出発 修正済み
「お断りします。」
さて、今は何をするのが正解なのか。
夏休みの初日、私服のUMA研究部員がキャリーケースを持って俺の部屋に押しかけ、アメリカへの部活動合宿を強制しようとしているこの状況はどうすれば打破出来るのだろうか。
正解は〈扉を閉める〉だ。
「チョォォォット!?」
すると扉が閉まるギリギリのところでアフロが足を挟み込んできた。
「今日のワイオミング州行きの飛行機のチケットも取ってるんだよ!」
一応は調べたみたいだな。だが
「パスポートを持っていないので。」
そう言って扉を閉める手に力を入れると、扉を開こうとするアフロも「イテテ」と言いながら力を込めてきた。
「この間持ってるって言ってたじゃねえか!」
覚えていたか……。
「有効期限が切れてるので。」
「3年残ってるって言ってただろ!」
アフロとそんな言い合いをしていると、アフロが開く扉の隙間からトウカが覗き込んできた。
「ユウマ先輩!きっと楽しいですよ!ほら、旅行だと思って行きましょうよ!ね?」
本来なら計画を立てる段階で口を出すつもりだったが、全て勝手に決めたあげく当日に強行してくるような不安要素しかない旅行には行くつもりはない。
「お断りします。」
全員の顔を見てそう言おうと扉の隙間から外を見ると、クミが自分の胸に手を当てていた。
「実は私、ユウマ君にむ」
「行きましょう。」
俺は財布やスマホ、パスポート、着替え、その他諸々の準備を持って扉を開いた。
するとクミは「早いね!」と笑った。
汚いぞ。
しかし、今あった脅迫のことなど知らないアフロは「なんだよぉ、行く気満々じゃねぇか!」と笑う。
焦げろ。
そしてその脇ではトウカが「ユウマ先輩と旅行……ンフ……フフフ。」と1人笑っていた。
帰れ。
なんだこの俺以外が笑っている状況は。
「ユウマ君に胸を」
まだ言うのか?
クミが続きを言う前に、俺はある程度まとめたジャッカロープの資料をメッセージグループに送る。
ちなみに、少し前まで連絡先を交換していなかったり、ブロックされていたりしたアフロについては、トウカの「私だけに押し付けないでください!!」という必死の懇願によって、俺は連絡先を交換し、クミはブロックを解除。そのついでにUMA研究部のメッセージグループを作ることとなった。
すると、資料を送った俺以外の3人もスマホを取り出して画面に目を向けた。
この学園では入学すると最高レベルのセキュリティや容量が備えられたスマホが学園から支給され、個人で契約したスマホの使用は禁止される。そのため俺達が出したスマホは全員同じものだが、トウカは星空とそれが広大な水鏡に移った風景の写真がプリントされた手帳型ケース、アフロはシンプルながらも全面を囲まれた頑丈なケースだった。
それに対して、俺とクミはケースも何もつけていなかった。
「キーとの一件以前に言っていたので一応調べておきました。生息地はアフロ先輩がチケットを取ったワイオミング州などの広い範囲で目撃されているそうです。ただ、残念ながら放送されていた写真の撮影者と連絡は取れませんでした。」
するとアフロは「俺も調べたが同じくだ。」と呟いた。
「だから飛行機は自然の多い国立公園の近くに到着するようにしておいたぜ。」
それが妥当だろう。まぁ、正直見つかるとは思っていない。写真の真偽も分からず、撮影場所も分からないのだ、適当に探して諦めさせるのが妥当だろう。
「ですけどやっぱり海外ですか……。」
すると、トウカは少し弱い声でそう言った。
トウカが心配しているのは高校生という年齢故なのだろう。
「トウカちゃんが心配なようですし中止にしましょうか。」
そう言って部屋に戻ろうとドアノブに手をかけると、3人が俺の胴体にしがみついた。
「おいトウカちゃん!思ってても口にするなよ!!」
「なーんちゃって!!冗談に決まってるじゃないですかぁ!」
必死な様子で引き留めるトウカとアフロの横で、クミは俺の服のすそを片手で引きながら、また胸に手を当てていた。
「はぁ……。」
逃げ場がないことを知っている俺は溜息を吐くしかなかった。
そんな俺は振り返り、トウカに視線を向ける。
「大丈夫。今回はクミ先輩と自分がいるから。」
そう笑顔を向けると、トウカは目を輝かせて「はい!」と頷いたのだった。
「アレ?俺は?」
論外。
・伊丹空港 出入り口前
「「「ありがとうございました~!」」」
海星学園から最寄りの空港前に着き、後部座席から降りた私服のクミ、トウカ、アフロは大きなをリュックとキャリーケースを持って声を揃えた。
そして助手席に座っていた俺もドアを開くと「ちょっと……。」と教授に呼び止められる。
「例の物だろ。分かっている。」
目を合わさずにそう言うと「約束だよ!」と大きな声が返ってきた。
「そっちがきちんと約束を守れたらな。」
「いってらっしゃ~い!」
教授は空いた窓から見送りの言葉を言うと、車を走らせて行った。
それを見送った俺以外の3人は、車が見えなくなると同時に俺に視線を向ける。
「「「約束って?」」」
お前らは打ち合わせでもしているのか?
