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霧崎UMAの優真譚  作者: 尾高 太陽
File.5
23/73

異常 修正済み

 2時間前。

「トウカちゃんとアフロ君が!!」

 電話に出るなりそんな急いた声のクミが挨拶もなく話し始めた。

「何かあったんですね。」

 落ち着かせるべく内容を整理しようとするが、クミは俺の言葉を無視して「トウカちゃんとアフロ君が!!」と繰り返した。

 トウカとアフロがなんなんだ……。

「黒い服の人達に連れて行かれた!!」

「っ!」

 人質か!クソ!!やられた!

 スマホのアプリで2人の位置を確認するが、2人は予定通りジャッカロープの住処を示している。クミの嘘?いやこの可能性は考えるだけ無駄か……。

「ラファエルの奴。」




 そして現在。俺とクミだけになったホテルの部屋で、俺は次の手を考えていた。

 さて、どうする。あまりにも簡単にレオを渡したとは思ったが。黒い服の奴ら……、仲間を俺達につけてやがったのか。

だが、今見るべきはそこではない。

「トウカちゃんとアフロ先輩の〈さらわれた〉詳しい経緯を教えてください。」

 するとベッドに腰かけるクミは小さく息を吐いて淡々と経緯を話しはじめた。

「外で準備をしてたらスーツの男女が3人来たの。アフロ君が何かを話してると思ったら、トウカちゃんとアフロ君が黒い服の人達と一緒に……。」

 自主的に?脅迫?誘惑か?いやその点もだが……。

「クミ先輩は止めなかったんですか?」

 するとクミは暗い表情でうつむいた。

「ごめん。移送の準備をしてたら気づくのに遅れて……そしたらアフロ君が後は任せろ!って。」

 ラファエルのリスクを考えればそこで無理やり止めるのは適切ではなかったか。それにアフロには何らかの勝算があった?

 3人と離れている間にも何度かGPSは確認していたが、その途中に不審な動きはなく、報告を受けてからも動きはなかった。

 そして今も。俺とクミの持つペンは今俺達のいるホテルに、そしてジャッカロープに着けたGPSを含めた後の3つのGPSはジャクソンホール空港近くの山に表示されていた。




昨日

「これは想定外の幸運ですね。」

「と言うと?」

 酔いつぶれて地面に横たわるジャッカロープを囲むようにして、俺達は姿勢を低くして会話をしていた。

「ジャッカロープに対して大きなアドバンテージを得られたということです。」

 1人口角を上げていると、3人は顔を見合わせて首を傾げていた。

 そんな3人に向けて、俺は3人が持ってきてくれた俺の荷物から予備のGPSを取り出して見せる。

「問題です。人間が高い知能を持った故に恐れることは何でしょう。」

 正解かどうかは問わず各々は考えると、珍しく3人とも答えにたどり着いたようだった。

 ならば答え合わせをしよう。

「正解は未知です。」

 人間は過去の経験から物事を予測し、予測するために物事を知ろうとし、知っていく。それ故に予測できない知らないことには不安を抱き、恐怖する。そして恐怖は恐怖の元を過剰に過大評価させ、自身よりも上と認識してしまう。つまり相手にとって恐怖をもたらす未知となれば優位に立てるのだ。

 ならば今すべきことは明確。

 俺達の情報は一切を与えず、ジャッカロープの情報を手に入れ、対策・対処する術と暇を与えることなく交渉の場に引きずり出す。

「まぁ持てる情報はジャッカロープの住処の場所だけですが、今に至るまでたった一度として人間に見つかることの無かった住処の場所は大きな情報でしょう。そしてそれをいつの間にか何故か知っている未知の存在となれば……。」

