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霧崎UMAの優真譚  作者: 尾高 太陽
File.3
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ウォータースライダー 修正済み

 森に入って15分あたりで、トウカの体力が底をついた。

 カマイタチの行く道は想像以上に険しく、体の小さなトウカには歩幅的にも無理があったのだろう。

「大丈夫?」

 トウカは額に汗を流しながら、辛さを隠しきれない笑顔を浮かべた。

「へ、平気です!」

 限界か……。

「どうする?戻る?」

「いえ!ついて……いきます!」

 まあ戻られても送るのは面倒だが……仕方ない。

 リュックを腹側に持ち替えた俺は、少し坂が緩やかになった場所でトウカを追い越し、その前にしゃがみ込む。

「負ぶうから乗って。」

 トウカは一瞬険しい表情を浮かべたが、すぐに両手を前に出して「いえ!い、いいですよ!」と苦笑いを浮かべて言った。

「トウカちゃん。会って1日の自分が言っても説得力はないけど。さっきまでの甘く伸びる声じゃ無い。」

 そう言うと、トウカはハッと口を結んだ。

「ムリをするのはだめだ。それでも乗らないのなら、お前は歩くのが遅くて迷惑だから乗れ。って言おうか?」

 よく言った!我ながら心にもない事を自然に言えている。優しい笑み、表情も完璧だ。

 するとトウカは俺の背中に負ぶさり。「もぉ、そんなに私と触れ合いたいんですかぁ?」と、甘え声を絞り出した。

 誰がそんな貧相な体に触りたいと思う。

「フッ……。」

 ………あ?……今俺、笑ったのか?

 ここ2日接待モードでいた時間が長かったからか、無意識に笑顔を作ってしまっていたらしい。



 疲れか、寝不足か、眠ったトウカを背中で感じながら、俺は1つの疑問点に悩まされていた。

 jungleで買った150万の赤外線ゴーグルは計5個。

 しかしこの部の部員は4人、本来なら1つは不要なはずであり、もちろん部員を1人ずつ見直しても全員が1つずつ頭に付けているだけだ。


「いやぁ、私も疲れたから肩に乗せてくれないかい?」


 そうぼやく疑問点の主に目を移すと、そこには体の半分ほどある暗視ゴーグル付けたツチノコがいた。

 どうやって付けてるんだ。というかそもそも蛇だろうがトカゲだろうが暗い家の下にいたような種類ならそれはいらないだろ。

「………肩はトウカちゃんの腕があるから頭に。」

 再度ツチノコを見て思わず乱れそうになった呼吸を整えそう言うとツチノコは俺の体を這い上がり頭の上に乗った。

 さて、クミ達は先に行きやがったし……急ぐか。




 俺たちはカマイタチに連れられて洞窟に入っていった。

 森の奥の渓流の脇の大岩の隙間にあったその洞窟は最初こそ人1人やっとの狭さだったが、途中からは屈めば歩きやすい道になった。

 しかしそこは暗視ゴーグルがなければ何も見えない暗闇と何十もの別れ道が続いており、装備の無い一般的な人間が足を入れれば戻ってくるのは難しい構造だった。

 そんな道をトウカとツチノコを抱えて進むのは難しく、そもそもなぜ目を覚まさないのかが謎だった。


 クミとアフロの足跡を追っていると少し先を行っていたクミ達が立ち止まっていた。

「ん、ん?せんぱぁい?」

 起きたか?

