7-2
「さて、行きますか。」
「そうだね。」
自分のキャリーケースを持ち、飛行機から降りようと搭乗口に向かうと、途中チリで乗ってきたコーディネーターが俺達の肩を掴んだ。
「おいおいおいおい。外はマイナス48度の極寒世界だ!!そんな服ででたら死ぬぞ!!」
冬服。と言っても長袖のパーカー1枚の俺と、少し着飾ったクミカは顔を見合わせる。
そして極寒地用の防寒コートと防寒フルフェイスマスクを着て、顔の見えないコーディネーターに目を向ける。
南極とはいえ、夏にその防寒はいらない。そのためにわざわざ行動のしやすい11月の中旬になるまで待ったんだからな。
「なら死なないように気をつけるよ。」
パイロットに開けるように合図すると俺とクミカの目の前の搭乗口が開かれた。
「うひゃ~!やっぱり寒いね~!」
「地球の極地ですからね。」
・南極
日本にはない広大な地平線を眺めながら、俺達は白銀の世界を歩いていく。
「アイツら……何者だよ。」
今日は吹雪どころか風すらもなく、搭乗口から聞こえた言葉を背に俺とクミカは少し先に見えている研究所に向かって歩いていく。
「いつも制服だからあんまり見ないけどユウマくんって私服はどうしてるの?」
すると突然そんな事を問いかけてきた。
「夏と冬ものを5着ずつ持っているのでそれを回してます。」
クミカは「ヘェ~。」と俺周りを回って服を眺める。
「どこで買ってるの?」
そんな事を聞いて何になるんだか。
「基本はネット販売で買ってますね。」
「じゃあ今度みんなで買い物に行こうよ!」
なぜだ。
「別に構いませんがいつになるか分かりませんよ?」
例え仕事が終わってもやる事は山のようにあるからな。
「で、自分達はここで何をさせられるんでしょう。」
「さぁ?」
俺達は苦笑いを浮かべ合って目の前の研究所の中へと入った。
・南極 某基地
「責任者は居ますか?」
暖かい基地に入り、まず英語でそう問いかける。
温帯の冬着を着た少年少女がマイナス48度の世界から現れたのだ、周囲からの注目を集めたのは言うまでもない。
そして俺達に視線向ける人達は一通りざわついたあと「あんたら何もんだ?」と1人から声がかけられた。
「俺達はここでの仕事を手伝いに来たんだ。その事を詳しく話したいから責任者を呼んでくれ。」
「おいおい、あんたらの身体どうなってんだ?」
基地に入ってすぐの所で立ち止まっていた俺達の後ろからそんな声が聞こえた。
「ん?お前は。」
振り返るとそこには極寒地用防寒具を着てビジネスバックというのアンバランスなガブリエルと、飛行機から降りるのを止めたコーディネーターが立っていた。
「あと責任者を探してるならここにいるぜ。」
ゴーグルや帽子を脱ぎ、短い金髪と一般的におじさんと呼ばれる年代の北欧系の顔を見せたコーディネーターは歯を見せて笑った。
するとさっきまでざわついていた周囲からは「なんだ所長のツレか。」と、安堵の言葉が聞こえてきた。
「お前が責任者?」
「そうは見えないってか?」
コーディネータは笑いながら分厚い防寒具を脱いでいき、体に密着した長袖のインナーとカーゴパンツ姿になった。
「取り敢えず詳しい事は奥で話そうか。」
そう言って基地の奥へと進んだコーディネータに俺とクミカ、そして防寒具を脱いでスーツ姿になったガブリエルは付いていった。
・南極 某基地 図書室
図書室に着くとコーディネータと俺達3人は向かい合うように座った。
「さて、まずは何を聞きたい?」
そして来た時から机の上に積まれてあった書類に目を通しながらコーディネータはそう言った。
「ならお前の名前からだな。」
するとコーディネータは一瞬固まると、声を出して笑い始めた。
「名前か、そうだな。確かに言ってなかったな!ナサニエル パーマーだ、ネイトと呼んでくれ。」
そう言ってネイトは立ち上がって俺に向かって差し伸べた手を我先に立ち上がったクミカが握った。
「私は早見 紅弥香!クミカがファーストネームね!」
さらに今度はクミカと同じく立ち上がったガブリエルが俺よりも早くお辞儀をした。
「書類で伝わっているとは思いますが私は三角ガブリエルと申します。ガブリエルがファーストネームです。」
ガブリエルの苗字は三角だったのか。
さて、やっと俺の番だ。
