原因 修正済み
「言ったが……?」
ブラックドッグが突然消えるあの現象もいうなれば瞬間移動だ……。
もちろんこの短期間でブラックドッグとアフロが偶然<瞬間移動>という点で繋がるとは考えにくい。だが、学園側では人や動物が瞬間移動したという話は聞いたことがない。
「………。」
もしもブラックドッグが大炊御門社と言う括りに危害を加えているのなら……。
大炊御門社がブラックドッグに、もしくはブラックドッグの住処といわれる墓に危害を加えたことになる。
「………。」
俺は指紋認証でスマホのロックを解除し、衛星写真のマップを開く。
「アフロ先輩。その株で買った土地はどこですか?」
「あ?学園の裏山の六甲山あるだろ?そこの町側の一部分だよ。」
町側という事は学園の所有していない場所か………。
ちなみに俺達海星学園生は学園の建つ六甲山の事を裏山と呼ぶ。
「詳しくはどのあたりですか?」
俺はスマホで衛星写真のマップに裏山を表示させてアフロに見せる。
その画面を見たアフロは「ここだな」と画面を指差した。
「ありがとうございます。」
俺がスマホを触り始めた頃から首を傾げていたクミ、トウカ、アフロ、ツチノコを横目に俺はスマホをしまう。
今回の件の原因はおそらく、いやほぼアフロだろう。
それだと学園にブラックドッグが現れたことにも納得できるしな。
………好都合。
「クミ先輩とトウカちゃん。ツチノコを連れて少し部屋から出てもらえますか。アフロ先輩と少し2人で話したい事が……。」
さっきの話で現れた時期と場所の理由に仮説が立った。あとは何をするかだ。
俺の指示通りクミとトウカはツチノコを連れて出ていき、俺とアフロは部室で2人きりになった。
「話したい事ってなんだぁ?」
アフロの疑問に答える前に、俺が椅子に座ると、アフロも机を挟んで俺の正面の椅子に座った。
「少しお金に関する話でして。」
俺の言葉を聞くなりアフロは通帳を制服の内ポケットから取り出し、机の上に投げるように置いた。
「その中に入ってあるぶんなら好きなだけ使っていい。」
そう言ったアフロはいつものようなふざけた話し方ではなく、低く静かな話し方だった。
つまり今アフロは俺を交渉人として見ているのだろう。
ならば俺も交渉人として話すべきだ………。
「こんなはした金じゃ足りません。最低でもこれの100……いいえ1000倍は必要です。」
一瞬の沈黙。
「はぁ!?これだけでもいくらだと思ってんだ!!そんだけの金がありゃ簡単にうちの国を動かせるぞ!!」
そしてアフロは勢いよく立ち上がりながら声を荒げると、机を挟んで座る俺に向かって前のめりになった。
半分正解だ。
「その、うちの国を動かすんですよ。」
サングラスの奥を見て笑うと、アフロは「何でそんな事しなきゃ……。」と顔をしかめる。
「ただしアフロ先輩の考えとは逆。金で国を動かすのではなく、国を動かして今言った金と同価値の物を得るんです。」
するとアフロは驚いた表情を浮かべながらも首を傾げた。
「そんな事までして何が欲しいんだ?」
俺はそんなアフロから窓の外に視線を移す。
「アフロ先輩が知っているのか否かは知りませんが。世界には<眼>が多過ぎます。」
俺と同じく窓の外に目を向けたアフロは「なるほどな………。」と呟く。
「今ばかりは言葉の意味を理解できなくてよかったぜ。………正直言うと巻き込まれたくねぇ。」
そう溜息交じりに言ったアフロに俺は「巻き込みますよ。」と笑うと、アフロもまた笑みを浮かべて肩をすくめ、椅子に座り直した。
「ただそれを実行するためにも、ある程度の金が必要です。」
アフロにはこの話の詳しい理由は分かっていないだろう。しかし、聞くのを諦めたのか、はたまた納得したのかは知らないが、アフロは「どれくらいだ?」と、さっきまでとは違い、この話に肯定的な疑問を口にした。
「その為に少し話を移します。」
静かに俺の目を見るアフロの目を見ると、アフロは「あぁ。」と少し顔を緩めた。
