6-3
「例え俺とお前が手を組んだとしても第1に目をつけられたらしまいだ。とりあえずは第1をどうにかするまでは距離を置かせてもらう。もし第1をどうにか出来たのなら俺は喜んでお前の脅迫に負けてやる。」
そう嫌味を言ったプラダクトの笑みを思い出しながら俺は椅子に座った。
・第1マーケット
第2マーケットに行った日から少し経ち。今度は少年も一緒に第1マーケットへとやって来ていた。
「さてと、単刀直入に言う。第1マーケットと第2マーケットの」
間接照明だけで照らされたコンクリートの部屋。
その奥には黒く長い髪を片目にかけてこちらを眺める、スレンダーながらも出るところは出たセイルズが座る。
そしてセイルズと机を挟んで座る俺の後ろに立つ少年とプラダクトに聞こえるように俺は切り出す。
「〈所有権〉を渡せ。」
「なっ!!」
プラダクトは咳き込みながら声を荒げた。
「おい待て!!協力関係になるんじゃなかったのか!?」
さすが……少年の予想通りだ。
「おいおい、協力にも上下関係は必要だぞ?」
より嫌味に、より不敵に。少年に教わった笑みをプラダクトに向ける。
「はぁ……。」
するとセイルズは深いため息をついた。
「第3マーケット。お前が追い込まれているのはとうに知っているが、そこまで愚かだとは思わなかったぞ。」
「愚か?はて、何のことだか。」
ワザとらしく首を傾げるとセイルズの目付きが変わった……気がした。
「あぁ!」
俺はワザとらしく手のひらを拳で叩いて笑みを浮かべる。
「お前は今俺が〈第三を失う今、形上だけでも第一と第二を統べる者になれば生き残れる。〉と思っていると思っているな?」
相手の思考を否定することで少し相手の上に立ち、そして。
「俺はお前らを服従させる。」
先よりも深く、そして交渉する時よりも殺気立てた声で笑う。
さて、俺が出来る事はここまで……。
「そんな子供騙しが私に通じる、と?」
そう鼻で笑ったようなセイルズの言葉に後ろからプラダクトのため息が聞こえた。
「第2マーケットのプラダクトは第1マーケットを対処出来れば脅迫に乗ると言った。そうだな?」
するとついさっきまで声を発しなかった少年がそう言うと、プラダクトとセイルズの2人は少年に目を向けた。
「……あ、あぁ。」
そして思い出したかのように帰ってきた返事を聞いて少年はプラダクトからセイルズに視線を移した。
「つまり第1マーケットをどうにかすれば第3マーケットはどうにも出来るという事だ、例えば服従させる事も……。」
「なっ………っ。」
否定したいが出来ない、そんな状況にプラダクトは唇を噛んだ。
「それで?どうやって私を服従させる?一応言っておくが私の後ろには……。」
俺を見下すセイルズの言葉を遮るように少年が足を進め、セイルズの横に立つ。
目も向けないセイルズの耳元に少年は顔を近づけ、何かを呟いた。
「………。」
「今言った事をお前と通じている後ろ盾に伝えてみろ。答えはそれからでいい。」
そして俺の後ろに少年が戻ってからすこしの沈黙が流れ。俺はもう一度笑みを浮かべる。
「それじゃあ俺達はお暇しよう。」
そんな交渉から半月。
俺の築き上げた第3マーケットが壊滅された今日までに色々な事があった。
交渉した次の日に届いたセイルズからの第1マーケット受け渡しの連絡。
その事実に、無理だとタカをくくっていたプラダクトは絶望し渋々脅迫に乗った。
そして俺は晴れて関東マーケットを統べる者になった!と言えるには言えるのだが。
「第3マーケットの壊滅時、適当に転がってた死体を奥の部屋に隠して第3マーケットの管轄者として偽装。第1、第2マーケットの入場料などもろもろをタダにする事で客を第3マーケットから遠ざけさせ。そして第1、第2マーケットを管轄出来るようにもしてやったんだ。一部の商品の独占購入権はもらうぞ。」
という言葉によって俺は少年に管轄されている事を知らしめられた。
・海星学園 裏山 合宿棟
「昨日は悪かったな。」
そう言いながら俺は老爺に目は向けず、ガブリエルに差し出された依頼書にサインを書く。
