ラファエル・トリニティ 修正済み
「え?じゃあ私達何も出来ないんですか?」
「大丈夫!金ならある!!」
満面の笑みで親指を立てたアフロの親指を折れる限界までトウカが曲げた後、俺達は日本では見ることの無い高原とその先に広がる山脈を眺めていた。
「……ここはありきたりに聞き込み調査でもしますか?」
全員が頷いた。
空港のロッカーに荷物を預けて身軽にした後、俺達は聞き込みのために解散した。
とは言っても。こんな急ごしらえの聞き込み程度で見つかるような物ならば、現代ではUMAとは呼ばれていないだろう。
「はぁ……。」
遠くで他の3人が聞き込みしているのを眺めながら、俺も一応言聞き込みをすべく周囲を見渡す。
ん?アレは……。
「失礼。少しいいですか?」
「どうでした?」
聞き込みを終えた俺達は、再度空港前に集まっていた。
「ダメだ。知ってる人もいたが実際に見た人はゼロ。そもそも俺は英語ができねぇこれ無理だろ!!」
大げさに空を仰ぎながら、溜息交じりにそう言うアフロに、トウカは「ならどうやって聞き込みをしてたんですか。」と溜息で返す。するとアフロは「オーダーメイドのスマートグラスならぬスマートサングラスだ!」と笑ったのだった。
そんなアフロを睨みながら、トウカはまた溜息を吐く。
「こっちもダメです。第一本当にいるんですか?ジャッカロープ。」
現実的ではないことは分かっていたはずだ。
「食べる?」
しかしそんな中、聞き込み調査など忘れたのか、空港の土産屋で買ったであろう菓子を頬張るクミには誰も何も言わなかった。
「仕方ありません、こうなればここへ来た意味を作りましょう。」
無いものを探すくらいならば、あるもので妥協した方がいい。
するとアフロは苦笑いを浮かべて首を傾げる。
「意味って行動してから作るもんだっけ?」
「いくら意味を持って行った行動でもその意味を失えばその行動には価値が無くなります。そんな時人間は新たな意味を作り出すことでその行動に価値を与えるんですよ。」
「それを現実逃避っていうんだよ。」
そんなアフロのツッコミを無視しているとトウカが小さく唸った。
「とは言っても観光でもするんですか?早すぎませんか?」
「でも聞き込みで情報が出なかった以上先には進めないぜ?まだ聞き込みでもするかぁ?」
トウカとアフロの意見は間違っていない。俺達には聞き込みに方法が限られている。しかし今のところそれには効果が見込めない。つまりジャッカロープが実在していたとしても、俺達にはその影すら見る事は出来ないのだ。
……仕方ない。ここは現実を見せてさっさ終わらせた方が良さそうだ。
「1つだけ、信憑性のある情報を聞き込みで手に入れましたよ。」
「マジでか!?」
皆の笑顔を承諾と受け取り、俺は背後の少し離れた場所でワゴン車にもたれかかる1人の女を親指で指差した。
「突然申し訳ありません。」
待たせていたその女の下へ行き挨拶をすると、黄金色の髪を後ろで束ね、左のもみあげを垂らす容姿の整ったその女は微笑むように笑う。奥の読めないその女が浮かべるその笑みは、どこか俺に向けられていないような違和感を覚えた。
「いえいえ、私的とはいえ日本の学生がわざわざこんな所まで来ていただいたのです。歓迎します。」
そう言って女は、様子を見ていた他の部員達の顔を順に見ると、俺に視線を戻し右手を差し出した。
「改めまして。ラファエル・トリニティです。」
「霧崎優真。ユウマが名です。」
ラファエルの名乗りに同じく名乗りで答え、俺はラファエルの手を握った。
「では早速ですが出発しましょう。」
女はそう言うと背後のワゴン車の扉を開く。
「「「………。」」」
しかし先ほどからラファエルの事を警戒している3人はなかなか踏み出すことなくラファエルの事を見つめていた。
「どうかしましたか?」
すると俺の背後に立つアフロは俺の耳元に口を寄せた。
「おいおい、海外で初対面の車に乗るとは正気か?」
そう考えるのも仕方ないのかもしれないが……。
脇で未だにラファエルの事を見つめるクミとトウカを横目に、俺もラファエルに聞こえないようにアフロの耳元に口を寄せる。
「自分がいる限り皆さんを危険な目には合わせません。」
そう答えて、俺は車に乗り込んでいく。クミの静かな殺気を感じながら。
・某大学 エントランスホール
「お疲れ様でした。……後ろの2方は大丈夫ですか?ひどく疲労しているようですが。」
振り返るとトウカは中腰になり、アフロは四つん這いになり学生の注目を集めていた。
「うおぉぉぉ!腰がぁぁぁ!!」
「ちょっと黙ってください……腰に響きます。」