「ここ最近のブラックドッグの件については聞きましたか?」
すると最近は学園にいなかったアフロは「なんだそりゃ?」と首を傾げる。
「ではブラックドッグの事は?」
すると今度は「本棚に載ってたUMAのことか?」と答えたアフロに、俺は「えぇ。」と頷く。
「そのブラックドッグがこの学園に現れました。まるで瞬間移動をしたかのように。」
俺の言葉の意味を理解したのか、アフロは驚いた表情を浮かべる。
「おそらくですがブラックドッグはアフロ先輩が工事をしたという土地を守っていたのでしょう。縄張りだったのか……、もしくは伝承通り墓を守っていたのか……。」
「だが墓らしき物はなかったぞ?」
首を傾げてそう言ったアフロに、俺は仮説を口にする。
「詳しくは調べていないので墓があるとは言い切れませんが、なにも大それた墓である必要はないはずです。たとえば死んだ人間を埋めて小石を置いただけでも墓といえるでしょう。問題はそこで人が死んだという事実のはずです。」
「じゃあ、あそこに人骨が残ってるかもしれねぇって訳か……。」
口元に手を当てて呟いたアフロに、俺は「おそらく……。」と答える。
「縄張りなのか墓なのかは分かりませんが、その原因を解決しないことには事故は続くでしょうね。」
仮説を聞いたアフロは「なるほどなぁ……。」と苦笑いを浮かべた。
「ところで、今大炊御門社が建てている裏山のマンションの使用目的はなんです?」
「ん?あれは老人ホームだ、あの辺は自然も多いし、海も見えるからなぁ。」
ふむ。
「その建設作業の進行はどこまで?」
俺の疑問にアフロは大きなため息を吐くと、首を横に振って答えた。
「あれだけの事故が起こったからな、今は整地し終わった所で作業は中断中だぁ。」
ならば好都合。
「では本題です。その土地とこれから建てる建築物をUMA研究部の所有地にして貰えませんか?」
数秒の沈黙。
そして次の瞬間「はぁ!?」と声を荒げたアフロは再度勢いよく立ち上がった。
「いえ、それほど驚く事でもありません。アフロ先輩の買った土地とそこに建物を建てる金+α。それが先程言ったある程度必要な資金です。この学園の生物室では拠点としては不都合ですので。」
俺の説明を聞いたアフロは額に汗を浮かべながら引きつった笑顔を浮かべた。
「ただの部活のために建物を建てるってか?」
そんなアフロに向けて俺は微笑みかける。
「ただの部活のために国を動かせる金の1000分の1を使うよりマシですよ。」
そう言った次の瞬間。そこには、さっきまでの引きつった笑みとは打って変わり、満面の笑みを浮かべたアフロが目の前にいた。
「いいぜぇ!設計図も内装も全部部長であるユウマ君に任せる!もしデザイナーを雇うならそれも自由にしてくれぇ!」
満面の笑みを浮かべて椅子に座ったアフロに、俺は「ありがとうこざいます。」と会釈をした。
「ではブラックドッグ関してですが、ブラックドッグが墓を守っていると仮説して墓を作り直すことで解決したいと考えています。」
するとさっきまで興奮していたアフロは「墓かぁ……。墓を作るには許可がいるからなぁ……。」と難色を示す。
「いえ、先ほども言った通り墓らしい墓は必要ありません。なんなら、適当な木の下に偶然骨が埋まっているだけでもいいんです……。」
アフロは俺の言葉を聞いて少し考えると「まさか!」と声を上げる。
「通報もしないで隠す気か!?」
俺がその疑問に笑みで答えると、アフロは溜息を吐いた。
「………それをするにしても、まずは人骨を見つけなきゃなんねぇ。その上隠すとなると作業員達には見つからず、俺達だけで見つけることが絶対条件だ。だが探すのは庭付きマンション1つ分の土地。そこを俺達だけで探すのか?」
「いえ、それはブラックドッグに教えてもらおうと思います。」
アフロは眉間にしわを寄せると「そんな簡単に教えてくれるかぁ?」と鼻で笑った。
「ブラックドッグとしては土地を守りたいのではなく、墓を守りたいはずです。ならばこのまま工事を進められる可能性を残すよりも、墓を作り直してもらう方がいいはず。」
