不可解 修正済み
ブラックドッグを逃した後、校舎に戻るとクミとトウカが待ち構えていた。
「あっ!来ましたよ!!」
「ユウマくん!」
そう駆け寄ってきた2人は対照的な表情をしていた。
クミは落ち着いた様子で笑顔を浮かべ、トウカは動揺した様子で慌てた表情を浮かべていたのだ。
するとトウカは俺の服の裾を掴むと、震えるように揺さぶってきた。
「ななななんですかさっきの!!!!いいい一瞬でこここ校庭を!!!」
そんなトウカを横目にクミは「凄かったねー!!」と笑う。
「感心してる場合じゃ無いですよ!!」
俺は目を丸くしているトウカの肩を押し距離を置いた。
アフロの言っていた通りクミとトウカは美少女という括りに入るのだろう。ただでもなくあんなことをして目立った俺がそんな美少女2人と会話していると、授業中にもかかわらず野次馬が集まっていたのだ。
「とりあえず授業に戻りましょうか。」
そう言って俺達はそれぞれ抜け出した授業に戻ったのだった。
・海星学園 大学棟 第5研究室
二度目のブラックドッグが現れた日の放課後。水曜日の今日は大学で採血をされていた。
「はい、おしまい。」
いつも俺を担当している教授は俺の腕から注射針を抜くと、針の刺さっていた部分に小さなガーゼを押し付けた。
俺はそのガーゼをすぐにゴミ箱に捨て、溜息を吐く。
「毎回採血して何になるんだか。」
そう呟くと、教授というには若い中性的な容姿の教授は、目にかからない程度の茶色い髪と白衣を揺らしながら声を上げた。
「何になるにもなにも!君みたいな神がかった人間を研究すれば!いつか人を救うことができるかもしれないじゃないか!!」
興奮をあらわにして、俺から採血した採血管2本分の血液を照明にかざして笑みを浮かべる教授を横目に、俺は鼻で笑う。
「言葉がテンプレート過ぎて信用ならんな。」
が、嘘の特徴はない……。いや、そもそもこいつの事は読めないのだ。
そんなことを考えながら、俺は銀色のトレーに置かれた使用済みの注射器を手に取る。
「それよりも、わざわざこんな細い針でチマチマ取る必要はあるのか?」
すると教授は首を傾げ「いや?」と否定した。
「血液さえ取れれば良いわけだからどんな取り方でもいいけど……これが1番痛くないからねぇ。」
……まぁ、今回はいいか。
「そうか……。」
なぜ高校生の俺がわざわざ大学に来て教授に採血されているか。
それを説明するためには俺がこの学園に入学した経緯を説明しなければならない。
まず俺は海星学園にスカウトされた。
しかしそのスカウトには条件があったのだ。
スカウトして来たくせに入学に条件があると言う時点でおかしいが、その条件自体もかなりおかしいものだった。
条件1<週に1度海星学園の研究者に身体検査を受けること。>
条件2<学園内で他者に危害を与えないこと。>
条件3<正当な理由無く授業を欠席しないこと。>
条件4<学園の寮に住むこと。>
条件5<上記の条件違反が発覚した場合は罰則として1年間の監視を受けること。>
この5つの条件を飲めば、生活費にさらに上乗せした金額を払うと言われ、迷わず条件を飲んだ俺は、こうして条件1の身体検査を受けているのだ。
「さて、いつも通り終わりだろ?顕微鏡と道具を借りるぞ。」
「ん?顕微鏡?いいよいいよ!この部屋の物は何でも使っていいからね~。」
教授はそう笑うと俺の血液を持って奥の別室へと入っていった。
教授が消え、人目が無くなったことを確認した俺は、懐から試験管を取り出す。
試験管にはブラックドッグの炎から手に入れた虫を入れてあり、その内の1匹をピンセットで取り出してプレパラートを完成させた。
3~5ミリ程度のこの虫は見た限り記憶にはない。つまり間違いなくこの虫は新種ということだ。
しかし、ブラックドッグと同じ場所に偶然いた新種の昆虫………などということはほぼないに等しいだろう。
つまりコレはブラックドッグとなんらかの関係があるはずなのだ。
そしてプレパラートを乗せた顕微鏡を覗き込み、ピントを合わせていくと徐々に虫の姿が鮮明に見えてきた。