そんな2人の脇で、クミは心配するようにかがみながら、その髪の隙間からラファエルを見ていた。
「えぇ、6時間のドライブを楽しみすぎただけですので。」
ラファエルは「なるほど。」と笑みを浮かべた。
さて。
声は収まってて来たとは言え、いまだ呻くトウカとアフロをよそに、俺はラファエルに向き直る。
「では早速ですが、本題を見せていただけますか?」
するとラファエルは苦笑いを浮かべ、肩をすくめさせた。
「はい。ですがその前に少々片付けてきてもよろしいでしょうか。来客が来るとは思っておらず、散らかっていまして。」
「いえいえ、押しかけた身ですし気にしないでください。それに散らかっているように見えても、そちらの方がやりやすいのは分かりますから。」
そう言って笑みを向けるとラファエルもまた薄い笑みを浮かべたのだった。
「フフ、ありがとうございます。」
「先……輩?」
「なんかユウマ君の知らない一面を知った事は置いといて。なんかこう……美男美女同士で話すと絵になると言うか。」
「私達、蚊帳の外ですよね。」
背後でそんなことを呟き合うトウカとアフロを無視して、俺はラファエルに笑みを向け続ける。
一応訂正しておくとこれは接待モードだ。
「ではこちらへ。」
するとラファエルはウインクをして俺達に背を向けたのだった。
マズイまずい!これはかなりマズイ!
あのラファエルとか言う女!明らかにユウマ先輩に気がある!
というかユウマ先輩!?なんかであんな事を言ったんですか!?本心ですか!?本心だからですか!?
私も金髪ですよ!?自分で言うのも何ですけど顔立ちも悪くはないと思います!身体は………確かに身長とか〈その他諸々〉の所では負けてますけど!!負けてます……けど………。
そんなことを考えていると私の頭の上に大きく硬い左手が置かれた。
「………諦めろ。」
顔を見なくても分かる、この耳障りな声は鳥の巣頭だ。
私は右肘を後ろのみぞおちにめり込ませながら、あの2人をくっつかせてはいけないと固く決意したのだった。
「どうにかしないと!」
・某大学 第9研究室
研究室に案内された私達はラファエルの指示で、部屋の中央に置かれた、床まである白いテーブルクロスのかかった机を囲むように座った。
「これがパピローマウイルスに感染したウサギの報告例です。」
そう言ってラファエルから配られた書類の束を見て、私は思わず声を上げてしまった。
「っ!これ……。」
「これって、もしかして………?」
非常に残念な事だがアフロも同じ考えのようだ。
渡された束には1ページ毎に様々なジャッカロープらしき物の写真と、その写真の詳細情報が記されていた。
しかしその写真のものはウサギに角が生えたようなものではなく、ウサギの口周りや耳、頭から複数の黒いイボのような物が生えている、可哀想にも思える姿だったのだ
その中には1、2本の物が長く伸びた物もいたが、どれも頭からは生えていなかったり、左右も揃っていなかったりと、テレビやユウマ先輩に貰った書類で見たジャッカロープとは似て非なる。
これが……。
「ジャッカロープ……ですか。」
そう1人呟いてユウマ先輩に視線を移した私は、今となってはもう分かりきった質問を口にする。
「ユウマ先輩。これは何ですか?」
するとユウマ先輩は資料を見たまま説明を口にし始めた。
「パピローマウイルスに感染し体の一部にイボが出来たウサギ。そしてそのイボを昔の人が角と見間違え、結果。」
………。
「ジャッカロープが出来上がった………ですか。」
出来上がった。伝説が。理想が。ジャッカロープ(そういう)存在が人間の中でだけ出来上がった。
いや、単純にウサギに角のような物が生えた存在をジャッカロープと呼ぶのならこの写真はジャッカロープなのだろう。
しかし人間の中でのジャッカロープは違う。
愛らしいウサギの姿、左右対称で雄鹿のように凛々しい角、一度も人間に捕まったことのない存在。
考えてみればそんな少しの差だけで私はこの写真をジャッカロープではないと判断できてしまう。
そう、ジャッカロープとは人間の勘違いから生まれた存在しない物。人間の理想と願望の熱で生まれた蜃気楼。
いや、日本で個人的に調べた時、ユウマ先輩の資料でパピローマウイルスの説は知っていた。そしてジャッカロープなんていないだろうと知っていた。
でも、偶然ツチノコやカマイタチがいたと言うだけで、ジャッカロープもいるのではないかと幻想を押し付けていた。
なら諦めるしか無い。
さっさと諦めて……。
「ユウマ先輩!私国立公園の間欠泉が見たいです!!」
楽しめばいい!!!
