運転手
「昼食はどうします?」
助手席から振り返るとトウカは静かな表情で流れていく窓の外を眺めていた。
このまま飯を食って帰れば夕方頃か。
「私ザンギでシースー食べたい!!」
クミカは寿司を食べるそぶりをしてそう言った。
「こら!どこでそんな言葉覚えたの!!全く…いい?そんな事言ってる人は金持ちの人だけなの。うちの家族はそんな物食べられないの。」
お前はどこのオカンだ。
「金持ちが何を言ってるんですか。」
窓の外に目を向けたままトウカは呟いた。
「2人とも忘れたのか!?俺達には金なんてもう残されてないんだよ。」
「でもユウマ君の借しを返して貰えばほぼゼロって……。」
そんな呟きに俺は睨むようにクミカに目を向ける。
「確かに自分が動けば簡単にあの土地が手に入るでしょう。でもU.M.A研究部ではアフロ先輩の金を使う事になっている。本来なら自分の借しも別の場所で使うはずだったんですよ。」
図々しかったと気付いたのかクミカは「うぅ、」と顔をしかめた。
そう、俺たちは数億を集めなければいけない。
アフロが少し根回しすればすぐに手に入るような金かもしれないが今回ばかりはビルの建設で金を回しすぎた。
「なら皆さん。今日は無理ですが、もし今回の作戦がうまくいけば自分が皆さんを回らないお寿司に連れて行ってあげますよ。」
するとその言葉にクミカは目を輝かせた。
「時価マグロー、に時価アワビー!時価うなぎー、と時価わさびー。」
わさびにまでこだわる店をご所望と…。回転寿司に連れて行ってやろうか。
そう決意していると進行方向に駅が見えた。
「さて、今日の昼食は駅で適当に済ませましょう。」
・東京駅前
運転手以外が荷物を持って車を降りた。
「また後で戻って来るので尾行を撒いておいてくれ。」
3人に聞こえないように運転手に伝えると、茶色い髪を後ろで括った若い中性的な女の運転手はサイドミラーを見て無表情に小さく頷いた。
「さて皆さん。ここなら高級では無いですが、なかなかに種類が揃っているはずですよ。」
駅内に入り飲食店フロアへ行くとクミカとアフロは店の一覧表の前に立ちワイワイと入る店を選び始めた。
「………。」
そしてその数歩後ろに俺とトウカは並んでいた。
「選ばないの?」
「先輩って………何者なんですか。」
どこか遠い目をしてクミカとアフロを眺めていたトウカは目を合わさずに低い声をだした。
しかしその声は少し震え、俺との間に距離を置いている。
成る程。総理への殺気を感じたとかそんなところか。
「怖いか?」
「ええ…。」
「ならその気持ちを忘れない事だ。」
恐怖は人を強くする。
これから大きな事をする仲間……。強くなって貰わなければ困る。
「あ、なんだかラーメンが食べたくなってきた…。」
しかし、恐怖の理由が俺の殺気なのかは分からないが、理由が俺なら今後の指揮のためにも和らげる事は必要だろう。
脈略のない俺の言葉にトウカはやっと俺の顔を見た。
「トウカちゃんならいつか分かるさ。」
優しく微笑みかけて俺はクミカとアフロへと混ざる。
以前俺にアイコンタクトと称して思考に入ってきた事から今回試しとして総理の感情を読むように指示をしたが…。
やはりトウカの才能は心理系。下手に言葉を続けて俺の感情を読まれては困る。
「なんだかラーメンが食べたくなりました。」
「お!ユウマ君も参加か!食べる物はじゃんけんで決めるぞ!ちなみに俺はそばだ!」
「私は天ぷら!!」
「ちょっとぉ!!私も参加しますよ!!私パンケーキが食べたいです!!」
そうやって会話に入ってきたトウカは笑顔だった。
「これ昼食にどうぞ。」
「感謝します。」
駅前に来た時の黒塗りの車ではなくワゴン車に乗っていた運転手に天丼のテイクアウトを渡し、車に乗り込む。
「この車は?」
「流石にあの車ですとすぐに気付かれるのでレンタカーを借りました。ではどこへ向かいましょう?」
このまま車で帰ってもいいが…。
「関西まで行って帰ってくるのは少々疲れるでしょう。自分達はこのまま新幹線で帰ります。」
そう言うとアフロはスマホを操作し始めた。
「あ、1時間後に飽きがあるぜ。2人ずつに分かれるが…。」
「失礼ながら霧崎様。」
静かに声を出した運転手の声に注目が集まる。
「私は例の仕事を伝え仕事を果たすか監視せよと仰せつかっているので今回はあなた方に付いていきます。」
俺が仕事をしないとでも思っているのか?
