2-2
「アフロ先輩。前方に岩が………違う!最大舵で左に避けて!」
「あ?ああ!」
アフロは戸惑いながらも舵を左に切ると衝撃と共に左へと向きを変えた。
「最大推進!」
「ああ!!」
潜水艇が傾きながら進んでいくと、身体が置いていかれるような感覚に襲われた。
どうだ。
ソナーの影を見ると、影の進路から潜水艇は外れていた。
「………やはりそうなるか。」
しかしその影は徐々に方向を変え潜水艇の方へと向気を変える。
「アフロ先輩、今から言う通りに操縦してください。」
「分かった!」
あれが流れる大きな物では無く、俺達を狙う何かだと言うことは分かった。
「右に15度。」
俺の指示通りに操縦され潜水艇は影と向かい合う。
「少し速度を下げて維持。合図で左に思いっきり切ってください。」
距離は約500メートル。
互いに向かい合いならば曲がりきれない所で。
「今です!!右側ジェット最大噴出!」
「よっしゃ。」
指示通りに、しかし笑みを浮かべながら操作するアフロは荒波の中漁をする船長のようだった。
ソナーの影も徐々に方向を変えるがこちらの速度の方が早く、曲がりきれずゆ潜水艇のすぐ後ろを通り過ぎて行った。
「アフロ先輩、今のは何とか避けましたが次はありません。トウカちゃん!ソナーに映る影の動きと障害物を出来るだけ細かく伝えて!」
「分かりました!」
操縦席に戻り、アフロに全ての操縦を任せて俺は戦闘用アームとワイヤー射出砲、その他諸々のボタンを確認する。
「博士!この潜水艇に付けたその他諸々を全部教えろ!!」
『ふむ良かろう!!そちらの声の様子からして大体の事は分かる!その影とやらを捕獲してほしいぐらいなのだがまあ。』
「無理だ!」
『分かっておる。ソレの存在を確認できただけで十分じゃ!出来ることならその姿を納めて欲しかったが……。それよりも説明が欲しいのだろう?操縦席から見て右上の赤いボタン。』
押したら自爆しそうなこれか。
『それを押せば右側の操縦席から別の操縦桿が出るはずだ。』
指示通りにボタンを押したがコントローラなど出てこず、艇内にカチカチという時計のような音が聞こえてきた。
「おい!これ本当にコントローラなんだろうな!!なんか時限爆弾みたいな音がし始めたぞ!!」
焦りながらも影の方を向いたまま元来た道を正確に戻るアフロはやはり船長だった。
『あ、しまった。』
「おい、本当に自爆ボタンだったなんて事は無いだろうな。」
『それウィンカーのボタンだった。』
「「なんでそんな物が潜水艇にいるんだ「ですか」!!」」
これを見れば、全ての人間がトウカとアフロと同じ事を思うだろう。
『その右の小さなスイッチだったかな。』
……明らかに家の照明をつける物と同じスイッチを押すと操縦桿の上が開き、中にはゲームのコントローラーが置いてあった。
『まあ簡単に言えばゲームじゃ。』
ほう………。
「アフロ先輩、今と同じように影に向いたまま後方に進んでください。」
「ああ……っ!?」
「影は100メートルの距離を保ったままこちらを向いていっ!?」
このまま洞窟さえ抜けれれば脱出ポッドで逃げられる。
俺のプレイを舐めるな。
現在は互いに秒速1メートルで向かい合っている。
問題はこちらは最速でも秒速1.3メートル程しか出ないこと。
もしあちらが様子を見ているだけなのなら……。
この潜水艇はある程度装甲されているとはいえあの大きさの物にぶつかれば影響が出る可能性は低くない。
初見ノーダメージ縛り。
「とにかく今は相手が何なのかを知らなければなりません。クジラかサメかそれ以外の何かか。」
潜水艇の1.5倍と言う事は約12メートル。
体の大きさに反比例して速度の落ちるサメならば襲われる可能性がある代わりに逃げ切れる可能性が少しはある。
敵対行為は無いだろうクジラなら何故俺達を追うのか分からない。だがもし本気を出せば簡単に追いつけるだろう。さらにもし接触、それもヒレにでも当たれば潜水艇は御陀仏だ。
「12メートル。もしサメならまさしくUMAのメガロドンですね。」
そう呟くと隣のアフロが反応する。
「メガロドンって言えば。絶滅したホホジロザメをでっかくしたみたいなサメだったか。」
