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っと、まさか読まれるとは。今はイヤホンのせいで超聴力が使えないんだ。そういうのはやめてくれ。
耳を擦らせながら弾を避け、拳銃を蹴り上げる。
「っ!?」
弾を避けたことがよほど驚いたのか、男は蹴り上げた時に体制を崩した。
「悪いな。」
麻酔薬を打ち込むと、少し抵抗しながらも数秒で倒れた。
「ユウマくん!!」
「すいません。バレてしまいました。」
「残りの2人はトウカちゃんとアフロ君がやってくれたよ!」
報告が無かったな。
イヤホンに手を当てると配線が剥き出しになっていた。
さっきの弾か…。
弾が耳の横を通る音のせいで気付けなかった。
「ユウマ君これ付けて。」
クミカは自分が着けていたイヤホンを差し出した。
「感謝します。」
イヤホンを耳に入れ、口にマイクを近づける。
「トウカちゃん?」
「…ユウマ先輩!!?無事ですか!!?」
「大丈夫。イヤホンが壊れただけ。そんな事より銃を撃たせた。残りのタランチュラとコーンスネイルは?」
「…コーンスネイルは5人が船から降りて、タランチュラと接触しています。全員黒いスーツの同じ格好なのでボスは不明。2つとも銃声には気付いたようです。少なからずパニックは起こっています。コーンスネイルはタランチュラの攻撃と考えたのか銃を向けて、タランチュラは両手を挙げていますね。」
警戒がどちらかに向いているのなら幸運だ。
「クミ先輩。グロテスクなのは大丈夫ですか?」
そう問うとクミカは「得意じゃないけど、見るのは大丈夫だよ?」と首を傾げながら答えた。
「では我慢してください。」
腰に付けたサバイバルナイフを抜いた次の瞬間。俺の顔に血飛沫が浴びせられた。
「ん?おかしいな。」
「何です?アフロの見た目の事ですか?」
「うぉい!!よくこの状態でそんなボケかませるな!!」
銃から手を離しアフロは勢いよく体を起こした。
まったく……ミスからの動揺でさらにミスをしないようにリラックスさせようと思ったら…。ちょっと甘やかしすぎたな。
「それくらいしないとこの空気には耐えられないんですよ。」
「………。」
するとこの状況に引き戻されたアフロはスコープを覗き直す。
「タランチュラのボスみたいな奴が持ってるジェラルミンケースだが。アレは何が入ってるんだ?」
とうとう思考が出来なくなったみたいだ。
「密輸ってくらいなんですから金じゃないんですか?」
「いや、俺も仕事柄ああいうケースは使うがあのサイズだと金は綺麗に入らないんだ。隙間があると中でばらけたりして素早く行動が出来なくなる。金は多分付き人みたいな2人が持ってるあのジェラルミンだろうな。」
ん?密輸に必要なのは金と物。それ以外となれば……。
「ユウマ先輩。タランチュラのボスみたいな奴が持ってるあのケース。武器、もしくは金に変わる別の何かの可能性があるそうです。」
「あー、悪いけど今の発砲は誤射か別の誰かや。許したってぇな。」
「…ほう……。それで?金は?」
「そんな焦らんでもここにあるて。」
タランチュラのボスのような男が手を挙げると左右からケースを広げ、金を見せる2人が出てきた。
「あとはワシの分で丁度や………ってあれ。ん?おかしいのぉ。」
するとボスは地面にケースを置き、ガチャガチャと鍵の部分を触りはじめた。
「ちょ。ちょっと待ちや。なんか鍵の調子が………ふん!!悪いみたいやねん。」
するとコーンスネイルの男は向けていた拳銃を下ろしサングラスを取った。
「まったく。こちらも暇じゃないんだ。」
「ほんま………悪いな。」
すると次の瞬間ケースは勢いよく開き、閃光が放たれた。
そういうことか…。
「やってまえ!!」
光が消えるとコーンスネイルは目をやられたのか、構えた拳銃の照準はずれていた。