「調子はどう?」

 そう問うとトウカは勢いよく俺の背から降り「もう大丈夫です!」と笑みを浮かべ、駆け足でクミの横に並ぶ。

「っ!?」

 するとトウカは声も出さず後ずさりをした。

 ………。

「おい……道はこれであっているんだろうな?」

 トウカの横に立ち、後ずさりした理由を知った俺は隣に座るカマイタチに問いかける。

「ああ。お前らは家への帰り道を間違えるのか?」

 確認を取り、俺はもう一度前を向き直した。


 そこには暗視ゴーグルをつけていても底の見えない巨大な穴……いや、下に続いているであろう円形の闇があった。


「飛ぶぞ。」

 そのカマイタチの言葉に、久しぶりにアフロが声を出す。

「と、飛ぶって!ここを飛び降りるのか!?大丈夫なんだろうな!?」

 アフロの言う通り、カマイタチを完全に信じる事は出来ない。

 試しに転がっていた石を拾って闇に投げ込んでみたものの、いつまで経っても石が底に当たった音は聞こえなかった。

 いいや、しかし違う音は聞こえている。

 カマイタチとツチノコの聴力がどれほどのものか分からないが、俺を除くクミ達人間にはおそらく聞こえていない水の音が聞こえているのだ。

 それは洞窟に流れる川のような水の量の音ではなかった。もっと大量で、しかしナイアガラの滝のように水が水に落ちる音ではなく、水が地面にぶつかるような……。

「帰りましょうか。」

 その俺の言葉に部員全員が回れ右をする。

 すると、その一歩踏み出した俺のズボンの裾にカマイタチが噛み付いた。

「わぁぁぁ!待て待て待て!平気!平気だ!」

 どこがだ。

 カマイタチの言葉を無視をして足を進めていくとカマイタチは噛み付いたまま足を踏ん張る事もなく、体を地面に擦り付けるように引きずられた。

「下には水がある!着水さえきちんとすれば死にゃしねぇ!」

 着水してすぐに地球が待ち構えているがな。

 いや、カマイタチは死なないと言った。嘘か?人間じゃ無いからか表情は読めないが、声のトーンなどに嘘の特徴はない。

 だが人間以外の嘘を読むのは初めて、たからこそ今ある情報から推測するしかない。

 俺は記憶を遡り、一つ一つを確認していく。つい0.1秒前から、合宿棟でのカマイタチとの会話、カマイタチに出会った時、合宿棟に来た時まで。


 ………考えてはいた。

 こいつは俺達を殺そうとしている。今まで人間に見つからなかったカマイタチを見た、知った、見てしまった、知ってしまった、<人間おれたち>を……。

 人から隠れるこいつらが人に見つかれば、確実に隠れるには見つけた者を殺すしかない。

 なるほど、こいつが俺達に会いに来た理由は俺達を殺す事。

 捕まれば未来はない、よってクミ達からは1度逃げ、最も会話の可能な俺と接触し芋づる式に俺達を殺そうとした。

 と言うのが仮設1だ。

 そして仮設2は……。

「んじゃぁオラが先に行く!」

 そう言って飛び降りようとしていたカマイタチは「ダメだ。」という俺の言葉に足を止めて振り返った。


 仮設2。カマイタチの言う言葉が全て真実。


 そして俺はそんなカマイタチの首根っこを掴み、闇に飛び込んだ。

「ユウマくん!?」

「ユウマ先輩!?」

「………。」

 クミは俺の事を心配してくれないようだ。



 闇に飛び込んで3秒後。

 カマイタチが暴れ出した。

「生き延びたいなら俺の手を切り落とすか、殺さないとなぁ……急げよ?」

 あえて挑発的な笑みを向けると、カマイタチは動きを止めた。

「……お前さん、何を?」

 それが演技かどうかはすぐにわかる。そして演技だろうが、なかろうが次の行動は意味をなす。


 さて、そろそろ

 落下時間から計算するにおよそ200メートル落下した。

 まだ底は見えないが、聞こえる水の音からしてあと200数十メートルといったところか。

 カマイタチを服の中に入れた俺は腕を大きく広げ、その1秒後に脚も広げた。

 これで、体の角度は上半身が少し上を向く。後はぶつかる空気に流されれば……。

 壁に触れる。

 足の先に壁が触れると同時、落ちる速度と同じ速度で壁を走る。次に進行方向を少しずつ下から横へと変えていく。

 そうして進行方向が真下から角度が付き、壁を数週した頃。暗視ゴーグルでようやく底が見えてきた。

 約100メートル下の壁からは大量の水が流れて出ており、その10メートルほど下にある地面は水しぶきで見えなかった。


 俺は万が一の時の為にあらかじめ腰に着けていた黒い刀身のサバイバルナイフ取り出し、刃先を壁に刺す。

 もちろんナイフを少し刺した程度で体が止まるはずはなく、ナイフは壁を削っていく。が、走る勢いは減速し、結果壁を回っていた時の遠心力は失われ、重力に従って体が落下を始めた。

