると男は突然、静かに空中に浮かび上がった。

 @ODAKA_TAIYO

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 見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。

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