閃光を腕で遮り、コーンスネイルの様子を見てタランチュラのボスは笑いながら拳銃を空に向かって撃つ。
するとそこにいたタランチュラ全員がコーンスネイルに拳銃を向け発砲した。
弾は全てが脚に当たりコーンスネイルは全員膝をつく。
「おかしいのぉ。この合図で全員が撃つ手筈やってんけど…。まあええわ、どいつがボスや?」
ボスの男は跪く5人に順に銃を向けていくと全員が首を振った。
「あぁ!?全員ちゃうんかい。てことはただの運び屋か。」
「まったく。大事な手下を無闇に傷付けないでもらいたいな。」
タランチュラのボスが愚痴っていると、若い男の声と共に明かり一つない船から、真っ黒な仮面をつけた金髪の男が降りてきた。
「あんたがボスやな。ちょっとワシらのことなめすぎちゃうか?ブツも持たずに取り引き来るて。」
「心配しなくても商品はちゃんとある。金を払ってくれるのなら取引はするさ。」
金髪の男はコーンスネイルの紋章が入った黒と白、2つのジェラルミンケースをそれぞれ両手に持っていた。
「こっちが毒で、こっちが抗体。」
そう言って左の黒、右の白の順でケースを持ち上げた。
今回の俺たちの仕事は毒を手に入れればいい。
「トウカちゃん。互いのボスを撃って。」
「…分かりました。」
「あ、でもその前にそこの奴をどうにかした方がいいと思うが?」
迷いなく撃たれた弾は俺が隠れるコンテナへ当たった。
「…トウカちゃん撃つな。」
陰から出るとタランチュラのボスは目を見開く。
「ほほう。若気の至りという訳ではなさそうだ。なかなかの者のようだね。恐怖もなければ焦りもない。それにその全身の血は一体誰のだい?」
しかしタランチュラのボスとは違い仮面男は笑みを浮かべて両手を広げた。
「そういうお前も数多くいる人間の中では強いだろ。まあこの血はお前の取引相手のお仲間をちょっとね。」
「なんやて!?」
タランチュラのボスはコンテナ群を向いた。
「なあ仮面のお前。俺と取引しないか?」
「聴きましょう。」
仮面男が右手を上げると、その後ろの5人の手下は互いに支えながら船の中へと入っていった。
「今からお前の取引相手から金を奪う。その金でその毒と抗体は売ってくれ。」
仮面男は一瞬硬直すると「フハハハハ」と高笑いをした。
「これは失礼。….貴方はまるで自らが正しいと信じる子供のようだ。」
あまりふざけるな。
「そんなに睨まないでください。分かりました。私達は金さえ手に入れば問題ありません。」
「もし守らなかったら船ごと沈める。」
そう忠告してポケットの中通信機のボタンを2回押した。
「8.7.6.5.4.」
俺のカウントダウンの意味が分からないのか周囲の全員が警戒して俺から目を離さなかった。
「3.2.1。」
そしてカウントダウンが8秒を超えてすぐ、タランチュラのボス以外の全員が順にバタバタと倒れていった。
「狙撃手ですか。それも優秀なようだ。」
高みの見物で俺とタランチュラのボスを眺める仮面男は倒れた奴の麻酔弾を首から抜いていた。
「その金を渡せ。」
「………殺されるんは勘弁や。」
タランチュラのボスは倒れた奴の持っていた2つのケースを放り投げる。
「何を言っている?殺しはしない。」
誰1人。
タランチュラとコーンスネイルを困惑させるために顔から胴体にかけて、染み付かせた自分の血を感じながら、麻酔弾をタランチュラのボスの首に打ち込んだ。
「ちょっと薬物依存するがな。」
タランチュラのボスが倒れた後。地面に転がったケースを蹴り、仮面男の足元へと滑らせた。
「フ、フフフ、フハハハハハハハ!!!!いいですねぇその見下しっぷり。分かる。分かりますよぉ!!」
どうしたテンションがおかしいぞ。
「ですが薬物依存はごめんです。」
そう言うなり仮面男の表情からは笑みが消えた。
