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霧崎UMAの優真譚  作者: 尾高 太陽
File.6
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7-7

 ・南極

「少し準備をしてくるから水中に隠れて待っていてくれ。」

 そういうとニンゲンは頷き、波を立てながらゆっくりと海へと入っていった。



「で、準備って何をするの?」

 海岸から離れた場所に停めていたスノーモービルに着くとクミカはそう首を傾げた。

「まあいろいろですかね。」

 俺はそのいろいろの前にガブリエルに電話をかけ直す。

 そして呼び出し中のスマホを肩と耳で挟んで両手を自由にした俺は、自前で持って来ていたバックを荷台から取り出して肩にかけ、作業を始める。


「もしもし。」

 作業の1つである燃料の補給をしていると、呼び出していたスマホからガブリエルの声が聞こえた。

「先程は失礼しました。」

「いえ。ですが何が?」

 ガブリエルは淡白にそう聞いてきた。

「少し休憩がてら海岸に行っていたんですが、さっき言っていた鯨が跳ねまして。その波が海岸まで来たので一度退避していたんです。」

「なるほど。では先程の続きですが。」

「その件ですが一度基地に戻ろうかと思います。」

 聞いてきたくせに大した返事もなく、次の話へと移ったガブリエルの言葉を遮って俺はそう伝える。

「………かしこまりました。では詳しい話は戻ってから。」

 すると遮られた事を気にしているのか、ガブリエルは少しの間を置いてからそう言った。


 通話を切る頃には燃料は補給し終え、次の準備へと進んでいた。

「クミカは何も持ってきていませんでしたよね?」

 クミカが「え?うん。」と頷いたのを見て俺は最後の作業へと進む。


 まずスノーモービルを2つ前の基地の方向へ向け、ネイトに準備させたガムテープでスノーモービルのハンドルを固定し、アクセルを全開にして同じく固定する。

 結果的に言えば食料や道具を乗せたスノーモービルは誰も乗せる事無く走って行った。

「あらら……。」

 その様子を、何をするでも無く眺めていたクミカは気の抜けた声でそう呟く。

 俺が起こし、クミカが見逃したこの状況だが一般的な人間なら非常にまずい。

 マイナスに数十度の世界に人が大した装備もなく残されたのだ。

 その上一番近い基地でも300㎞はある。

 よほどのサバイバル力がない限りは一般的な人間ならまず死ぬだろう。

「………さて行きますか。」

 そう小さなバックを背負い直した俺はニンゲンのいる海岸へと向かった。


「なんであんなことしたの?」

 すると手ぶらのクミカは俺の後を付いてそう言った。

「あの全てにGPS、盗聴器が大量に仕込まれていたんです。」

 するとクミカは「あはは〜。信用されてないねぇ〜。」と無邪気に笑う。

「でも隠す必要はないんじゃないの?」

 クミカの言葉に俺は目を向けることなく溜息を吐く。

「地下世界、もしくはそれに準ずる何かが今の人類に見合っているかどうかを見てからでも遅くないでしょう。それにU.M.A研究部としてはニンゲンが人類に発見されて騒がれるのは避けたいですから。」

 そして俺は「それ故に」と付け加える。

「今回ばかりはガブリエルさんも警戒しないといけませんね。」

「ふーん。その心は?」

「今回の仕事内容はスパイも含まれます。その全ての情報はガブリエルさんを通してどこかへと流れるのでしょう。情報を止めておきたいなら自分とクミカで止めなければなりません。」

 もちろん俺とクミカで止める事が前提だが……。

 俺はクミカを一瞬横目に見て未だに感情の読み切れない事実を確認し、前に向き直った。

「ああ、だから電話で嘘ついたんだ。」

「ええ。速度は抑えましたがあの燃料では走り続けるのはせいぜい数時間です。もちろん走り続けることが大前提ですが……。ネイト、ガブリエルさんがGPSを通して監視しているスノーモービルが動いている間は警戒はされないでしょうし、止まってからでもどこで降りたかはすぐには分からないでしょう。」

