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霧崎UMAの優真譚  作者: 尾高 太陽
File.5
18/73

侵入 修正済み

 私の知らないユウマ先輩。私の見たユウマ先輩の全てには居なかったユウマ先輩……。

 そんなユウマ先輩を見て、私は思わず口角が上がるのを感じたのだった。




 ・スターバックス

「ご注文は?」

 女性店員は接客スマイルを見せながら小首を傾げた。

「ユウマ君何か飲むか?奢るぞ?」

「ではホワイトホットチョコレートのグランデを2つとキャラメルマキアートのトール、アイスを1つで。」

 俺が言った物を復唱しながらレジに打ち込んでいく店員を見て、アフロは「クミちゃん達の分か。」と小さく笑った。

 そんなアフロは「じゃあ俺はダークモカチップフラペチーノ、シロップ全種追加、グランデで。」とポケットからスマホを取り出しながら注文を口にした。すると店員は素早く注文を打ち込み「19ドル33セントです。」と微笑みを浮かべる。

「支払いは電子マネーで。」

 そういってアフロがスマホを支払い端末に乗せて支払いをしていると、俺は視線を向けられていることに気がついた。

 それは既に支払いを終えて商品を待つ一人の女で、アフロより一足先に商品受け取り口に向かう俺の前に立っている。

 そしてその女の後ろに並ぶと、「こんにちは。旅行?」と声をかけられた。

「そんなところです。」

 変に目を増やされるのは困る。俺は最低限の返答だけで会話を終わらせ、支払いを終えて追いついたアフロを向いて女に背を向けた。


「あの客、ユウマ君を狙ってたな。」

 商品を受け取り、席に戻る途中、隣に並ぶアフロがそんなことを言い出した。

「こんなものを貰いましたよ。」

 そう言って俺は、商品受け取り口に置手紙のように残されていたメモをアフロに渡す。恐らくあの客のSNSのIDであろう英数字が書かれたその紙を見たアフロは「よく女連れ奴にこんな物渡せるな。」と苦笑いを浮かべた。

「んで?どうするんだ?連絡するのか?」

「しませんよ。よければアフロ先輩がどうぞ。」

「あいにく俺の魅力に気付かない奴は俺の方からお断りだ。」

 そうため息交じりに悪態をついたアフロは、電話番号の書かれた紙をストローの紙と一緒にゴミ箱に捨てたのだった。



「どうぞ。」

 ホワイトホットチョコレートをクミの前、キャラメルマキアートをトウカの前に置いて、俺とアフロは丸い机を囲む椅子に座る。

「ありがとうございます……。」

 そう控えめに感謝を口にしたトウカとは違い、クミはただ無言でそこに座っていた。

「「「「………。」」」」

 そしてそれにつられるように、トウカとアフロも言葉を発すことはなかった。きっと今のような状況が気まずいというものなのだろう。

 まあ俺にとっては好都合だが……。


 さて続きだ。さっきは帰ってきたクミに邪魔をされたからな。

 レオはなぜ捕

「というかジャッカロープってどういう事だよ!」

「………。」

 思考を邪魔したアフロを睨むと、アフロは「な、なんだよ。」と怯えたように口ごもる。

 まあ今のはアフロは悪くない。

「実はあの部屋に本物のジャッカロープがいたんです。」

 そう説明してやると、アフロは「はぁ!?」と声を上げて驚く。しかしすぐにその表情は変わり、ニヤニヤと笑みを浮かべだした。

「なんですか?」

「どうせ3人して驚かせようとしてるんだろ?」

 そう言うことも想定していたが、この無駄な時間を過ごさせられているニヤケ顔を全力で殴って黙らせられるなら、どれほど思考に集中できるのだろう。

「詳しくは人の少ないところで説明します。」

 さて、これでやっと静かに考えら

「甘っ!!!」

 ……れると思っていると、ドリンクを飲んだアフロの言葉に、また思考を邪魔されたのだった。

 全く、少しでも話していないと生きれないのか?

