7-4
「おぉーー!!!ペンギン!!!」
南極点からノンストップで交代しながらスノーモービルを動かし、俺達は海辺に到着した。
周囲には数十羽のコウテイペンギンが人間を恐れる事なく佇み、クミカはそれに近づいて行った。
「ペンギンが好きなんですか?」
しゃがみこむクミカの後ろに立って問いかけると、ペンギンから近づかれテンションの上がっていたクミカが気の緩んだ顔で振り返った。
「ペンギンは天使!」
「………そうですか。」
俺は離れた場所に止めたスノーモービルに戻りスマホを開く。
ネイトから渡されたポケットWi-Fiに繋いでガブリエルからの連絡が無いことを確認する。
まだか…。
正直に言おう。この広大な土地から地下世界への入り口をしらみつぶしに探すのは不可能に近い。
確かに時間さえあれば問題はない。なんなら南極の氷が溶けきるのを待てば今よりは探しやすいだろう。だがあいにく俺達にはまだ仕事が残っている。
それを考えれば俺達だけで探すのは不可能だ。
ネイトにも何か手がかりがないか聞いたが「過去にそれらしき物が現れた事はある。ただ、依頼したからと言って何でも言える訳じゃあねえ。今回はこっちはこっちで探すからそっちはそっちで探してくれや。」と教えてくれなかった。
まあ〈現れた事がある。〉と言う事は一時的に現れるものか場所が変わると言う事だ。その条件が揃う場所は氷の裂け目か海だ。
流石に南極中のクレバスを探す訳には行かず、取り敢えず海に向かってみたが…。
「これはこれで無理だな。」
そう嘆くと海から鯨の潮吹きが上がった。
南極 某基地3
「まあどこも同じようなものですね。」
ここの基地でも燃料の話は通っていたが基地には入れなかった。
やはり他の国には知られたくない何かがある…….。
「でもまあ燃料は貰えたんだし。」
「……そうですね。」
俺はクミカがハンドルを握るスノーモービルの後ろに乗った。
しばらく走ると俺の前でクミカが「そういえば」と首を傾げた。
「どうしました?」
「さっきの補給した燃料、なんで少なくしたの?」
「ここからはさっきまでとは違い比較的こまめに基地があります。なので最低限の燃料だけを積んでいるんです。大量の燃料はむしろ重たくなるだけですから。」
するとクミカは「なるほど~。」とトーンの下がった声で答えた。
「どうかしましたか?」
「いや、私とは考え方が違うな~って。私は持てるだけ持ってたいタイプだから。」
珍しくクミカと考えが割れたな。
最近クミカははバカなフリもしなくなった。それ故に俺と良く似て、そして俺と同等以上の思考をよく見たが、こうやって考えが割れたのは初めてだ。
まあ、かといって答えを求めるような事でもないが。
・海星学園 裏山 合宿棟
「終わったぁ!!!」
アフロからの頼み通り日本語、アメリカ英語、イギリス英語、中国語、韓国語、ロシア語、台湾語、アラビア語の国語辞典と文法辞典、そして漢字辞典と方言辞典をダウンロードした。
ところまではまだよかった……。
それを報告するなり「今度は日本の方言辞典と発音、そんでそれが終わったら今ダウンロードした国の法律を全部ダウンロードしてくれ。あと時間が余ったら片っ端から図鑑とかのダウンロードも頼む。」などと言いやがったせいで、結果的に1日ぶっ通しで大量の情報をダウンロードする羽目になったのだ。
今となっては生物から乗り物までのあらゆる図鑑をダウンロードし、このアプリは恐らく私よりも賢くなっている。
「おう、お疲れー。助かったよ。」
そう今だにノートパソコンにかじりついたアフロは目を向ける事なくそう呟いた。
「明日もちょっとして欲しいことがあるから、また来てくれ。」
無機質に言われたそのアフロの言葉に、私は帰ろうとしていた足を止めてこう言わざるを得なかった。
「マジですか………。」
・南極
「南極の都市伝説って良く聞くけど、来てみたらただただ一面の白だよね。」
そろそろ南極点を離れてから24時間経つ。右手に海が来るように海岸沿いに走っているとクミカがそう言った。
「まあ、その都市伝説を今探していますがね………。」
南極の都市伝説か…。