「構わん。あらかじめ仕事と聞いてあったからの。」
老爺は湯呑みをすすりながら答えた。
「それよりも……。あれだけ着いて行くと駄々をこねたアフロは観光を満喫して大量買いをした外人にしか見えんが?」
老爺の視線の先には大量の段ボールを台車に乗せて廊下を行き来するアフロの姿があった。
「向こうに着くなり消えたと思ったら…。まさか買い物三昧とは………。」
その様子を半目で眺めていたトウカの視線に気付いたアフロは、台車に積み重ねられた液晶ディスプレイの絵が描かれた段ボールに肘を置いた。
「おいおい、 何も出来ないのを知って俺がついて行ったとでも思ってたのかぁ?」
そのアフロの笑いにトウカは歯ぎしりをした。
たしかに今の笑いは少し引っかかったが……。
「それよりもそれだけの物を向こうで買ったんですか?」
その質問にアフロは「いや。」と首を横に振る。
「向こうでは買ってねえよ。」
そして「コイツらはネットで買ったんだ。」と肘を置くダンボールを軽く叩いた。
「じゃあ何のために向こうに?」
するとアフロは笑みだけ浮かべて廊下の奥へと消えていった。
「お待たせしました!さて、ご開帳ー!!」
全ての荷物を運び終えたらしいアフロはこの場の全員に見せるように、十数個残っていたダンボールを開けた。
「これは?」
2段に重ねられ、蓋を開けられた上の段のダンボールを覗き込むと、中には大量のファイルや書類の束が並んでいた。
「俺の本社にある、ありとあらゆる情報だ。取引先の名刺から……個人情報まで。」
俺とクミカそして老爺とアフロ以外。つまりトウカ1人が顔を引きつらせた。
「今回ユウマ君達について行くって言ったのは仲間はずれが嫌だからなんかじゃねぇ。国からの仕事の範疇でこれを取りに行きたかったんだ。」
なるほど…。
「仕事という状況を逆手に取ったわけですか。」
そう言うとトウカは首を傾げた。
「どういう事です?」
「この中には個人情報がたんまりと入っている。つまり俺の個人的な使用はもちろん違法だ。だが今回国はユウマ君に依頼した仕事は危険かつ、そう簡単に民衆に言える物じゃない。」
そう説明するアフロにトウカは「あっちがやるならこっちもって事ですか?」と驚いた表情を見せた。
「でもそんな事してても相手は隠蔽しますよ?」
そう言ったトウカにアフロは「チッチッチッ。」と人差し指を立てた。
「イラッ……。」
それは言葉にするものなのか。
「普通ならそうだ。だが今回俺達は仕事の一環として動いた。つまり俺の違法行為が明るみに出ると言うことは、国から依頼された仕事の一部が漏れると言う事になる。さらに言えば仕事どころか、違法でなくとも1人の女性に責任を押し付けるような悪質な行為が漏れる可能性がある。そんな事をする奴らだ、少しの不安要素も残したくないだろうよ。」
アフロの説明を聞いていきトウカは徐々に言いたい事に気付き始めたようだった。
「つまり、国は万が一に備えて俺の悪事も隠蔽しなければなぁ!!」
そうワザとらしく声を上げ、アフロが向けた視線の先のガブリエルは肩をすくめた。
「分かりました。上には伝えておきましょう。」
そう言って部屋を出るガブリエルの背を眺めながらアフロは口角を上げた。
「で?これだけの情報、何に使うんです?」
アフロにそう問うと今度は無邪気笑みを浮かべて「それは後でのお楽しみだぜ!」と言って荷物を運び込んだ奥の部屋へと消えていった。
「イラッ……。」
・海星学園 裏山 滝
さて、一日ぶりだ。
何をするんだ?
今までのように考えてばかりじゃダメだと思ってな。行動して始めて気付ける事もあるかと。
えらく考えが変わったな。まあ俺もその行動の中から見つけれるように観察するよ。
「ふむ。」
おい!待て!!
「っ!!」
ここ数年出したことのない力を込めた拳を滝に向かって、突き出した。
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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