「アフロ先輩。すいませんが少し静」


「うるさい!!!」


 俺の言葉を遮ったその声に、周囲からは視線が集まった。俺の正面に座っていたトウカは、困惑しながらも、その声の主であるクミを止めている。

「ちょっとでも話してないと生きれない?」

 身を乗り出したクミはアフロの胸ぐらを掴むと、オブラートに包むことなくそう言った。

「え?……いや。」

 普段からは想像もできないクミの言葉と風貌に、アフロは言葉を詰まらせる。

「そうなら店の外に行って。違うなら黙って。」

 誰だ?このクミは……クミか。

「クミ先輩。」

 さすがにこれ以上注目を浴びる訳にもいかず、俺はクミの肩に手を置く。クミは、強く握り占めていた手を離すと、ゆっくりと椅子に座り直した。

 そこから店内は静寂に包まれた。アフロは怯えたように黙り、トウカはマグカップに口を触れさせながらクミとアフロを見張るように目を左右させている。周囲の客や店員も俺達を横目に見ながら黙っていた。俺に電話番号を渡した店員はと言うと、揉めている俺とは関わりたくないのか、俺達に背を向けて業務を行っている。

 するとクミに怒られた動揺からか、アフロの手が机に置いていた紙ナプキンに当たり、宙に押し出された。


 レオはなぜ捕まっていた?

 あれだけの知能を持ったレオは檻に入れられ、手足を繋がれていた。つまり、それだけの拘束が必要な能力があるということだ。そしてその能力をもって逃げようとして失敗した、もしくは逃げようとしていると気付かれた。そして成功する見込みがなくなり、人間のトウカに頼ろうとした。

 ならばなぜトウカに?

 レオはトウカの声で俺を傷つけることで俺を退席させようとして失敗した。つまりはトウカでないといけない?いや俺が邪魔だった?

 レオはトウカに、他にもジャッカロープの群れがいると言った。その群れはどこにいる?すでに捕まっているのならレオとまとめて捕獲しておくはず。ならば他のジャッカロープは捕まっていない?いや、レオが他のジャッカロープとは違う?

 大きな問題はこの3つ。捕まっている理由によってレオを助けるか否かが決まる。もし助ける場合、トウカにしか話さないのであれば手間がかかる。その上レオと共に群れも助けなければならない。

 そしてこの3つに絡んでくる根本的な問題、ラファエル。

 ラファエルの目的は何か、何者なのか。

 まずはこの情報を得なければならない。


 紙ナプキンが音もなく床へとたどり着いた。




 ・ホリデイインホテル403号室

「おい!!このホテルプールがあったぞ!!」

「「そんな大声出したらまたクミ先輩に怒られますよ。」」

 俺とトウカが声を揃えると、アフロはベッドと壁の隙間に体育座りで挟まった。

「よほどクミ先輩が効いたな。」

「まあアフロ先輩は先輩で、私たちを盛り上げようとしてたみたいですし。それに……。」

 俺とトウカは小さく笑い合い、クミに目を向ける。

「ごめん!!!あの時はちょーっと考え事してたの!だからそんなに怯えないで?私から逃げようとしないで?」

 あの後、大学近くのホテルにチェックインすると、クミはいつも通りのクミに戻った。そして俺を含める全員に謝ったクミは、未だ怯えた様子のままのアフロに謝り続けていたのだった。

「完全にクミ先輩がトラウマになってますね。」

 珍しくトウカがアフロに同情しているな。

 するとトウカは、まるで野良猫に近くかのように、アフロから一定の距離でしゃがんでいるクミに耳打ちをする。

「クミ先輩?あの時スターバックスで何て言ったか覚えてます?」

「えぇっと……うるさい!!だっけ?」

「ピッ!!!」

 再現されたクミの言葉を聞いたアフロはより小さく縮こまり、まるで小動物かのようにベッドの下へと潜り込……もうとしたもののベッドの下に隙間がなく、ベッドの側面に頭をぶつけた。