サメにしろクジラにしろイカタコにしろ、アフロのフラグが回収されたな。
「アフロ先輩、徐々に速度を落としてください。トウカちゃん、もし影が速度を上げたらすぐに言って。」
「「了解。」」
今は2人とも集中している。
クミカ。今は大人しくしていろよ。帰ったら詳しく話を聞かなければならない。
「影は速度を維持したままですね。徐々に距離が狭まってます。」
「アフロ先輩、潜水艇15度右に向けてライトを前方に向けてください。」
「ギリギリの距離で全力後退だな。」
正解だ。深海ではライトをつけても数メートルしか届かない。姿を見るには超至近距離で…。
「とにかく今は相手の正体を見ましょう。」
「距離30メートル。影の速度は変わりません。」
「さぁて、どんなやつだぁ?」
アフロのように言葉に出さずともこの場の全員が影の姿を見ようとと外をじっと眺める。
「26…25…24。」
その短い30メートルは緊張に包まれた長い時間だった。
「11…10…9…8…7。」
まるでカウントダウンかのように減っていく数字はさらに緊張を与えてくる。
「見えた………。」
そのアフロの呟かれると同時にトウカのカウントは止まり、俺を含む全員が息を飲む。
目の前で大きく開かれた口がこの潜水艇を狙っている事は誰もが理解した。
「ヤベェ!!」
指示を出すよりも早くアフロは全力で潜水艇を後退させた。
潜水艇の前をゆっくりと流れるように通り過ぎたそれは背中側が焦げたような灰色で、腹側は白ベースの焦げ茶色をした、巨大なサメだった。
「マズイですね、サメなら自分達に敵対していることで間違いないでしょう。」
『おお!!その姿を目にしたのか!!どんな姿だ?サメか?蛇か?タコかイカか!?』
テンションが上がりきった博士はマイクに顔を近づけたのだろう、音割れした言葉は俺達に苛立たせた。
「今はそんなことを言う暇はない。ソレよりもこの潜水艇に備わっているのはなんだ!」
『ああ。ええっと、ん?なになに?説明書によると三角で戦闘用アームの出し入れ。アームを出した状態の左のスティックでアームの上下左右、右のスティックで前後。Rを押せば三本指のアームで掴む。L押せばアームの回転。バツでアームを出したまま接続を切る。Pを押せばアームの切り離しじゃ。』
アームの接続。と言うことはアームとその他は同時に使えないのか。
「で?アームの接続を切っている間は他を使えるのか?」
『ホッホッホ!よくぞきいてくれた!!アームをしまった状態で四角を押せばワイヤーモードに切り替わる。ワイヤーモードはLを押している間だけワイヤーが出る。そしてRを押せばワイヤーが切れる。ワイヤーは形状記憶合金でいくら切ろうと先はフック状になるようになっている。』
「他は。」
『丸を押しながらLで前進、Rで後進するようにウォータージェット推進。バツを押しながらLで上昇し、Rで下降するように、同じくウォータージェット推進………じゃ。』
あとから〈じゃ〉を付けたな。
「だが十分だ。」
「距離15メートル、避けてからは距離を保ったままこちらを向いてます。」
「説明を待ってくれるとは随分空気の読めるサメのようですね。」
親はトウカの報告を聞いてそう呟いた。
「ありゃぁ、サメ…なのか?」
その呟きに誰も疑問を持たなかった。
尖った頭と一対の鰓孔。
あれはギンザメの特徴だ。しかし、今現在発見されているサメには……。いや、今発見したか。
まあ今目の前にいる個体を除けばあり得ない、まるで丸ノコかのように口内で縦に巻いた下顎の一列の歯。
「アレをサメと呼ぶかは今は分かりません。ですがアレはメガロドンと同じでしょうね。」
「ん?同じ?じゃあアレがメガロドンなのか!?」
「いえ。」と言うトウカの声に視線が集まる。
「現代には居ないはずの生物って言う事ですよ。」
そう。現代には居ない。2億5100万年前に絶滅したはずの生物。
「ヘリコプリオン。」
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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