 そして1度ナイフを抜き、今度は刃を深く壁に差し込む。

 刃は少し壁を削りながらも今度は俺の体重を支え、水面から数十センチのところで俺を停止させた。

「はぁ……。」

 水しぶきの中服が濡れていく不快感を感じていると、服の中に押し込んだカマイタチが頭を出す。

「……お、お前さん本当に人間か?」

 そしてそう言ったカマイタチに「ああ、化け物に近いがな。」と心の中で答え、カマイタチを服から引っ張り出した。

「ここまでくればお前も大丈夫だろう、俺が濡れるのは大丈夫じゃないが……。」

 そう言ってカマイタチを先に水に落とすと、カマイタチは「なんで!?」という言葉を最後に水に沈み、浮上してこなかった。


 ………泳げなかったのか。

 そう気付いた俺はナイフを抜いた。




 水に飛び込んですぐ、謎の現象が起きた。

 地面があるはずの場所には地面はなく、しかし水もなかったのだ。

 水は数ミリほどの膜のように広がっているだけで、水中には、いや水の膜の下には空気があり、まるで水に落ちたことが嘘だったかのように空洞が下に続いていた。

 これは……一体?

 水の膜を通り過ぎ、再度落下を始めた事を感じながら落下する反対の方向を見上げると、そこには水面があった。まるで水槽を下から見たように、しかしガラスのような物はなく。重力を無視した水が空中に溜まっていたのだ。

「………?」


 ダメだ原理が理解出来ない。あれだけの水を宙に浮かすなんて事は今の科学では不可能に近い。

 万が一浮かせられるとしてもせいぜい磁気を使うか、風で押し上げるか……。

 だが周囲に磁気を発生させる物もなければ、あの水は液体金属でも液状磁石でもなかった。もしそうなら暗視ゴーグルに少なからず影響が出ているはずだ。

 それにそれだけの物があるなら暗視ゴーグルの様子を見ずともすぐに分かる。かといって、あの量の水を浮かせるだけの風もなかった……。


 結局原理を理解できないまま落ちて行くと、また水が見えてきた。

 しかし今度は滝がなく、そのせいで水の深さが測れなかったのだ。

 俺は上で石を投げ込んだ時に予備で拾っておいた数ミリの石を下の水に向かって軽く投げると、水は石の着弾地点を中心に半径1メートルほどの穴が空き、その下にはまた水のない空間が見えていた。

 水はすぐに穴を塞ぎ、その水に落下した俺はもちろん水を通り抜け、また空中を落ちて行く。

 落下して行くと、そこにはさっきよりも少し早く水が待ちかまえていた。

「はぁ……。」

 ため息を吐きながら再度石を投げると、予想通り水に穴が空き、その先にはまた水のない空間が見えていた。



 しつこい!!

 あと数回だろうと考えていた水の膜はあの後17回、計20回も続いており、その度に石を投げ、確認し、水に飛び込むを繰り返した。

 水の膜は通って行くたびに感覚が狭まっていき、それに従って膜は分厚くなる。

 そんな水の膜を通るたびに落下するスピードは落ちていき、今では膜の感覚は約5メートル、厚さは約30センチ、速度は某<計画A>のテントを突き破るシーン程度になっていた。

「洗濯機に放り込まれた気分だ……。」

 ゴーグルも繰り返しの衝撃と水で調子が悪いのか、視界中央が白くなってきている。

 俺はもう石は投げず、むしろ着地してもある程度無事な速度で重力に従って壁を走っていた。



 そして5回、つまり25回目の水を通り抜け、膜の距離は1メートル程になった頃、今までは白みがかりながらもなんとか見えていた暗視ゴーグルがとうとう壊れたのか、視界が何も見えない程真っ白になった。

「チッ……面倒くさい!!」

 ゴーグルを外すと

「……?」


 そこには光る水が待っていた。


 いや違う、水の膜の向こう側が明るい?