「あは!ザマァ見ろ!」

 同情のかけらもない……。

「すいませんすいません。部屋が一部屋しか取れなくてすいません。あとジャッカロープマジだったんですね。」

 すると、丸まるアフロからそんな言葉が細々と聞こえてきた。

「あぁん!アフロ君その事はもういいってば!!2人の事は信用してるし。あとトウカちゃん!?キャラがおかしいよ!?」

 弁明を続けるクミは「あとなんかマジだよ!?」と付け加えた。




「さて、作戦を伝えます。」

 このホテルから見える大学。あそこにレオ、ジャッカロープがいるはずだ。

 しかしあのラファエルが問題だ。奴は計り知れない。

 計り知れないのなら……最悪を想定しなければならない。


 それを、俺が踏まえて考えた作戦。

「……という作戦を段階的に日を分けて明日から実行します。」




 1日目

 ・某大学 事務室

 今日は俺が夜中に大学に侵入し、レオを探す。

 そのためにまずは事務室に行く。そこまでは監視カメラの死角を通り、それが無理な場所は一台一台磁気でノイズを走らせて一時的に機能を停止させた。事務室に着いてからは、事務室に置いてあったパソコンを使って監視カメラの中継器をハッキングし、学内のすべての映像を前日の映像に切り替える。鍵は針金があれば空くレベルの鍵穴だ。あとは誰かに見つからないように警戒さえしていれば、好きなだけ大学を調べられる。


「昨日ぶりだな、レオ。調子はどうだ?」

 結局群れは学内にはおらず、ラファエルと話した第8研究室にそのままレオがいただけだった。

「……なぜ僕とは会話しない?僕とトウカちゃんの違いは何だ?」

「……。」

 ふむ。

「レオ。助けを求めるのならば言葉ででも、物音ででも何でもいい返事をしろ。もし返事が無ければ助けを求めていないと判断する。」




 ・ホリデイインホテル403号室

「ジャッカロープは最初と同じ部屋にいました。一応学内の隠し部屋を含む全ての部屋を確認しましたが他のジャッカロープはいないようです。」

 可能性は3つ。

 〈残っている〉ジャッカロープはレオのみ、他のジャッカロープは別の場所にいる、もしくは捕まっていない。

「あんだけデケェ大学を一晩で全部なぁ……ん?隠し部屋?」


「自分達が見つけたにも関わらず何故ラファエルが移動させなかったかが気になりますが、まあ今は作戦に支障がないので構わないでしょう。」

 支障はない。例えどこに移動されていたとしても、そこにレオがいる限りラファエル管理下だ。移動させないのが俺達を誘い込む罠だったとしても、その目的が分からない以上、今は行動するしかない。

 かと言ってラファエルを無視で起きないのも事実。初日に俺が個人で行動したのもそれが理由だ。

 あの3人を連れていれば、逃げ切る事も〈戦う〉事も出来ない。

 今日はレオに接触しても何もなかったことから、レオは罠ではないか、目的が俺ではないかのどちらかになる。

 だからこそ、明日の2日目からが勝負になる。

「これから3日間、先に自分が忍び込んで監視カメラを機能停止にします。その後に迎えに来るので1人ずつ部屋に行きましょう。」




 2日目

 ・某大学 庭

「んんんんん~~~~~~~!!!!!!!!」

 通りかかった人から隠れるためにしゃがみ込んだ際に、枝が尻に刺さったらしいアフロは一人苦悶していた。

 小さく溜息を吐きながらその様子を見ていると、アフロの背後では車がこちらに近づいてきていた。

「アフロ先輩早くしてください。」

 先にカメラの死角に入っていた俺は、未だに悶絶して動く気配のないアフロを急かす。しかし俺の言葉が届くことはなく、アフロは「うおぉぉぉ!尻がぁぁぁ!」と悶え続けていた。

「全く……。」




 ・ホリデイインホテル403号室

「ラファエルの邪魔もなくアフロ先輩とレオを合わせることができました。が……。」

「「が?」」

 俺の言葉にクミとトウカは首を傾げる。

「直接会話はできませんでした。」 

 そして情報を追加すると、クミとトウカはさらに首を傾げるのだった。

「間接的にはできたんですか?」

 そのトウカの疑問を受け、アフロに視線を向けると、アフロは溜息を吐きながら肩をすくめさせた。

「俺だけ部屋に入ってレオに声を掛けたんだが返事はなかった。ただ、もし声が出せない状況ならと思って。助けて欲しいか?YESなら音を一回、NOなら音を二回鳴らしてくれ。って言ったら音が一回返って来たんだ。」