まるですばやく飛ぶためだけのような大きく鋭い翅と、それを支える飛翔筋の塊のような身体。そして顎が肉食蜂のように鋭く、何よりも身体の大きさに対して異常に大きかった。
やはりこんな虫は知らない……。
俺はメスの袋を開け、右手にピンセット、左手にメスを持って再度顕微鏡を覗き込む。
ブラックドッグが次の日も同じく現れている事、消滅した後完全に気配が消えた事から、存在が消滅した訳でも透明化した訳でもなく、消滅もしくは消滅に見える方法で瞬間的にどこかに移動しているということになる。
しかしこの虫が新種かどうかは問題ではない。根本的な問題はこの虫がブラックドッグの瞬間移動に関わっているかだ。単純に瞬間移動できるブラックドッグに寄生している新種の虫ならば、調べたところで意味はない。
だがもし、この虫の力でただの黒い犬が瞬間移動できていたとするならば、この虫を調べる事に大きな意味が生まれる。
この虫がワームホールを作り出して、それを通っているのか、はたまたただの黒い犬を細胞レベルで分解し、虫がその細胞を高速移動で運んで別の場所で再構築しているのか。
そんな今の科学では証明できない方法でしか今回の件は説明できないのだ。
だがツチノコが喋り、カマイタチが水と人を空中に浮かした時点で科学などもう意味をなさない。
だからこそ、この虫を調べるのだ。
もしこの虫がワームホールを作り出しているのなら………。
そのワームホールを発見しただけで………金が稼げる!なんなら実用化できるレベルまで独自で研究すれば、さらに金が稼げる!!!
そんな夢物語を妄想しながら俺は虫を解体していった。
「よし……。」
へんな理想を抱いたせいで変に張り切ってしまったが、確信出来たことだしよしとしよう。
そう確信できた。この虫はすべてがメスだったのだ。それが何を意味するのか、それは蟻や蜂のように不妊階級がいる真社会性昆虫だということだ。
もちろん掴んだ数十匹すべてがメスだという可能性もあるが、ほぼ無いと言っていいだろう。また、すべてがメスということからも、寄生蜂の幼虫ようなタイプでもない。
社会性昆虫は寄生蜂のような場合を除いて巣やコロニーを作ることが多い。では今回のこの虫達の巣はどこにあるのか。ブラックドッグの身体か?それとも他の場所か?
しかし問題はそこではない。巣やコロニーがブラックドッグの身体に作られているのなら、それだけ虫達にとって住みやすい場所ということになる。他に巣があるのならば、ブラックドッグに虫達が集まる理由があるということだ。虫達は恐らく肉食、群がる理由とすれば主に捕食だ。身体に巣を作られれば排泄物などによって不衛生であり、本来ならば泥浴びなどで避けるべき事態だ。もちろん、捕食されることにも同じことが言える。
しかしブラックドッグの身体には泥のような物はついていなかった。つまり、ブラックドッグにとってこの虫達は無害であり、巣を作られることも捕食されることもない、もしくはそれへの耐性があるということになる。
では、なぜ虫達はブラックドッグに群がるのか。巣も作らず、捕食もしない、またはブラックドッグに体制があるとなると、虫達にとって大きな利益は無いはずなのだ。群がるにもかかわらず虫達に利益が無いのならば、ブラックドッグには利益があるということになる。
それは何か……そう、瞬間移動だ。
おそらく匂いのような物で虫達を群がらせ、利用しているのだろう。もちろん、虫達の力が強力なためにブラックドッグが手出しできていないという可能性もあるが、それにしてはブラックドッグが弱っている様子はなかった。
「………。」
・海星学園 男子寮 特別室
帰宅してすぐ必要な睡眠は取った。
今日は新月だ。こんな日は夜通しゲームに限るのだが………。
次の日。
「ブラックドッグ捕獲大作戦!!」
・海星学園 高等部棟 UMA研究部室
俺とトウカが部室の扉を開くなり、肩にツチノコを乗せてそう言い放ったクミに俺とトウカの視線が向く。
「って、アレ?アフロ君は?」