「俺は霧崎 優真。ファーストネームはユウマだ。」
最後に俺とネイトが握手をすると全員が席についた。
「それにしてもお前ナサニエル パーマーは偽名か?」
するとネイトは笑いながら首を横に振る。
「よく南極バカの極みだって言われるよ。」
大して面白くもない話に一応愛想笑いはしておく。
「ナサニエル パーマー。確か南極を見つけた人だっけ?」
クミカはその名前の説明を呟いた。
そう、ナサニエル パーマーとは南極を見つけたとされる3人の候補の1人だ。
「単なる偶然だが、この仕事に就いたのは子供の頃に南極を見つけた人と同姓同名と知ったからなんだ。」
するとクミカは「へー。」と相槌を打つ。
「っと、そんな話はしなくても良かったな。他に聞きたいことはあるか?」
ネイトは俺達3人の顔を順に見ていき、質問がないことを確認すると手元の書類を眺め始めた。
「そうだな……じゃあまずあんたらにはこの基地について知ってもらおうか。」
さっきまでのただの笑みとは違い、今度はニタついて笑ったネイトに俺はため息をついた。
「氷河学、地球物理学、気象学、上層大気学、天文学、天体物理学、生物医学の研究が任務とされている。」
調べた情報を口にしていく毎にネイトの口角が上がり、そして言い終えるとネイトは小さく笑った。
「そうだ、俺達の任務はそういった事をしている。」
俺の言葉を認めたネイトはしかしニタついた笑みを浮かべたままだった。
そして、次の言葉を口にしようとしたネイトに合わせてその言葉をかぶせる。
「「事になっている。」」
すると言うことを読まれていた事に、ネイトは驚きを隠せていなかった。
「だろ?」
そして今度は俺がネイトに向かって不敵な笑みを作る。
「………。」
少しの間の沈黙の後、ネイトは突然大声で笑い始めた。
「ハハハハハハッ!なるほど!流石は国家機密の少年少女だ!」
その様子を俺とクミカは何をするでもなく眺めているとネイトは懐から折りたたまれた紙を取り出した。
「じゃあ2人にやってもらう仕事内容を確認してもらおうか。」
そう広げられた紙は南極の地図だった。
「この南極のどこかにあるはずの入り口を探してくれ。」
入り口?
「何のだ?」
まさかとは思うが
「〈地下世界〉への入口。」
とはいって欲しくなかった………。
ネイトは「まあ〈地下世界〉って言うのは勝手な予測の仮称だけどな。」と笑った。
俺はツチノコやカマイタチ、ブラックドッグ、ジャッカロープ、ヘリコプリオン。そして地下犯罪者都市、地獄の声に次いで、また都市伝説に出てくるような内容なのか、とネイトの言い放った言葉にため息を吐かざるを得なかった。
「お前も地球空洞説を信じるクチか?」
そう問うとネイトは苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「流石に物理を信じない訳ではない。」
しかしネイトは「が。」と降る首を止め、真っ直ぐに俺達を見つめた。
「現代物理学の根幹をなす量子力学には矛盾もある。」
つまり。
「信じきる訳でもないと言うことか。」
俺の言葉に「いやいや。」とネイトは笑う。
「そんなに上から目線じゃねぇよ。まあ地球空洞説に関してはそうだといいなと思う程度だ。」
「じゃあ今回の依頼はネイトが個人的に?」
笑い続けるネイトにクミカは首を傾げてそう問いかけた。
「いえ、今回の仕事は国からの依頼です。」
するとビジネスバックから書類を出したガブリエルが今回の仕事の依頼書をクミカの前に置いた。
あれは一度読んで覚えたから見ずとも内容はわかる。
「えっと、依頼した国は」
「この基地の大元、大国ですよ。」
クミカを遮って俺が呟くと3人の視線が集まった。
「例え一つ。されど南極に基地を設け、建前とは言えど氷河学、地球物理学、気象学、上層大気学、天文学、天体物理学、生物医学を研究するだけの技術と知力を持った一つの国がその存在を認めているんです。単純計算で4582万6千円を掛けるだけには………。」
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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