 念には念を入れて加速する足を止め、今までよりも分厚い26〜30枚目の膜を通り抜けると、そこには地中とは思えない昼のように明るい空間が広がっていた。

 進む先にはおそらく膝下深さであろう透き通った湖と、そのほとりには草木が青々と茂っている。


 おっと、そんな事を考えている暇ではなかった。

 湖まで約2メートル。今まで壁を走っていたせいで頭が下を向いたまま宙に放り出された俺は全力の蹴りを出す。

 そうした事で体の向きが180度回転し足が下になった。

 ここまでこればあとは簡単だ。足を曲げる。

 これで衝撃を完璧に吸収出来る……はずだった。

 加速していたことで必要以上のスピードが出ていたのだ。

 まあ、何の問題も無いが。

 着水、いや着地の衝撃で、その湖の水は爆発したような巨大な飛沫を上げる。

 両膝をついて上手く着地した俺は、立ち上がろうと片膝を立て。

 ピキッ……。

 ……いや、上手く無かったようだ。


 回復を待つついでに周辺の情報を集めようと頭を上げると、目の前にはカマイタチがいた。

 まるでウォーターボールに入ったように、しかしウォーターボールは無いままに、体の周辺に水を近づけていなかった。

 そんなカマイタチは腰を抜かした人間のように後ろのめりになり、唖然と口を開いていた。

「………オラ死ぬんか?」

 死ぬのは勝手だが。

「お前は俺達を殺すんじゃなかったのか?」

 そう仮説1を口に出すとカマイタチは「殺す?なぜ?」と首を傾げた。

 久々の地面を感じながら真上を見ると、約5メートルの高さに重力を無視した水が波一つ立てずに溜まっていた。

 あの水、俺のように回ったり加速しなければ、ただ減速と衝撃吸収のためだった………つまりは殺さないため。


 しかしそれだと疑問が一つある。


「なぜ暴れた?死なないのなら俺から逃げる必要もなかったはずだ。」

 雫が髪を滴るのを感じながら睨みつけると、カマイタチは小さくため息を吐きながら前脚の鎌を揺らした。

「オラらは水に濡れるのが苦手でな。」

「ならばどうやって降りるつもりだった?」

 カマイタチは「見てな」と鎌を振るとカマイタチを包むウォーターボールが徐々に浮き上がり、その体を宙に浮かせた。

「こんな感じでオラらは風を使える。ちなみにあの水はお前さんら人間の為に今回作ったんだぞ?」

 仮説2だったか……。

「だと言うのに……水に落とされたかと思えば、上から何かを高速で飛ばして来るし……。」


 ………。


「さっきは変なこと言って悪かったな。」

 ……さて、回復もした。

 ゆっくりと立ち上がり、宙に浮くカマイタチと目を合わせた次の瞬間、上から困った叫び声が聞こえた。

「アァァァァァァァァァァ!!!!!無理無理無理無理無理無理!!!!!」

「ダメです!死にます!こんなアフロと一緒に死ぬのだけは絶対に嫌です!死ぬならユウマ先輩とがいいですぅぅぅ!!!!」

「チョォォォォォ!!!トウカチャァァァン!!!!?」

「ウォ~タァ~~~………スライダァ~~~~~!!!!!」

 ある意味すごい、言葉だけで誰が誰だか判別出来る。あと勝手に殺すな。


 数秒後、湖に3つの飛沫が上がった。


 その飛沫の主は

「アァァァァァ!!!」と腰を抑えて転げまわるトウカ。

 その横で「よっ、と。」と平然とその場に立つクミ。

 普通に着地のすればあれほど衝撃を吸収できたのか。この俺があのクミより着地が下手だったとは……。

 そしてもう1つの飛沫の方を見ると、そこにはアフ………誰だお前。

 そこには貞……もとい貞夫がいた。

 よしみんな逃げろ。呪われるぞ。

「想像以上のワカメですね。」と腰をさすりながらトウカは毒を吐く。

 いや、この感じはウミトラノオだな。

「さてツチノコは……っと。」

 すると3人は「「「え。」」」と不安そうに俺に目を向けた。

 視線を感じながら背中に手を伸ばして<それ>を取ると、それはゴーグル……もとい力ないツチノコの付いたゴーグルだった。



「生きてるか?」

「あんたに殺されかけたけどねー。」

 ………。

「何の冗談だ?」

 ゴーグルを外したツチノコは俺の手のひらの上で俺を睨みつけた。

「冗談だと思ったのは挙手。」

 そう言った瀕死のツチノコの言葉に俺一人が手を挙げる。 

「真実だと思う奴。」

 そして対照の選択肢には俺以外の全員が手を挙げた。

 ふむ………。


「ブゥェックショォイ!!」


 すると貞夫のクシャミが空間に響いたことで、今まで俺に集まっていた全ての視線が貞夫に向く。

 ………。

「……まずは水から上がりましょうか。」

 すると皆は「はーい。」と……。

 まるで貞夫の汚い鼻水を見て見ぬフリをするかのように……。

 まるで今足の浸かっている水にその鼻水が入っていないことを願うかのように……。

 あまりにも無で答えた。

「フェ?どしたのみんな……。」

 という貞夫の声は全員無視をした。

 @ODAKA_TAIYO

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 見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。

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