「ジャッカロープを恐怖させ、有意に立つことができる?」

 GPSをジャッカロープの角の見えにくい場所に付けながら話していると、意図に気付いたのか、少し驚いた様子のトウカは俺よりも先にそれを言葉にした。

「そう、そしてある程度の恐怖があれば、連れ帰った後も一時的に安定させることができる。」

 するとその横で同じく驚いた様子を見せていたアフロが、何処か諦めたかのような苦笑いを浮かべた。

「俺も職業柄先の事は考えるが、ユウマ君はなんかこう……どこまでも先を見据えてそうだな。」

「………。」

 そんな事を話している間に、GPSを忍ばせ終えた俺はスマホとの連携ができていることを確認し、片づけを始める。

 あとは連れ帰る〈まで〉だな。

「さて、後はホテルに戻ってゲームでもしながら住処を探しましょうか。」

 そういって3人に向かって笑いかけると、3人もまた微笑むように笑って答えた。



 ホテルに戻り、3人をゲームで虐……もとい鍛えていると常に画面を開いたままにしていたスマホの中でGPSが動き始めた。

「おや、ようやく起きたようですよ。」

「え………あ。はい。」

 俺の報告にワンテンポ遅れて生返事をしたトウカは思い出したように固まっていた手を動かしてキーボードを操作し始めた。

「気配を消して……気配を感じる……視界は最大で……瞬きは最低……弾は避ける前に射線に入らない……見てから狙う……1発で仕留める…。」

 そしてアフロに至っては、その報告は届いていなかったらしい。

 しかしそんな中、クミは「ふん♪ふふん♪」と鼻歌交じりに相手を倒しながら、「寝坊助だねー」と笑って答えた。

 トウカは集中力に難あり。アフロは見込みがあるな。クミは……俺と同等といったところか。

「ではあと3回勝ったら休憩にしましょう。」

 訂正しよう。ニンジンの吊るされたトウカの集中力は人並み外れる。



「さて、動かなくなりましたね。」

 ゲームを終え、各々は各々の過ごし方で休憩をしていた。クミは未だにパソコンでゲームを続け、トウカは疲れた様子で手を閉じたり開いたりしながら窓の外の風景を眺めている。アフロはベッドに寝転がり、ノートパソコンで動画を見ながらホテルに備え付けられたテレビをつけ、スマホを操作していた。

 俺は部屋の椅子に腰かけ、アフロがつけたテレビを眺めながらGPSの様子を窺っていると、一定の速度で移動していたGPSの動きが小さくなった。

想定よりも位置ズレが激しいため詳細な場所は分からないが、巣である以上GPSが指す周辺を調べれば見つかるだろう。

「この辺りが住処のようです。」

 そう言って部屋の中央にスマホを持っていくと、3人はその画面を見ようと集まってくる。

皆で覗き込む画面には、GPSが空港から数キロ離れた山を指していた。




 住処を見つけた昨日と同じように、しかしトウカとアフロのいない部屋で、ジャッカロープに付けたGPSに、2人のGPSを加えた3つを示す光が表示されたスマホの画面を眺める。

 まるで2人の代わりとでも言うかのように存在する未知の敵。

「チッ……。」

 俺がジャッカロープに対して使おうとしていた手法をそのまま使われた。

 この現状を打開するのにアフロの言葉を信じるだけ、と言うのは正しい判断ではないだろう。GPSがあることを踏んで、俺の助けを待っているのかもしれない。

「ユウマ君……。」

 スマホを眺めながら思考を巡らせていると、クミは俺の顔を覗き込んだ。

「……情報が無い以上仕方ありません。ひとまずジャッカロープの住処に行きましょう。」




 ・空港隣接山 中腹

「さて、ジャッカロープと2人のGPSはこの辺りを指していますが……。やはり位置ずれを起こしているので、ここ30メートル圏内としか言えませんね。」

 周囲を見渡すがトウカやアフロの姿はなく、GPSらしきものも見つからなかった。

「じゃあどうする?予定だと……。」

 そう、酔ったジャッカロープの足取りをGPSで追いかけている際、あからさまな遠回りをしていたため入り口の場所は分かっていた。入口が空港のすぐそこという予測は外れて、かなり山よりだったが今はどうでもいい。どうせ他の入り口が空港のそばにあるとかだろう。そもそも今まで人間に見つかった事の無い動物がそんな場所に馬鹿みたいに大きな入り口を作るはずがない。大きくてもジャッカロープが2匹通れる程度の道のはずだ。

