一本
空中で止まった俺の拳が作り出した力は流れる水を消しとばした。
剥き出されたその奥の岩肌には男1人が立って入れるほどの穴が空いたのが見える。
そして流れる水は何度も障害を避け、また交わり、まるで何も無かったかのようにさっきとは違う形となって岩肌を隠した。
あーあ、だから言ったのに…。
どうせ学園の敷地内だ、構わないだろ…。
まあ、そうだけど…。
次の日
昨日開けた滝の裏の穴に入り裏から滝を眺める。
見る向きを変えるのはいいけど…物理的すぎないか?
答えも公式も分からない今考え付く全てをやらなければならないからな。
滝の奥から差し込む日光は流れる水に揺れ、俺の体を不規則に照らす。
何か分かったか?
全然!!
さらに次の日。
「ユウマ?」
休日の今日は朝からいつもの滝にいると突然、気配なく声がかけられた。
声の方に目を向けると、滝の脇で微笑んでいるクミが立っていた。
「どうしました?」
「お昼ご飯だって。あとアフロ君が何か話があるみたい。」
「分かりました。すぐに向かいます。」
・海星学園 裏山 合宿棟
「あ!ユウマ先輩!ちょうどできたところですよ!」
何処からか持ってきた四角のちゃぶ台の上には料理が並び、ピンクのエプロンを着けたトウカはさらに料理や橋などを並べていた。
「これは?」
「トウカちゃんが作ったの!」
「全部レトルトですけど…。」
そう苦笑いでコップを置いたトウカはその場に正座で座った。
「でも今までは全部携帯食だったからこういうのは嬉しいよ。」
トウカは一瞬驚いた顔を見せると、すぐに顔を伏せた。
「あれ!?うまそうな匂い!!悪い手伝えなかった!片付けは俺がするから!」
作業服で言いたいことを全て言いながら入ってきたアフロは机の上に並んだ4つのカレーライスの前に座った。
「あれ?今日爺さんは?」
「今日は朝からいないみたいですよ?」
珍しいな…。
「ツチノコちゃんはいるけどね。」
最近影の薄いツチノコがクミカの頭の上で舌を出した。
「ではいただきましょうか。」
「「いただきまーす!!」」
「いただきます。」
「いただくわ。」
皆それぞれ手を合わせ、机に並んだ様々な料理を口に運………。
ツチノコも食べるのか?
「それで?話したい事ってなんなんですか?」
食事を始めて早々に切り出したトウカに視線が集まった。
「「「………。」」」
そして答えを求めるようにアフロに視線が向く。
「む?」
その先には海老フライを同時に3尾咥えたアフロがいた。
「んー!あほひほふほほえほひほほはんはへほは?」
「「飲み込め、そして喋れ。」」
俺とトウカがそう言うとアフロは勢いよく海老フライを吸い込んだ。
………消えた。
「あの地獄の声の仕事だけどさ。」
突然、するはずのないアフロからの仕事の話に空気が変わる。
「俺に任せてくれねぇか?」
沈黙。それは困惑でも迷いでもなく、返答を待つ間。
そしてその返答は俺に求められていた。
「………ダメです。」
「理由は邪魔だから。」
そのアフロの言葉にトウカは俯き、そして。
「じゃねぇことはわかってる。」
笑ったアフロに顔を上げた。
「2人は俺とトウカちゃんを巻き込みたくなかったんだ。危険な仕事、危険な奴と関わらせたくなかった。」
俺とクミカは黙っているとアフロは小さく笑う。
「でも、例えそうだったとしても2人は違うって言うだろ?だから自惚れだろうが思い上がりだろうが何でもいいさ。」
そしてアフロは「だからさ。」と言って立ち上がる。
「もし2人の言う事が本当の場合も考えて、邪魔にならず危険でもない方法で仕事をする。それなら問題はないだろ?」
ふむ……。
これは一本取られたな。
うるさい。
「ですが邪魔をせず安全に、と言うのは具体的にはどう言う方法ですか?」
「質問に質問で返して悪いが2人はどう言う手順で地獄の声の調査をするつもりだったんだ?」
正直最初の条件で〈現実的に可能な物〉と言っている以上、必要なものは依頼主、もしくは国が準備する。
つまりある程度の融通は利く…。
「機密事項ということで現状が理解できないので、次の仕事が終われば様子見に行こうと思っています。」
「思っているという事はまだ何もしていないし、詳しい方法も決めていないという事だな?」
それが狙いか……。
「ちょっと来てくれ。」
廊下に向かったアフロを追いかけるように俺とトウカも立ち上がった。
「まだ食べてるんだけど。」
「行きますよ。」
トウカに手を引かれたクミカは箸を持ったままアフロに続いた。
アフロに連れられた俺達は合宿棟の最奥、窓のない部屋に入る。
そして中を見たアフロを除く3人は驚きで進む足を止めて部屋を見渡した。
部屋の中央には輪の三分の一部分を切り取ったようなデスクトップ。その上には曲線に合わせるように横5、縦3の15枚のディスプレイが置かれている。
そしてその机から伸びる大量のコードはデスクトップの奥。一般的な物よりも大きいPCが大量に並ぶ壁一面の本棚へと繋がっていた。
「俺が手作りして量産した高性能PC計300台。それを全部並列化、つまり繋げてさらに高性能にした!」
「見る限りでは100台しかないようですが?」
そう言うとアフロは本棚の端を引っ張ってずらすとその奥に、同じくPCの並んだ本棚が見えた。
「今見えているこれが奥に2つ並んでるんだよ。」
なるほど……。
「見るか?」と言うアフロの問いに首を横に振るとアフロは本棚を元の場所へと戻した。
「ですがそれで何が出来ると?」
「これはただ自慢しただけだ。」