首を傾げたクミの質問の答えを確認するため、俺はトウカに目を向け「今日も休み?」と問いかけると、饅頭を加えたトウカは嫌そうに目を細めた。
「アフロの事をなんで私に聞くんですか。」
「メッセージとか来ないのか?」
そう問うとトウカはさらに深く嫌な表情を浮かべた。
「………来ました。なんか買った物がうまく行ってないみたいで公欠期間を延ばしたそうです。」
来たのか。トウカも可哀想に。
「ん?というか!?ユウマ先輩とクミ先輩にはメッセージこないんですか!?」
アフロのことを知らない俺達の言葉の違和感に気付いたトウカは勢いよく立ち上がった。
そんなトウカの疑問に、俺は一言で答えてやる。
「連絡先は教えてない。」
その答えを聞いて驚いた表情を浮かべていたトウカは、「私はブロックしてる~。」というクミの言葉を聞いて無表情になった。
「………アフロに同情です。」
同じく。
「じゃなくて!!ブラックドッグの事!!」
すると本題を思い出したクミが馬鹿らしく地団駄を踏んだ。
捕獲って言ってるんだから捕まえるんだろう?だが……。
「あんなの捕まえられるんですか?」
俺に向かって首を傾げるトウカに俺は小さく溜息を吐く。
「一般人なら近づくことすら不可能。……どうするつもりで?」
そうクミに視線を向けるとクミは笑顔のままフリーズした。
このバカ、何も考えてなかったな?
「はぁ……。」
ため息の方を見ると、呆れたような目で俺を見つめるトウカがいた。
そんな目で見ても助けないし、この空気を変える気もないぞ。
『ちょっと!』
すると俺のスマホにトウカからのメッセージが来た。
『何?』
『早くこの空気どうにかしてくださいよ!……ほら!クミ先輩動かなくなっちゃったじゃないですか!』
『動かないって……アレは何も考えてないだけだろ。」
『どっちでもいいですよ!とにかく今は「一緒に考えましょうか。」ぐらい言ってください!』
『思い付いているなら自分で言えばいいんじゃ?』
『うぅ……。』
するとトウカは「あー、えっと。」と言葉を詰まらせながら言葉を絞り出す。
「でもまあ、時間はあるんですから一緒に考えましょうよ。ね?ユウマ先輩!!」
そして俺に向かって笑顔を浮かべた。
『なんで話を振るんだ。』
俺はトウカに目を向け、画面を見ずにメッセージを送る。
しかしトウカが何か行動を起こすことはなく、表情を変えないまま返信が送られてきた。
『それよりもはやく話をしないと変な空気になっちゃいますよ?』
『もうなってる。』
俺は溜息を吐き、トウカが口にした言葉に答える。
「まあその辺は発案者のクミ先輩に任せますよ。」
そう言って俺はクミに、そして内心トウカに向かって笑いかけた。
するとトウカからは怒った文面の言葉とその表情のスタンプが届いた。
『任せたからこうなったんですよ!何振り出しに戻してくれてんですか!』
「………。」
『既読無視決め込まないでくださいよ!』
「フッ……。」
小さく鼻で笑って机の上に置いていたゲーム機の電源を入れると、向かい側に座っていたトウカに机の下で脛を蹴られた。
その日は結局結論が出ることはなく、アフロが返ってきてから本格的に活動することになった。
始めてブラックドッグが現れた日から1週間と3日が経った。
その間、俺が登校する平日は毎日現れていることは確認できた。しかし特に危害を与えてくることもなく、ブラックドッグのいる生活に慣れてきた海星学園生は以前と同じような一週間を過ごし始めていた。
……いやブラックドッグが現れて変わったことが一つあるか。
授業中の教室でそんな事を考えながら俺は、ガラスは割れ、壁は崩れ、KEEPOUTのテープが張られた窓……だった場所を眺める。
2度目のブラックドッグが現れて以来、高等部2年A組の風通しが少し良くなった……。
そしてブラックドッグに反比例するように、アフロが学校に来ることは一向になかった。
悪いな。
心の中で謝罪をしながら誰とも知らない家の屋根に着地し、そしてまた次の家の屋根へと跳ぶ。
