りんご 修正済み
「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????」
「お前に負担がかからないように速度を落としているんだ。トウカの声で叫んだ所で止まりはしないぞ。」
テーブルクロスで見えない檻の中のレオにそう警告して俺は滝の横を飛び降りた。
「Holy shit!!!!!」
あの町か。
山の上から町を見下し、目的地への最短ルートを構成していく。
「おいレオ、今から人の多い場所に行くが、くれぐれも声は出すなよ。」
分かっていたことだが返事はない。しかしレオを連れてここに来るまでの間に他者の助けは期待できないことは分かっただろう。沈黙を了承と取り、俺は街のホームセンターへの最短ルートである崖を飛び降りた。
「うっ!」
内蔵が浮き上がる感覚のせいで出たのであろうジャッカロープの声は初めにトウカと話していた時の男の声だった。
素の声はそれか。
・某スーパーマーケット
布で包まれた正方形の何かを持った怪しい姿の俺は足早にマスクとサングラス。最低限の水と食料をカゴに入れていく。
「欲しい物はあるか?」
そんな中周囲の人間に聞こえないように小さく声をかけたが返事はなく。目的の1つであるペットバックをレオに見せても言葉はなかった。
まあ嫌いな人間に頼んでまでこだわる物でもないか。
「これにするぞ。」
レオの返事は諦めた俺は、機動性に優れたリュック型のペットバックを手に取り、レジへと向かった。
日本人なだけに流石に目立つか……。
店の中でも十分注目を集めたが、店の外にでると障害物がなくなり、より多い人数から注目を集めていた。同種の群れに他種の個体が入れば意識、警戒するのは当たり前だ。
「ふむ。」
だが、これ以上の注目はこの後に響くな。
そう考え、俺は気配を消した。
人間というものは1つのものに集中すると他の物が見えなくなる。
つまり集中しているものが他の物になれば集中は切れる。
近くの人間に足音を揃え、呼吸を合わせ、車や人を使って視線を遮る。
それを俺以外の全員を対象に……。
全ての人からの注目を逸らし、人目の少ない店の裏に来た俺はジャッカロープを檻からペットバックに移すためにテーブルクロスを取った。
「おいレオ。最初から思っていたがラファエルはお前をどうやってこの檻に入れた?」
そのジャッカロープの入った4面の鉄の縦格子と鉄の板の床と天井の檻はどうやっても開かない構造だったのだ。レオを入れたあと溶接したとしか考えられない……。おかげで運びやすかったが、しかしそうなるとラファエルはレオを出す想定はしていなかったことになる。
「………。」
「まあ、答えないだろうな。」
俺は鉄格子をレオが通れるくらいに広げ、そこから腕を入れてレオの手足の鎖を破壊する。そしてペットバックの開いた口を近づけた。
「自分で入るか無理やり入れられるかは自分で選べ。」
するとレオは檻の中から俺を睨み付け、格子に角をぶつけないように首を傾けながら檻から出ると、「ぺっ!」とペットバックの蓋を持っていた俺の手に唾を吐きながら中に入っていった。
「………。」
もちろん唾は避けたが、その反抗的な態度に俺はため息を吐いて、蓋を閉じたのだった。
「白い髪のマスクとサングラスの付けた男……お前だな?」
「外的情報だけで判断しない事だな。」
無表情で立つ筋肉質の白人の男2人の間でニヤニヤと笑っている細身の白人の男は肩をすくめた。
「全くお堅いねぇ……。月は己で光れない。」
大学近くのホテルに泊まった時から連絡しておいた相手。コイツとの取引でお使いを済ませればあとは帰るだけだ。
そしてその取引を始める合図として、あらかじめ決めておいた合言葉で互いを確かめ合う。
「しかし光っている。」
こいつら……。
3人のベルトは、表面が少し上を向いていた。つまり体の後ろ下方向に引っ張られている。恐らく腰に銃を忍ばせているのだろう。そしてTシャツとジャケット、そしてデニムパンツのラフな服装を装っているが、その下には薄型の防弾チョッキが着られている。
その上筋肉質の2人はベルトの物以外にも武器を忍ばせている。