多分今俺がアフロを殴ってもクミカとトウカは止めないだろう。
「では仕事は任せられませんね。」
そう言って部屋を出ようとすると「まあ最後まで聞いてくれよ。」とアフロに止められた。
「まあ直接的な理由じゃないだけで、関係ない訳じゃねぇ。さっきユウマ君は次の仕事が終わったらって言ってたな。つまり今はまだ行動しないだろ?なら今俺が何をやろうが邪魔にはならねぇよな?」
それなら邪魔ではない。
「ではどうやって安全に仕事をするつもりで?」
するとアフロは小さく笑う。
「俺達に仕事を任せない理由は邪魔だからなんだろ?ならもう仕事を任せてもいいんじゃねぇか?」
やはりな、さっきからアフロは俺を誘い込もうとしていた。
だがそんな子供騙しにかかるほどバカじゃない。
「それは先程アフロ先輩が自分で言っていたので聞いたまでです。」
「なら仕事は任せてくれるよな?」
「いいえ。」
首を横に振るとアフロはため息を吐いた。
「安全っつってもそれは人それぞれだ。ユウマ君には安全で俺には危険な事なんていくらでもあるだろうよ。だがなぁ、人の安全を勝手に測るな。」
アフロは威圧的に、俺の胸に人差し指を押し当てた。
確かに俺はクミカを勝手にバカだと測り間違えていた。だがアフロは違う、多少商才のある一般的な人間なのは間違いない。
「それになぁ、自分の安全も測れない仲間なんて捨てちまえ!出会って1年も経ってないんだ、勝手に死んだ所で大した気掛かりでもないだろうよ!」
「ですが、アフロ先輩に何かしらの価値を見出して危険に晒したくないという可能性もありますよ?」
するとアフロは鼻で笑って肩をすくめた。
「価値ぃ?世界から仕事を依頼される奴にとって、ちょっと商売うまくいっただけの奴に価値なんてあるかよ!それに万が一それだけの価値があったとするなら多少の危険乗り越えられる。」
「ですがこの仕事は自分に任された仕事です。自分を狙った罠という可能性も捨てきれません。」
「だったら相手にとって有利に働くようにするはずだ。なおさら殺されるようなことはねえ。」
「殺された方がマシだと思うことになるかも知れませんよ?」
「そうなる前に助けてくれよ?」
一向に食い下がらないアフロに俺はため息を吐く。
アフロの言葉に耳を傾ける必要はない。ただ俺が断ればいい。そうすればアフロには何をする事もできない。
クミカに視線を向けると、クミカは呆れたように笑いながら肩をすくめた。
「はぁ………分かりました。その仕事はアフロ先輩に任せる方針で考えておきます。」
するとアフロは「任せろ!!」と自分の胸を拳で叩いた。
「ところで、なんでこれだけの物が必要だったんですか?」
そのトウカの問いにアフロは「いやぁ。」と苦笑を浮かべた。
「まあそれは後々分かるとして。俺の趣味の1つでもあってな、いつか個人的な高性能PCを作りたかったんだよ。」
「ならスパコンでも買えばよかったのに……。」
そのトウカの呟きにアフロは溜息を吐く。
「そうなんだよ。一応俺の会社にはあるんだがやっぱり俺専用が欲しくてな。ただ、簡単に手に入れれてすぐに数も集まる物となればコイツらが限界だったんだ。一応コイツらもスパコンっちゃスパコンなんだが。まあ俺の会社含め、大企業に置かれている物と比べりゃ劣るから、まあ〈擬似スパコン〉ってところかな。
「この人にはお金がないと言う概念は無いらしいです。」
そう不機嫌に言ったトウカは頭にツチノコを乗せて部屋を出て行った。
「食事の途中だしとりあえず食べちゃおうか。」
そしてそのクミカの言葉に俺も部屋を後にした。
・海星学園 高等部棟 生物室(U.M.A研究部室)
「まあ色々あって、この仕事は俺が指揮する事になった。まず準備として廃墟になっている過去に使われた超深度掘削坑を修理、もしくは掘削後を使用できるように施設を建設してくれ。あとは泊まり込みで働いてもらうための寮。そんで存在している掘削跡もう一度掘る。もちろん掘削跡だけではなく新しく掘れる場所も最低1箇所頼む。」
アフロはノートパソコンを触りながら、詰まる事なく指示を出し続ける。
「あと出来るだけ直接話したいから日本語、アメリカ英語、イギリス英語、中国語、韓国語、ロシア語、台湾語、アラビア語のいずれかを話せる労働力を用意してくれ。」
そのアフロの言葉を聞いたガブリエルはメモを書いていった。
「とりあえずそうだな……作業員100人、整備士30人、調理師10人、掃除洗濯をする奴を10人。もちろん、調査地で十分に役割を果たせる奴だ。ああ、あと掘削中は常に記録を取りたい。作業員のうち最低10人は記録を残す技術と責任感のある奴を頼む。」
アフロは右手のマウスを動かしながら「んー。」と唸る。
「今んとこはこれぐらいかな。施設が完成してからまた詳しく指示する。」
そしてガブリエルがメモを取り終えて立ち上がると、アフロは「あっ!」と声を上げた。
「どうやって雇うかは知らないが、雇う前にそいつの履歴書を俺に送ってくれ。
するとガブリエルは「かしこまりました。」と素早くメモを取り部屋を後にした。
「で、なんでユウマ君はずっと俺の横でゲームをしてたんだ?」
「………休み時間ですので。」
ガブリエルがいなくなった途端、どこからか現れたツチノコを頭に感じながら俺はゲームを続けた。
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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