前回の新月の日とは違い、細い三日月に照らされる今日は二度目の探索だ。
前回は海星学園近くの墓から隣町の墓まで全てを見て回ったが大した収穫はなかった。
一体どこのブラックドッグなんだ………。
・海星学園 高等部棟 UMA研究部室
「ただいまぁ……。」
土日の休日を挟み、月曜日を迎えた今日。ここ数日と同じように休み時間を俺、クミ、トウカ、ツチノコの3人+1匹がそれぞれ部室で過ごしていると、やつれた様子のアフロが入ってきた。
すると、うつらうつらしながらクッキーを咥えていたトウカもそんなアフロの声を聴くなり「え?今誰か元気のないアフロのモノマネしました?」と閉じかけていた目を開く。
「今アフロ先輩が元気のないアフロ先輩の声を出した。」
ゲームをしながらトウカにそう説明してやると、その俺の後ろをアフロが重い足取りで通り過ぎていく。
「………ハァ。」
そして溜息を吐きながら俺の隣の椅子に座ったアフロは、ビジネスバッグを枕のようにして机に顔を伏せると動かなくなった。
「「「………。」」」
以前とは違う様子のアフロに、気まずそうにしているクミとトウカと目が合ったが、俺は反応せずにゲームを続ける。
そんな俺を見ていたトウカは静かに溜息を吐くと「どうしたんですか……。」と少し呆れ気味にアフロに問いかけた。
するとアフロは、机に顔を伏せ一言も発さないままビジネスバッグから書類の束を取り出すと、それを机の上に投げ捨てる。
その書類には大炊御門建設現場事故管理表と書かれていた。
大炊御門はアフロの苗字だ。つまりアフロの会社のことか。
「これは?」
そう問うと、アフロは重い動きで書類をめくっていき1番最後のページを開いた。
俺はゲームを中断し、その書類を手に取る。
管理表の中はタイトル通り事故の内容とその日時を書くようになっていた。
その管理表によると、小石が頭に落ちて出血から、誘導ミスによる建設機械の接触のような事故まで。そんな様々な事故がここ1週間だけでも連日異常な程に起こっていたのだ。
これは……。
「大炊御門建設さん、やってますね。」
書類を眺めながらそう呟くと、アフロは「やってねぇよ!!」と声をあげながら勢いよく起き上がった。
「……何を!?」
やっと声を出したアフロを無視して俺は話を進める。
「それで、これが大炊御門建設の不備で無いのなら何だと?」
「あぁ、実は……あ?今なんつった?」
サングラス越しに俺を見てきたアフロに向かて俺は首を傾げると、アフロも俺に合わせたように首を傾げた。
「………実は最近会社が儲けてちょっとした土地を買ってな。そこにマンションを建てようとしてたんだが……最近謎と言うか、不可解と言うか……そんな事故が連続してるんだよ。」
確かに、ここ一週間でこの事故の量はおかしい。
「やってますね。」
再度書類を眺めながらそう呟くと、アフロは「やってねぇって!!」と声をあげながら机を叩いた。
「さっき言ってたもんな<不備>って!やってねえから!!と言うかホワイトで有名な大炊御門社ですから!!?」
それは聞いたことがある。
「ならこれはどう言った理由で?」
書類を綴じてアフロの前に置くと、アフロは小さく溜息を吐いた。
「だからそこが不可解なんだよ。建設機械が他の建設機械に突っ込んだかと思ったら運転してた奴がいなくなってて他の場所に瞬間移動したみたいに倒れてたり、そんで同じく瞬間移動したみたいにどこからともなく野生動物が現れたり。とにかくもう……不可解なんだよ!!」
………。
「ちょっと待ってください。今なんと?」
そう問うとアフロは「不可解なんだよ?」と繰り返して首を傾げた。
「いえ、瞬間移動と言いましたか?」
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見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。
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