「なるほどなぁ。」
するとアフロは納得したのか、深く頷いた。
そうして話を終えたアフロは俺の前に置かれたままだった通帳に手を伸ばした。
俺はアフロが掴んだその通帳を人差し指で抑えて動きを止めさせる。
「少し話が根本的な部分に戻りますが。クミ先輩が言っていた将来を約束された金を10倍にも100倍にもする方法。それがあるのに、なぜこの金にそれを使おうとしなかったんです?」
そう問うと、アフロは緩んでいた表情を硬くして静かに口を開いた。
「今だから言えるがその話は俺も詳しくは聞いてねぇんだ。俺にはそんな方法思い付きもしなければ、思い付いたとしても絶対に実行しないと思うがな。」
嘘の特徴はないな………。
「同意です。」
そう呟いて、俺は通帳から指を離した。
………まあ。絶対にありえないがその話が万が一嘘だった場合でも、今回の経験を生かした金儲けなんていくらでもあるしな。
するとアフロは通帳を内ポケットに尚志なおしながら「なぁユウマ君。」と俺の目を見た。
「………もし俺が土地を渡さなかったら、ブラックドッグの解決方法は教えないつもりだったろ。」
突然言われたその言葉に俺は「まさか。」と笑う。
「土地が手に入らないのは問題ではありませんよ。問題は誰かに土地を持たれるということです。」
思っていた答えと違ったのか、アフロは「どういうことだ?」と首を傾げた。
………。
「アフロ先輩、先ほどの話に1つ訂正が。部活のために建物を建てると言いましたが………。」
・海星学園 男子寮 特別室
今日は満月。さて………。
部屋の窓を開けた。
・海星学園 高等部棟 UMA研究部室
「「「「………。」」」」
指定された通り、あの人間の匂いのする部屋に窓から入ると、あの人間以外の3人の人間が口を開けて固まりおった。付け加えると、何故か足のないトカゲが赤い長髪の女の頭の上で同じく口を開けて固まっておる。
隠すのだったな。ならば簡潔にいこう。
「私を仲間にしては貰えないだろうか?」
私は地面に尻をつけ、椅子に座る人間達の目を順に見ていく。
「………分かった。」
そして少しの間を置くと、あの白髪の男の人間から予定通りの返事が返ってきた。
「……え?ちょいちょいちょい!!………え!?」
サングラスをかけたモジャモジャ頭の男は、声をあげながら勢いよく立ち上がり、私と白髪の男の間に立つ。
「これって一体……。」
そしてモジャモジャ頭の男に続くように、黄金色の髪をした小柄な女も呟いた。
問い詰められた白髪の男は、小さく溜息を吐くと「自分にも分かりません。」と首を横に振る。
「ですが相手から来たのならそれに乗らない手はないでしょう。」
ハッ、白々しい。
「ゆ、ユウマ君?」
しかし納得がいっていないのか、モジャモジャ頭の男は白髪の男の両肩を掴む。
「なんですか?」
白髪の男が呆れ気味に首を傾げると、モジャモジャ頭の男は私と長髪の女を指差した。
「この状況が飲み込めないんだが!?詳しい事が分かった昨日の今日でこんな偶然あるか!?ユウマ君なんかしただろ!ほら見ろよ!クミちゃんなんて動かなくなっちまったじゃねぇか!」
相当焦った様子のモジャモジャ頭の男は、言いたいことを全て言いながら白髪の男を激しく揺さぶった。
「あまりの動かなさにツチノコは寝ちゃってますね。」
長髪の女の頭の上。そこに乗った足のないトカゲを覗き込んだ黄金色の髪の女はそう言った。
「ツチノコだと!?」
すると、思わず出してしまった私の声に人間達の視線が集まる。
ツチノコ?
「ツチノコといえば……。あの未確認生物のか!?」
「お前も未確認生物だよ!!!」
この部屋で唯一立っていたモジャモジャ頭の男は、そう言って脇の机を叩いた。
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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