「ということは声を出せない状況だったんですか?」

 その疑問には、俺が首を横に振って答える。

「口枷もなければ、アフロ先輩が話していたことからも潜む必要もなかった。結果論、レオは返答したから黙秘する必要があった訳でもない。」

 そのアフロの説明に、トウカは「なるほど……。」と唸った。

「つまり答えがないから、答えないといけない状況を作ったんですね。アフロの癖に……。」

「なんだそりゃ。まぁ、返事がなかった場合にやるように言われたユウマ君の案だがな。」

 そのアフロの呟きを聞いたトウカは、俺に視線を向けると「流石ですぅ!」と笑みを浮かべたのだった。

「酷すぎねぇか!?」

 アフロがそうトウカに詰め寄ると、トウカは「ユウマ先輩と同列になれると?」とアフロを睨みつけた。

「酷すぎねぇかぁ?」

 すると、今にも泣きそうなアフロをよそに、トウカは俺に向き直る。

「えぇっと。ユウマ先輩の案なら、ユウマ先輩も、答えないといけない状況を?」

 そのトウカの問いに俺は頷いて答えたものの、その後には否定の言葉を続けた。

「でも返事はなかった。」

 その結果を聞いたトウカは「え?」と首を傾げる。

「アフロには答えたのに、ユウマ先輩には応えなかった?」

 1人落ち込んでいたアフロは、そのトウカの独り言を聞くと表情が明るくなり、「ユウマ君!」と声を上げる。

「俺と同列になれると思うなよ!」

 そして俺に向かってそう言い放つと満足げに笑みを浮かべたのだった。

 その様子を見ていたトウカは薄い笑みを浮かべると、静かにアフロの首元に手を伸ばし、そっとその首筋を撫でる。

「黙れ。」

「……はい。」


 話が逸れたが問題はそう、答えなければならない状況を作らなければ返事をしなかったということだ。

 俺の場合はその状況を作っても反応はなかった。アフロの場合はその状況を作れば反応があった。トウカの場合はその状況を作るまでもなく話しかけてきた。

 つまりレオにとって俺達には順位がある。それが信用の順位なのか、利用しやすい順位なのか。俺とトウカのような違いがクミとアフロにもあるかを調べるためにも順にレオと会わせているが、その判断基準が一向に分からない。




 3日目

 ・某大学 入口付近

 クミはアフロとは違い手間もかからず、静かに俺に付いて来ていた。

「ねえねえユウマ君!部屋はラファエルちゃんと話した部屋なんだよね?なら屋上からの方が早くない?」

 周囲に人がいないことを確認しながら、あらかじめ鍵を開けておいた扉を開こうとすると、クミはそう言って雨樋を指差した。

「……そうですね。」


「クミ先輩。カマイタチの住処に行った際にも思いましたが運動神経いいですね。」

 少し不自然なほどに。

「そう?」

「ええ、いくらスピード重視の仕事でも一般的な人間は壁を飛んで登りませんよ。」

 そんな他愛ない話をしながら俺とクミは、雨樋やちょっとした壁の凹凸を使って外壁を登っていく。

「何かスポーツをしていたんですか?」

「ううん?」

 すると窓の淵に指一本でぶら下がるクミは首を傾げながら首を横に振った。

 ふむ、バカ故の無知か。

「ん?」

 レオがいる第9研究室の窓の外で動き止めると、少し下にいたクミは「どうしたの?」と俺に並んだ。

 そんなクミの問いに、俺は窓を指差して答える。様子を見るために覗いただけだったその部屋の窓は、鍵がかかっていなかった。


 部屋に入った俺達は、周囲の安全を確保していく。

「鍵空いてたね。」

「ええ、屋上から侵入のはずでしたが省略できました。」

 ……確かに4階。しかし仮にも大学、仮にもラファエルの管理。鍵を開けたまま世紀の大発見ジャッカロープを部屋に放置することなどあり得るだろうか。

 俺なら否だ。しかしラファエルは別、やはりこれは俺たちを誘い込む為の罠なのだろう。

 だからといって負けは……。


「絶対に勝ってやる。」


 その声の方向を見ると、ただひたすらな笑みを浮かべたクミがそこにいたのだった。

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 見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。

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