まだ見つけていないために断言は出来ないが〈氷に覆われた過去に滅亡した都市〉や〈地球内部への出入り口〉と言うものを今探している。
しかし南極には他にも多くの都市伝説がある。
UFOの基地だとか巨大なタコやイカ。
UMAのニンゲン。
ニンゲン
北極や南極に現れるUMA。
南極や北極で目撃されて、基本は海中に生息している。
数倍から数十倍の白い人型の姿や、人型の下半身にくびれなく頭のついた姿、上半身が人型で下半身が鯨と言う様な目撃もある。
北極に住む物をヒトガタ、南極に住む物をニンゲンと言う。
まあ今は仕事中だから関係はないな。
「南極の氷の中には堕天使が閉じ込められていると言った都市伝説もありましたね。」
「………ヘぇ~。」
クミカは無感情に言った。
そっちが振ってきたんだろうが。
そう念じるなり、また潮吹きが上がった。
・海星学園 高等部棟 生物室(U.M.A研究部室)
「あれ?今日はトウカだけかい?」
部室で手持ち無沙汰な時間をお菓子を食べながら潰しているとどこからか現れたツチノコが机の上でそう言った。
「えぇ。ユウマ先輩達は南極ですし。アフロ先輩も仕事のおかげで公欠取り放題なのをいいことに、多分合宿棟で夜通し今も作業してるんじゃないですかね。」
部室に置かれているU.M.A研究部用の指紋認証付き冷蔵庫からツチノコの餌…もといおやつであるウズラの卵を取り出してツチノコの顔の前に持っていく。
「で、放課後来るように言われてるんですよねー。」
ツチノコは舌をチロチロさせた後大きく口を開けて卵を丸呑みにした。
「ま、私にとってはなんでもいいんだけどね。」
そっちが聞いてきたのに………。
・南極
「ユウマ?連絡は来てないの?」
一応こまめに見る様にはしているが今回はクミカに催促されて見ることにした。
一度スノーモービルを止めてポケットWi-Fiと接続する。
すると溜まっていた通知が連続の通知音を起こした。
「ガブリエルさんからは来てないようですね。」
そう言ってWi-Fiを切ろうとしたとした瞬間、スマホから着信音が鳴った。
「ガブリエルさんにはやって貰いたい事があります。」
一瞬の沈黙の後ガブリエルは頷いた。
「その前に。ネイト、流石にこの南極をしらみつぶしに探すのは無理がある。確証の理由、もしくは予測された場所、逆に調査し終えた場所を教えてくれ。」
するとネイトは静かに首を横に振った。
「過去にそれらしき物が現れた事はある。ただ、依頼したからと言って何でも言える訳じゃあねえ。今回はこっちはこっちで探すからそっちはそっちで探してくれや。」
分かっていた返答。そして〈現れた事がある〉と言う確証を聞いて俺はガブリエルに視線を戻す。
「この調査は国が行なっています。そしてその確証と言うのは今も聞いた通り過去に地下世界、もしくは地下世界に準ずる何かに関する物を発見した事があるから。ですがその場所をネイトに言う気、もしくは権限は無い。」
するとガブリエルは俺の言いたい事が分かったのか呆れた様子を醸し出した。
「ガブリエルさん。貴方には確証の詳しい情報とその場所を調べてください。」
「私にはそれ程大きな権限も、国からの後押しもありません。その調査には少々無理があるかと。」
それくらい分かっている。
「国なんかよりもよほどの後押しが今この瞬間に出来たじゃないですか。国家機密であり、そして最も警戒される存在であるこの霧崎 優真が頼んだんです。貴方をトカゲの尻尾にする国も、この基地の大元の国も。土下座して頼むなりナイフをかざして脅すなり好きにすればいい。なんなら言うことを聞かなければこの霧崎 優真が暴れるとでも言っても……。貴方には今、国など目では無い後押しがある。」
するとガブリエルは小さく笑った。
「分かりました。お任せください。」
俺は応答ボタンをタップしてスマホを耳に当てた。
「どうですか?」
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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