5-1
授業が始まる1時間前。
UMA研究部室の扉の前に立つと今日のツチノコの餌当番のトウカが鼻歌を歌い、何故か部室でくつろいでいるクミカとアフロの音がしていた。
だがこれは丁度いい。
「さて、仕事に行きますよ。」
閉まっていた扉を開くと3人の視線が集まった。
「えぇっと……確か私とアフロ先輩は参加しないんじゃ………。」
消極的にそう言ったトウカに続くようにアフロは顔を伏せた。
「ええ。ですがそれは自分が勝手に決めただけで、例外はいくらでもあります。」
読み込んでおいた仕事内容を画面に表示させたスマホを2人に見えるように机の上を滑らす。
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能力成長実験の補佐
詳細内容は受注後、下記の場所にて伝達。
なおU.M.A研究部の4人全員で来る事。
海星学園 裏山 合宿棟
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「私達の事。どこまで知られているんですかね。」
そう、今回1番の問題は不明瞭な仕事の内容でも、その場所でもない。今回の仕事相手がU.M.A研究部の事、その人数が4人だと知っていた事だ。
「国がどれだけ知って、話しているかにもよるね。」
たとえ俺に気付かれずに俺の周囲の事を調べたとしても、俺がいる事を知った上で俺の、まして仕事に関係ない情報を下手に提供したとは思いにくい。
「私は少なからず知っているとはいえ漏洩はしていませんよ。」
すると聞き耳を立てていたのか、そんな事を言いながら部室の扉を開きガブリエルは入ってきた。
「ではどこまでが漏洩でないのか。そしてどこまで知っているかも知りたいところだ。」
「知っている事についてはあなた方がUMAを探していること、そして何かを私に隠している事まで。ですがあなた方の事を国は何も知りませんよ。この部活の事すらも。知っている事といえば海星学園の裏山を欲している事と4人の最低限の情報程度です。」
………逃げたな。
「なぜガブリエルさんは知っているのに伝わっていないんです?」
そのトウカの質問を聞いてすぐアフロはその真意に気付いた。
「トカゲの尻尾。」
クミカはそう呟いた。
「自分が自分の情報を知っている奴を消す可能性がある。」
「やっぱりか。」
トウカは「どう言う事です?」とアフロに向くとアフロは説明を始めた。
「理由は分からんがユウマ君は議事堂でえらく恐れられていた。そして議事堂の人はユウマ君が何かをしようとしている事に気付いた。だがその情報を知ればユウマ君が口封じに行く可能性がある。例えその方法が金だろうが記憶消去だろうが殺されようが、恐れられる存在との関わりや犠牲の数は少ない方がいい。」
「ってことだ。」とアフロは重く言うと、真意に気付いたトウカは歯を食いしばった。
「つまり1人にリスクを全部押し付けたって事ですか…。」
「民主主義のこの国ではギリギリ。こんな事いくら隠れてたっていつか信用を無くす。」
「そして信用は金よりも高い。」と、誰にも聞こえないように呟いたアフロの言葉は俺とクミカの耳に届いた。
「2人とも酷い言い様ですね。」
そう笑うとトウカとアフロも自分自身そう思ったのか、少し表情を明るくして苦笑を浮かべた。
「でも一番酷いのは恐れられる存在やらリスクやら言われてるユウマ君だよね。」
今のは絶対面白がってだ。まだ完成しきっていないが故にクミカの感情や考えは読み切れなかったがクミカの口角が少し上がっているのを見てそう確信した。
そしてそのクミカの言葉に、恐れられているやリスクといった言葉を口にしていたトウカとアフロは冷や汗を流しながら表情をまた暗くし、俯くように俺から目を逸らした。
・海星学園 裏山 合宿棟
「ここに来るのは夏休み前以来ですね。」
以前来た時よりもさらに生い茂った雑草と蒸し暑い空気に汗をかきながらトウカは言った。
「日時は指定されていなかった以上分かりやすい何かがあるとは思いますが…。」
しかしいくら周りを見渡そうが、それらしい物はなく。何かがいるような気配もなかった。
「中ですかね…。」
その言葉につられるように俺達は棟内へと入っていった。
「で、見つかったのは前俺達が泊まった時に放置していった残骸くらいか。」
あの時は片付ける間も無くカマイタチの住処に行ったからな。片付けなかったのも布団やゲームで、まず人が来ないからと放置していた。
「でもそれ以外に変なところなんて無いですよね。強いて言うなら前来た時から壊れてるお風呂の壁くらいで…。」
老朽化していたとはいえアレは確かに不自然な崩れだが今回の件には関係ないだろう。
「ですが行き詰まりましたね。このままでは仕事を受ける事すら出来ません。」
するとクミカは以前俺達が泊まった部屋の埃をほうきで掃きはじめた。
「取り敢えずはここで待つしかないんじゃない?日時が書いてなかったって事はもしかしたら監視カメラか何かで私達が来た事を確認してから来るのかもしれないし。」
その言葉にアフロは「まあ俺達の散らかした物だけは片付けるか。」と埃の積もった布団を窓際にかけた。
「わざわざそんな事せんわい。」
っ………。
突然、気配の無い場所から発せられた声に俺とクミカはトウカとアフロをいつでも守れるように構えた。
「「誰「だ」。」
昼にもかかわらず暗い廊下。そこから杖をつくの音とともに目の細い、真っ白な髪と髭を伸ばした腰の伸びた老爺が姿を現した。
「はて、名乗る時はまず自分からでないか?」
気配がなかった。匂いも空気の流れも鼓動の音すらも…。
「笑わせるな。もし敵対的な行動をする場合は手加減しない。」
すると老爺は「今一番敵対的なのは誰か良く見い。」と鼻で笑った。
「「………。」」
クミカに目を移すとクミカは警戒を解き、構えるのをやめている。
なぜだ…。
俺は警戒は解かず構えだけをやめた。
「あんたが仕事の依頼者で間違いないな?」
「いかにも。」
すると老爺は大きく溜息を吐いた。
「まず警戒を解いてくれんか?特にユウマよ。」
名前も知っているのか。と、恐らくU.M.A研究部の全員がそう考えた。そしてどこまで知っているのか………。とも。
「仕方あるまい。」
今一度溜息を吐いた老爺は息を吸った。
「ユウマよ汝は知っているはずだ。」
っ………!?
その言葉を聞いた瞬間、人生で初めての頭痛に襲われた。
しかしその痛みは一般的に聞くようなものではなく。立つのもままならない程の痛みに俺は膝をついた。
「変に刺激しないで!!貴方も分かっているはずでしょ!!」
無視も遮断も出来ない痛みに耐えているとクミカは訳の分からない会話を始めた。
「ユウマ先輩。」
トウカは心配そうに俺の背中をさすった。
「心配せんでも解除されるのは深層心理でのほんの一部。無意識下で記憶が手助けする程度よ。」
痛みの中頭に手を当てて見上げると老爺は俺を見下ろしていた。
「クミカ。説明しなさい。」
そして老爺に並ぶクミカは「この人は敵じゃない。」と説明し始めた。
「この人は私の知り合いなの。簡単に言えば利害関係が一致した協力者。」
徐々に収まりつつある痛みを感じながら俺は立ちあがる。
確かに下手な仲間よりも利害関係の一致した他人の方が信用出来る。
だが
「証拠はあるんですか?」
するとクミカは「無いね。」と苦笑いを浮かべた。
………。
「まあ、事実クミ先輩とは知り合いのようだ。それに今回は仕事、つまり利害関係だ。仕事は受ける。」
そう言うと老爺は「ならば詳しい話をしよう。」と笑った。
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