念には念を入れてつけた交互に3つの言葉を言い合う暗号。こうして実際に会ってみると、ただの面倒だったな。
「だがそれは他者の力だ。」
すると細身の男が手を挙げ、それに反応した後ろの2人が、それぞれ手に持っていたジェラルミンケースを開けた。
俺から提案したことながら、時間短縮には賛成だ。ふむ、アレにも問題はないな。
「それは悪いのか?」
今となっては意味もないが、暗号を続けた男に続けて俺も暗号を返しながら頷いて確認したことを伝えると、2人の男はジェラルミンケースを閉じた。
「ならどうする?」
さてこれで終わりだな。
「悪いままでいい。……さて、さっさと終わらせよう。」
代金を払おうとポケットから財布を出すと、目の前にいた3人が背中側のベルトから抜いた拳銃を俺に向けた。
「ああ、終わりだ。」
その男の笑い混じりの言葉に続いて3発の銃声が響いた。
「レオ。答えなど戻ってくるとは思っていないが、自己犠牲をしてまで群れを守ろうとしたくせになぜラファエルから逃げようとした?」
逃げれば群れを危険にさらす。それは明白だ。
「………。」
案の定背負ったペットバックから返事はなく。俺は山道を駆け抜け続ける。
さて、ラファエルという不測の事態のせいで、急ピッチで行動せざるを得なくなってしまったが。レオやその仲間を連れ帰ったところで安全はあるのだろうか。確かにラファエルから距離を置くことができ、一応カマイタチの巣という比較的安全な場所もあり、のちのち広範囲での警備も安定させられる。だが、眼の数や土地面積で考えれば日本は適していないのは確かだ。
「我が捕まれば皆も捕まるだろう?」
「……だろうな。自己犠牲を選んだのもそれが理由だろ?」
思考中に急に話しかけるな。危うく初めての会話を無視するところだった。ダメだな、最近は特に周囲が騒がしかったせいで、無視したくなってしまう。
「だからこそ逃げて我は捕まろうとしたのだ。普通の人間なら我に耳を傾けるだろう?」
ん?……そういうことか。
「お前、全ての人間よりもラファエルの方が危険と判断したのか。」
レオがどこまで把握しているのかは分からないが、言語を介する生物が捕まれば監視の目は増え、それは結果的にラファエルを抑止する。さらに言葉が通じ、希少性が高い以上、不当な扱いをされる可能性も低い。つまり、レオは自由を捨てることで、ラファエルというリスクを排除することを選んだということだ。
「いいや、奴だけではなく、お前とクミと呼ばれていた女も危険だ。」
「なに?」
ラファエルと俺はすぐに分かるだろう。だがクミは……。
「トウカも危ういがアレはしょせんリンゴ。腐っているに過ぎない。」
りんご、腐る。アメリカには〈ひとつの腐ったリンゴが樽全体をダメにする。〉ということわざがあったが……。
今の話だと〈危険〉と判断された俺やラファエル、クミは腐ったリンゴでトウカはその他のリンゴ……だが。
「僕とトウカは何が違う?俺は腐れば危険で、トウカは腐ってもいいという差はなんだ。」
すると背中から「ハッ」と鼻で笑う声が聞こえた。
「お前達が腐っている?そんな事はとっくに知っているが。お前達はリンゴではなく、リンゴを腐らせる全くの別物だ。」
さしずめエチレンガスか。
「いやしかしお前は違うな。奴やクミとやらはリンゴとは違うそれだが。お前はリンゴの身の中にいるような……。」
一体どういうことだ?リンゴ太郎か?
そんなことを思いつくと同時、胸の内ポケットに入ったスマホが振動した。
「………?」
慣性の法則で山肌を滑りながらスマホを開くと、それはクミからの着信だった。予定にはない着信に疑問を持ちながら、滑った先で地面が無くなったのを感じ、崖から落下を始める。俺は落下途中で、山肌に生えた木に捕まってぶら下がり、着信の応答ボタンをタップする。
「はい。どうしました?」
・エルク・ルフィージュ・インホテル5号室前
夕焼けに照らされたホテルの扉を開くと。
「ユウマ君。」
あまりに綺麗なまま根こそぎトウカとアフロの痕跡が無くなった部屋の中で、クミは1人座っていた。
「一体何があったんですか。」
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