「もう次の理由を楽しむ気だね。」
するとユウマ先輩は微笑みを浮かべた。
「あら?もう行ってしまうのですか?まだまだユウマさんとお話ししてみたかったのですが。」
フンっ!話させてたまるか!
「それは残念ですぅ~、もう目的は果たしたので次に行かないとぉ~……ね?アフロ!?」
数少ない出番!間違うなよ!!
そんな意図を伝えるために睨みながらそう言うと、アフロは「お!?き、急に振るなよ。」とうろたえながらも小さく頷いた。
「でもまぁ、そうなるか……。」
ギリギリ及第点をあげます。
「という事なんで!」
とにかく今はユウマ先輩とラファエルを引き剝がさないと!
この現状を打破するためには多少強引でも構わないと判断した私は腕に抱きつくようにしてユウマ先輩を引っ張る。
「ぐえっ!」
1ミリも動かなかった。むしろ私の引く手が引っ掛かったような状況になり、肩を中心に衝撃が走ったのだ。
え!!?何で!?いくら体格差があったとしても少しは動くはず!!なのにユウマ先輩は文字通り1ミリも動いてない!何で!!?というかすごいな!
「本当にこれだけ?」
っ!!!!!???
……何!?今の!
さっきまで静かだったクミ先輩のその声を聞いた瞬間、全身が強張り、息が吸えなくなったのを感じた。そのたった一言に、とてつもない何かを感じたのだ。身動き一つ、瞬き一つ、呼吸一つが許されないような、恐怖すら感じる初めての感覚。
そんな感覚に押しつぶされている間、私は呼吸を、呼吸の仕方を忘れていた。
「………っ。」
何とか息を吸い、周囲を見ると、やはり同じように感じたのかアフロも動きを止め、目を見開き、額に汗を浮かべていた。
でもさすがユウマ先輩はいつも通り、じゃない!!少し足が構えてる!!
あのユウマ先輩ですら動きを見せるなんて!
「……ク、クミ先輩?どうしたんですか?」
なんとか絞り出したその私の質問に答えが返って来ることはなく、目がこちらを向くこともなかった。
その目は、波打つ炎のようにただ静かに、ラファエルを見つめていた。
「……と、言うと?」
するとその中で唯一クミ先輩の声に怯んだ様子を見せなかったラファエルがどこか不敵な笑みを浮かべて首を傾げた。
「これだけが研究の全て?ううん。違うはず……見せて。」
今のクミ先輩は異常だ。いつもと違うということもだけど、それよりもあれだけのあれだけいつもと違うのに変化が全くないのだ。
顔や体の動き、音や匂い。普通なら、普通じゃない時は何かしらの変化が現れるはず。いや、何かしらの動きならあの声やあの目と言う形で変化が現れている。でもそれだけ、たったそれだけ。
………。
でも、今はそんな事を言っている暇じゃない事は私でも分かる!!
「ユウマ先輩!」
そう私が声をかけるよりも先に行動していたのだろう。ユウマ先輩に視線を移すと、ユウマ先輩がクミ先輩の肩に手を置いた瞬間だった。
「クミ先輩、一度落ち着いてください。アフロ先輩クミ先輩を外に。」
「お、おう!分かった!」
アフロがクミ先輩の腕を引くと、抵抗なくクミ先輩は連れて行かれた。そしてその間もクミ先輩がラファエルから目を離す事はなかった。
@ODAKA_TAIYO
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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