 気付きずらいようにはしたが気付かれない訳ではない。

 出来ることなら気づかれる前に終わらせたいものだが………。



 海岸に着くと、どこからか見ていたのか水中からゆっくりとスモールが出てきた。

「どこに行けばいい?」

 そう問うとニンゲンは下半身は海に入ったまま俺達の立つ氷の上に両手を付いて体制を低くする。そして俺達の目の前に顔を寄せると大きく口を開いた。

 まさか………。

「入れと?」

 スモールは口を開けたまま頷く。

「………。」

「どうしたの?まさか怖い?」

 入るのに躊躇していると、クミカは俺を笑いながらスモールの口の中へと入った。

「やっぱり基地に帰る?」

 するとクミカは少し高いスモールの口の中から俺を見下ろして皮肉を言う。

 この際、口の中という不快感は諦めよう。

 俺は溜息を吐きながらクミカにこう言った。

「まさか。」




 ・海星学園 裏山 森

 ヒビの入ったスマホに映し出された3DCG調のアフロを私は眺める。

「………アプリ消去。」

 そう言って操作しようとすると画面の中のアフロは「わー!!待った待った!!」と慌てた様子で大きく手を振って私の動きを止めさせた。

「このパスワードからログインされたらそう言うようにプログラムされてたんだ!!」

 プログラム?

「じゃあ貴方はアフロ先輩じゃないと?」

 そう聞くと画面の中のアフロは腰に手を当て説明をし始めた。

「俺は大炊御門 亜風呂の経験と何百もの選択傾向からなる擬似的な自我を持った限りなくアフロに近い人工知能だ。」

 あらかじめAIって事を聞いていたからなんとなくは分かっていたけど。やっぱり表情が分かりにくい……というか少ないなぁ。まあ表情なんてないと思ってたくらいだからまだマシだけど………。

「あ、あとアフロは持ってない膨大な情報を持ってるぜ!」

 それは私がインストールした情報の事かな?

「名前はあるんですか?。」

 すると画面の中のアフロはAIながらも溜息を吐きながら肩をすくめた。

「俺はアフロにはいつも〈2(ツー)〉って呼ばれてたぜ。」

 まあ無難に考えてアフロ2のツーでしょうね。

「私はいいと思いますよ?」

 するとアフロ、もといツーは何を言うこともなく照れ笑いを浮かべた。

 ここでつけ上がらないのはアフロとは少し違うなぁ。

 小さく笑うと画面の中のアフロが首を傾げていた。

 見た目はそのまんまだけど……。


「それで?私は一体何をしたらいいんです?」

 一応経験させろとは言われているけどもう少し詳しく教えて欲しい。

「アフロからはアカウントの持ち主を補佐しつつ、アフロの経験やインターネットから得られない情報を得ろとだけ言われた。」

 アフロの経験やインターネットで得られない情報……それって結局経験をさせろって言われてる?

「………ハァ。」

 私は溜息を吐いて、地面に座り込む。

 アフロの手紙にはより人間に近付けたいと書かれていた。

 もう充分人間らしいと思うけど……。

「内容は理解しまた。詳しくはどうしておけばいいですか?」

 するとツーは画面の中から画面下部分を指差した。

「ここから上にスワイプしてホーム画面に戻ってくれ。」

 私はツーの指示通りに操作してアプリの画面を閉じる。

 しかしホーム画面に戻ってもツーの声が途切れる事はなく、その後も指示が続いた。

「そしたらバックグラウンドからこのスマホのカメラとマイクを使って勝手に周囲を観察しとくから放置しといてくれればいいさ。ああ、バックグラウンドからアプリは閉じないでくれよ?そうなったら本体との接続が切れちまう。」

「……本体?」

 ふと気にかかった言葉を口にするとツーは画面にイラストを表示させて説明した。

「トウカちゃんと話してる俺はこのスマホの中に全部入ってるわけじゃなく、合宿棟にあるスーパーコンピュータのAIサーバーと接続してるだけなんだ。だから逆に見られたくない事があったりしたらバックグラウンドからアプリを閉じてくれれば本体との接続が切断されてプラバシーは守れるぜ!」

 アフロはこう言うところがきちんとしていると言うのがなんか腹立つ………。

「なるほど……。まあなんでもいいですが、邪魔はしないでくださいね?」

「その辺は心得てるさ!」

 ツーは満面の笑みで親指を立てた。

「じゃあ何か用があったらバイブレーションをして伝えるぜ!」

 そう言って説明し終えたツーはまるでスイッチが切れたかのように喋らなくなった。

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