まあいい。
「ではこのまま海星学園までよろしくお願いします。」
「承知致しました。」
後部座席で小さく笑ったアフロはスマホの電源ボタンを押した。
アフロとクミカが運転手も巻き込んでしりとりをしていると機械音が車内に響いた。
「申し訳ありませんがアフロ様。トランクにコピー機がありますので印刷された物を送っていただけますか?」
運転手にまでアフロと呼ばせたいのか。
「ん、了解した。」
アフロは上半身だけ座席を超え、紙を取った。
「全部で10枚……だな。」
アフロは席に座りなおすと紙を俺と運転手の間に置いた。
「霧崎様。それが今回の依頼。4億5826万円分の仕事になります。」
「意外と早かったですね。」
さて、どんな仕事だろうか。
書類は一枚ごとに一つの仕事の内容が書かれていた。
「仕事自体はそれ程多くは無いですが………。」
後ろの3人に渡すとそれぞれが「マジか…。」「無理ですぅぅぅぅぅ!!!」とトウカとアフロが音を上げた。
・海星学園 高等部棟 生物室(U.M.A研究部室)
「なあ運転手さんよぉ?」
「ガブリエルと…。」
「「「え?」」」
また…。
「芽を撫で凛と慧眼に鏤める(ちりば)と書いて芽撫凛慧鏤。無理矢理字を当てたキラキラネームと言うものです。」
そうガブリエルは出会った時から変わらず無表情のままそう言った。
「おお…!」
おいやめろガブリエル。同じ境遇のサウナさんが仲間を見つけた目をしているぞ。
「それでアフロ先輩?何と言おうとしたんですか?」
「え…。」
やめろ。ゲームでムービーシーンに入った瞬間邪魔をされた様な顔をするな。
「…あぁ。この仕事で間違い無い、んだよな?」
「ええ。仕事は10個だと聞いています。」
「今だけはアフロ先輩に同意です。確かに数億の価値の仕事だとは聞いていましたけど…。」
トウカは頭を抱え。
「なんだよこの仕事は!!」
そう言ってアフロは書類を机に叩きつけた。
「この書類は10枚共に統一性がありません。恐らく10の依頼者がそれぞれ直接あのコピー機に1枚の仕事を送ったんでしょう。」
どうせ霧崎優真が好きな仕事を一つ聞いてやる、とでも言って代わりに金を要求したんだろう。
「とは言っても、これでは時間が足りないのでは?」
「あの土地を買おうとする者は1年後に購入できればいいとの事。より利益のある仕事をして欲しいが為に国が期間を最大限に伸ばしたのでしょう。」
でしょう?
「ガブリエルさんは詳しくは知らないのですか?」
ガブリエルは頷いた。
「私は伝達役、監視役と言う小さな仕事の為に呼ばれたものでして。」
「成る程。」
つまり国からの言葉を伝えるだけの電話か。
「タイムリミットが1年に増えたのはいい事です。ですが今回ばかりはそれでも時間が足りません。せめて夏休み中に一つは済ませますよ。」
本当。楽しそう…。
でも、これは仮初め。ただ欲しい物だけを集めた夢。
夢はいつか覚める。その夢が覚めた時君は………。
霧崎優真の最後の足掻きは始まっている。
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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