「大した事ではありませんよ。」
無視して空港に入っていくと、アフロは駆け足で俺の後に続いた。
「なんだよぉ!そんなに隠されたら気になるじゃねぇかぁ!!」
……うるさい。が、まあ内容だけなら隠すような事でもないか。
騒ぐアフロに溜息を吐いて、俺は説明を口にする。
「今回の送迎の代わりにちょっとしたお使いを頼まれたんですよ。」
嘘はついていない。
「なんだよその超気になる言い方ぁ!!!」
「公共の場で迷惑です。」
すると騒ぎ続けるアフロを追い越しながらトウカがそう呟いた。
「出発までまだ時間あるねー。」
搭乗手続きを終え、そう言ったクミが見上げた空港の時計は11時30分を指していた。
それはよほど俺が駄々をこねると踏んでいたのか、3人が俺の部屋に押しかけ、そこから教授に会いに行ってから空港に着き、手続きを終えてもなお、俺達の乗る飛行機が離着陸するまで2時間程あったのだ。
「クミ先輩お腹空いてたりしません?」
するとトウカは空港内の地図を広げながらそう言った。
「空いてる~!」
「じゃあフードコートで食べましょうよ!!」
「賛成!!」
「じゃあ俺もぅぇっ!!」
俺は、女子女子しい会話をしてフードコートへと走っていったクミとトウカを追いかけようとしたアフロの襟首を掴む。
「そんなんだからトウカちゃんに嫌われるんですよ。」
トウカが誘ったのはクミだ。たまには女子2人で話したい事もあるのだろう。俺達男は邪魔だ。という名目でうるさいあの2人とは離れたい。
そうして静かなカフェへと来た男組は、適当に飲み物を頼んで時間を潰していた。
「腹減ったなぁ~。やっぱりクミちゃん達に着いてこれば良かったなぁ……。」
しつこい。これで5度目だぞ。
「トウカちゃんに冷たい目を向けられ、罵られ、結局2人の会話には入れず2人プラス1人の状況になり、挙句食事を買いに行っている間に何処かへ行かれてもいいのならどうぞ。」
「ここでいいです……。」
俺の言葉も5度目にもかかわらずアフロは分かりやすく落ち込んだ。
「クミ先輩やトウカちゃんもですが、機内食が出ることを忘れていませんか?」
今回のフライトで東京に出た後のフライトは長時間に及ぶ。その際に機内食が出るのだ。
「機内食と言ってもよぉ、出るのは夕食だろぉ?それを待つにはちょっと時間がありすぎねぇかぁ?」
ふむ……。
「昼食は食べていないんですか?」
「あの2人がどうかは知らねぇが、俺は食ってねぇ。まぁ、あの様子だと2人も食ってないんじゃねぇのか?」
それもそうだろうな。
「では、このカフェはサンドウィッチのような軽食も扱っているようですし食べてはどうです?」
気付いていなかったのか、アフロはメニューに目を通すと「おお!!」と声をあげた。
「じゃあ行ってくる!!」
目の色を変えて急に立ち上がったアフロの「ユウマくんも何かいる!?」と言う言葉に首を横に振るとアフロは早足でレジへと向かった。
そんな勢いよく行くと……ほら。
アフロの注文の勢いに、若い女性の店員が怯えていた。
さてと……。
「何をどうすればそうなるんですか!」
出発の30分前。女子組がいるフードコートに来ると、お土産店で買ったであろう様々な包装紙が広がった机と、満足した様子で腹部に手を当てている女子組2人がいた。
「けぷ………満足。」
「満足してどうするんですか。」
向かい合って座る2人が挟む机を俺は叩く。
「次のフライトで機内食が出るんですよ?」
すると2人は顔を見合わせて「「あ………。」」と呟いた。
「全く。トウカちゃんがいるから大丈夫かと思っていたのに……。」
そう溜息を吐くと、トウカは苦笑いを浮かべた。
「ついつい特産品を食べたくなっちゃいまして………。で、でも夕食まで時間もありますし!」
限度がある。時間があると言っても、動かないフライトなら一般的なお前らは空腹になりにくい。
「だめだぜぇ?ちゃんと先の事を考えないと。」
そんな様子を見ていたアフロは「やれやれ」と首を横に振る。
「自分がいなければアフロ先輩もここに加わっていたかもしれないんですよ。」
「それは言うなよ。」
事実だ。
「それよりも2人とも出発の30分前ですよ。そろそろ。」
机の上のゴミを片付けながらそう言うと、未だ椅子に座るクミとトウカは苦しそうに息を吐いた。
「待ってください。ちょっと休憩を……。」
「私も~。けぷ……。」
10分後
「ちょっと!!ユウマ先輩!とアフロも急いでください!!」
「早くぅ~!」
俺とアフロは、元気よく走るクミとトウカを駆け足で追いかけるようにゲートへと向かっていた
「2人のせいで遅れたんですよ!!!」
「ちょ……もう無理。」
「「アフロ先輩は体力なさ過ぎです!」」
俺とトウカの声が揃った。
という言い合いの後、搭乗した俺達は、窓を右側に俺、トウカ、そして通路を隔ててアフロ、クミの順番で座った。
今回のフライトではすべての飛行機でこの席順になっている。
チケットを取ったのがアフロということを考えると、アフロの左右が女子という点に意図が感じられるが……まぁ、関わるのが一人でいいこの席に座れるのなら文句はない。
そんなことを考えている俺の脇では、3人が楽し気に菓子を食べていた。
「………。」
アフロはともかく、女子組は俺の忠告を聞いていなかったのか?