 そのため本来の計画では入り口でレオを説得し、それでもだめなら脅迫してでも群れを連れてくるはずだったが、中にラファエルの仲間がいる可能がある以上レオを1人で送り込むことはできない。そもそもトウカとアフロが中にいるのであれば存在するはずの、人間が出入りできる場所を聞ければ良かったのだが……。

 ホテルに置きっ放しと言う訳にもいかず、連れてきたレオの入ったペットバッグに俺とクミは目を向ける。

 しかし案の定レオからの返事はなく、俺とクミは諦めざるを得なかったのだ。

 クミがいるから答えないのかと思いレオと一対一で話しかけてみたが、それでも返事はなく、道中俺の質問に答えたのがほんの気まぐれだったらしい。

 となれば……。

「掘るしかないですね。」

 しかし掘るとなれば時間がかかる。人の目は少ないとはいえあまり目立つ行動はできず、かといって2人が人質に取られている以上急がなければならない。

 仕方ない、とりあえずは姿を隠せる穴を掘ったら穴を隠して、そこからは全力で掘るしかないか。

「ですがあまり目立ちたくないので岩の根元を掘りましょう。」

 そう言って隣に立つクミに提案をすると、クミは何一つ答えることなく、ただまっすぐに一点を見つめていた。その視線を追うと、少し離れた場所に俺の言った通りの大きな岩が置かれていた。

「………。」

 先にその結論に至っていたのなら先に……?

「ユウマ君。」

「はい。」

「あの岩何か。」

「えぇ……。」

 何かが違和感だった。何かと言っても明確なその部分があるのではなく、強いて言うなればその〈在り方〉が違和感だったのだ。それはあまりにも整い過ぎている印象だった。まるでそこにあるべき姿のあるべき物があるべき場所にあるべき向きのあるべき角度で、あるべきままにそこにあったのだ。

 俺とクミは何を言うでもなくそれに向かって歩みを進める。しかし岩に近づくにつれて、その聖域に俺達はあるべきではないと宣告されるかのように威圧感が増していった。

「………っ。」

 そうして岩に触れられる距離にたどり着く頃には、その威圧感は俺とクミの警戒を厳とさせていた。

 こんなことはそうそう起こることではない。つまり、ここに何かがある。

 俺は岩に手を付き、少しずつ力を込めていった。

 それはこの聖域のあるべき姿を崩す行為であり、込める力を強めるにつれて、まるで押し返してくるかのようにその威圧感はさらに増す。

 威圧感に抗いながら岩を押し続け、岩は少し浮き上がらせた俺は、地面に着いた奥側を軸に岩を横にずらす。するとそこにはカマイタチの住処にある縦穴のような、しかしカマイタチの住処とは違い、人1人がギリギリ通れる程の深く暗い縦穴が隠されていた。

「………。」

 岩を下ろした俺は、横に立つクミとその穴を覗き込む。

 ジャッカロープが地下に生息している以上、それらを監視するには監視カメラの設置や出入口の作成などの何らかの方法で干渉しなければならない。

 しかし人間から隠れる存在である以上、ジャッカロープが人間の通れる穴を掘るとは思えない。俺ならラジコンなどでコードを引いて監視カメラを設置する方法を選ぶが、この穴を見る以上ラファエルは穴を掘る方法を選んだのだろう。

 だがラファエルがこれほど雑に隠すだろうか。もし俺が穴を掘る方法を取るのであれば、通信式のカメラを仕掛けてコードで繋げた送信機とバッテリーだけを地上に出すか、出入りする場合は毎度モグラのように掘って埋める。

 もちろん一般的な人間にはそう簡単に出来ることではないかも知れない。

 だがラファエルは違う。

 いや、正直現状を整理しただけであればラファエルはそれ程の脅威ではないのだ。俺のエコロケーションを見抜き、未来を予知しているように見えた、見せられただけだ。

 しかしそう考えながらも俺は本能的にラファエルを脅威と認めている。ラファエルはどこか、いや今のところ限りなく〈異常(俺)〉に近い人間だ。

 となると、この穴はトウカやアフロが効率よく通るための穴であり、まだ塞がれていないことから、2人が出入りするためであれば2人はこの下にいて、生き埋めにする気であれば2人と2人をさらった犯人がまだ中にいるということになる。

 @ODAKA_TAIYO

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 見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。

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