そして静かに、座った目で呟いた。
「………殺すなよ。」
すると黒い船の窓から閃光と共に実弾の狙撃銃が放たれた。
「避けろ!!」
そう呼びかけるとイヤホンからガチャガチャと行動音がきこえる。
そして発砲から6秒後、バンッとプラスチックが割れるような音と共に「「危な!!!」」という2人の声が聞こえ、安全を確認した。
「安否は確認出来ましたか?」
仮面男は「ね?無事でしたでしょ?」と言いながらニヤニヤと笑っている。
「無事じゃなかったら今頃お前は死んでる。」
「怖い怖い」と笑い続けていた仮面男首は、突然笑顔を薄くさせ、首を傾げた。
「ところでこの取引内容はご存知で?」
「悪いが俺達はこの取引を阻止しろという依頼な物でな。」
すると「おやおやおやぁ!」とからだをくねらせる。
そして次の瞬間その笑みは消え、冷たい目が外灯に照らされた。
「これは猛毒。生物を、国を、星を殺す毒。」
なるほど、国が必死になって止める訳だ。
「しかし星は言い過ぎじゃないのか?」
「フフ…。」
仮面男は肩をすくめながら薄い笑いを浮かべた。
「まあ、本当ならきちんと毒の内容と抗体の内容を伝えるんですが………。阻止するという事は依頼者はこれの内容を知っているようだ。」
「早く渡せ。」
「すいませんが私は取引相手の信用を大切にする主義でして。内容の確認をしていただきたい。」
俺が1人で確認したいが…。
「分かった。」
仮面男はニコリと無垢な笑みを浮かべると片方のケースを地面に置き、もう片方を腕の上で開けた。
「おいトウカちゃんありゃ一体どういう事だ?」
「そんなの私が聞きたいですよ。」
本来なら弾を当てれるかなんて神にしか分からないこの距離。こちらはそれを科学の叡智の未来予知に迫る予測で当てている。だが相手は当ててきた。
相手もこっちと同じ銃を持っていた?いや、これは確か極秘に作られた物のはず。
背中に背負った私と同じくらいの大きさのガンケースを背中に感じて首を振る。
「実力でしょうね。」
衝撃吸収材に包まれた注射器の中で透明な液体が揺れる。
「これが毒。DNAを急速的且つ不重複的に変化させる感染力の高いウイルス。」
強制的にダーウィンの進化論を作り出すのか。
「そんな事すれば人間の大半は死ぬぞ。生き残ったとしてもそれは人間の形を保てない。」
仮面男は肯定するかのように微笑んだ。
「そしてもう片方が抗体。生産は安価かつ簡単。ウイルスの動きは止められないが、DNAが変化する動きを完全に停止させる。」
ウイルスではなくDNA自体を……?
ありとあらゆる可能性と考え、その原点を浮かべた中に1つだけ誰も信じないであろう考えがあった。
「………その毒と薬。まさかと思うが人間以外の目線じゃないだろうな。」
「~!!!凄まじい思考能力だ!!!」
その笑顔をYESととるなら。
「…そんな事があり得るのか?」
「ええあり得ます。現にあり得てます!」
「だがそれが真実なのなら、お前達は何がしたい?」
「人類の未来は個々の人類それぞれが決めるべきです。」
馬鹿げている。
「まあどちらにせよ今回の取引で引き金は引かれる予定でしたが……。」
?
「それではまたいつか。貴方がバベルを起こしてくれる事を期待していますよ。」
そう言った仮面男は黒い船へと入ろうとして、また立ち止まった。
「おっと少年。貴方のお名前をお聞きしても?」
「ブラックエンジェルとでも名乗っておこう。」
「おお!私の厨二心をくすぐる名だぁ!」
そう笑いながら仮面男が消えた黒い船は海へと沈んで行った。
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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