そして1時間弱のフライトで東京に到着した俺達は、国際線に乗り継ぎ、夕食を迎えていた。
「ビーフorフィッシュorチキン?」
一択だな。
「自分はフィッシュで。」
「じゃあ私はユウマ先輩と同じフィッシュで!」
「2人共あんだけ食った後でなんでそんなに食えるんだぁ?あ、俺チキンで。」
「ビーフ!!」
その後、俺達は機内サービスの映画やスマホアプリなどで時間を潰していたが、やがて機内が消灯され、クミやトウカ、アフロを含むほとんどの人が眠りについた。
「ゴォォォォォ……ガァァァァァ………………フゴッ!!」
「うるさ〜い。」
そんな中1人ゲームをしていると、いびきに寝言で文句を言われるアフロと、俺にもたれかかるトウカの間の通路に立った覆面男に銃口を向けられた。
「ユウマ先輩と結……婚………。」
しないからな?
「オオィ!!お前らは何で平気なんだ!!」
何でと言われてもな。
「……3人は寝ているからな。」
「これだけの大声を出してるのに起きない事なんかあるか!?いや例えあったとしても起きているお前は何で怯えの1つもしないんだ!!」
これ以上はプレイに影響が出ると考えた俺はゲームを一時停止し、その覆面に視線を向ける。そして周囲を見回すと、銃を持った覆面の男女7人が通路に立ち、乗客達は両手を頭の後ろに当てていた。
「……ゲームをしていたからな。」
「ぶっ殺すぞテメエェェェ!!!」
すると、その大声に反応したのか、離れた場所でただ眺めていた他の覆面達も銃口を俺に向けた。
「………。」
俺は仕方なく頭を下げる。
「……あぁ?なんだ?こっちは本気と分かったか?」
含み笑いでそう言った覆面男は何かを勘違いしているようだ。
「いいや、靴紐が解けていたんだ。で、殺すんだったな。それは困る、面倒だ。」
靴ひもを結び終え、椅子に座り直してそう言うと、覆面は「殺おぉぉぉす!!!!!」と叫んだ。
その大声を出す時間が無駄だと気づけ。
さっきの説明を少し訂正しよう。靴ひもを結び直したのではなく、靴紐を結ぶふりをしてあらかじめ靴の裏の溝に挟んでいた石の粒を手に取ったのだ。
俺はその石を親指で弾き飛ばし、覆面達の頭に投げ当てて気絶させた。
ちなみにだが隣で俺にもたれかかっているトウカは寝たふりだ。
「ふあぁぁぁ……。なんか騒がしいなぁ。」
覆面達を拘束して自分の席に戻ると、大きなあくびをしながらアフロが目を覚ました。
「ハイジャックがあったんですよ。」
「……はぁ?なんだそりゃ。まさかユウマ君がそんな冗談を言う、とは、なぁ………?」
初めは笑っていたアフロも周囲の様子に違和感を持ったのか、座席から通路に乗り出して周囲を見ると表情を曇らせた。
本来ならほとんどの人が眠っているはずの時間にざわめく乗客達。中には泣く乗客や放心している乗客もおり、客室乗務員達はその乗客達をなだめていた。
「……マジか?」
「乗り継ぎ時間が長くて助かったねー。」
キャリーケースを引いてゲートを出ると、クミはそう笑った。
あの後、俺達の乗る飛行機は2度目の機内食を済ませてから着陸し、俺達は通報を受けた警察の指示で降機した。それから、軽食やカウンセリングなどの被害者へフォローの後に警察の事情聴取を受け、荷物を受け取る頃には、本来よりも数時間の遅れが出ていたのだ。
偶然にも次のフライトまでは日をまたぐため時間があったが、もしこれが数時間での乗り継ぎであれば乗り過ごしていたのかもしれなかった。その点を考えるとクミの言う通り、乗り継ぎの時間が長かったのは幸いだろう。
そして、俺達は空港で一夜を過ごした後、最後のフライトの飛行機に搭乗したのだった。
「in ワイオミング州!!!」
・ジャクソンホール空港 出入り口
「……なんか飛行機の展開早くなかった?」
そんな事は十中八九ない。
「それよりもこれからはどうするんです?」
トウカがアフロに問いかけるとアフロは「フェ?」と間抜けな声を出す。
「俺は飛行機のチケットを取っただけだぞ?」
つまり……。
「ノープランですか。」
@ODAKA_TAIYO
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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