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霧崎UMAの優真譚  作者: 尾高 太陽
File.4
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ジャッカロープの前に 修正済み

 ・海星学園 高等部棟 2年A組


 UMAの力を売る?いや確かにカマイタチの風なら金を出す奴もいるだろうが10桁は言い過ぎだ……。

 なら大げさに言った?いや、アイツらに嘘の特徴はなかった。

 嘘を隠すのは無理と考えていいだろう。

 やはり何か別の方法が?

 俺が思い付かず、アフロ達には思いつく方法………?

 ……ダメだ。思いつかない。

「じゃあこの問題を……霧崎。」

 ゲームをしながらアフロの言っていた金を増やす方法を考えていると、授業をしていた数学教師が俺の名前を呼んだ。


 授業中の思考は直接的な邪魔が多くて困る。

 仕方なくゲームを一時中断し、コントローラーと片耳に着けていたイヤホンを机に置いて、黒板の前に立つ。

 この問題と言われても黒板を見ていない俺に分かるはずもないが、黒板に書かれた問題の中で唯一答えが書かれていなかった問題の前に立つ。


 ax4乗+bx3乗+cx2乗+dx+e=0


 四次方程式……。

 高校でする問題じゃ無いだろ。

 早くゲームをしたいと言うのに、書く文字数の多い問題を出した教師に溜息を吐きながら俺は答えを書いていった。


 その後、正解を書き切る頃には、他の生徒はもちろん、教師も教材と黒板を交互に見て答え合わせをしているのだった。




 ・海星学園 高等部棟 UMA研究部室

 昼休み、机に座ってゲームをしていると、後から入ってきたアフロが突然肩を組んで来た。

「オイオイ優真くんよぉ!今日数学で四次方程式解いたんだってぇ!?さすがだなぁ!」

 ニヤニヤと笑うアフロは<ウザイ>の一言に尽きた。

「えぇ、公式に当てはめるだけですから。」

 脳内で公式を見ながらだけどな。

 すると向かいの席で板チョコを咥えるトウカが首を傾げた。

「あむ?四時方程式ってそんなに難しいんですか?」

 俺の肩から腕を放し、椅子に座ったアフロは両掌を上にかざして肩をすくめる。

「あぁ。俺も2年の時に出されたが解けた奴は0。数学の教師に解き方を聞きに行っても教えてくれなかったから、多分教師自身分かってないんじゃないのか?」

 まあ、あれは<天才>を絞り出すための罠みたいなものなのだろう。

 解くことが出来れば天才扱いされる。解けなくても現状維持といったところか。


 ところで……。

「クミ先輩はさっきから何を見ているんです?」

 いつもなら見境なく会話に入ってくるクミは俺たちの会話に混ざることなくツチノコを頭に乗せて、横に向けたスマホを眺めていた。

「これ見て!これ!」

 そう言って見せてきたスマホの画面を、俺とトウカとアフロで覗き込む。

 そのスマホの中ではUMAの特番が流されていた。

「う~わぁ……胡散臭ぁぁあ。」

 そんなトウカの声と共に俺はスマホの画面から目を離すと「次だよ!」とクミにスマホを見させられた。

 さっき見た時に流れていた蜘蛛男の動画はトウカの言った通り胡散臭い、と言うかはただの合成だ。背景の光の向きと蜘蛛男の光の向きが違った。

 そして動画は次の場面へと変わる。題はジャッカロープ。


 ジャッカロープ

 アメリカのワイオミング州等に生息していると言われている、頭に鹿の角が生えているウサギの姿をしたUMAである。

 群れで生息していると言われている。

 また、言い伝えでは「人の声真似が得意」「ウイスキーが大好物」「カウボーイのキャンプファイヤーの場に時折現れる」「乳が万能薬になる」と言われている。


「これなんだけど……本物っぽく無い?」

 するとクミはそう言って動画を一時停止させた。

 それはどこかの自然あふれる風景。その草むらには、遠いながらも鹿の角らしき物が生えていることが分かるウサギが映っていた。

 確かに先ほどの蜘蛛男とは違い、光の向きや画質は背景と揃ってはいるが……。

「これがジャッカロープだとしても、場所も分かりませんし。まずはこの写真の撮影者に話を聞くべきでは?」

 するとクミは「場所は分かるよ~?アメリカ~!」とバカなことを言い出した。

 まぁ、ナレーションでも言っていたしな……。

 だが、裏山のカマイタチと行けば、次も裏山の九尾か人魚にするべきだ。

 そもそも、カマイタチの件も学校側には話さないようにと口止めされたおかげで、何の成果も得られなかった事になっている。そんな奴らに公欠もクソもあるか、と教師達は思うことだろう。つまり今回は公欠が取れないのだ。

 そのことはクミ達にも説明して、理解しているはず。


 するとトウカは「海外ですかー。」と一人呟いた。

「皆さんは行ったことあるんですか?」

「私は何回か行ったことあるー。」

「俺は仕事でよく行くからなぁ。」

 トウカの疑問にクミとアフロが答えると、俺に視線が集まる。

「何度か。」

 そう答えるとトウカは「え!じゃあパスポート持ってるんですか!?」と質問を続けた。

 その質問にトウカ以外の3人は首を縦に振って答えた。

「私は海外に行ったことがないので憧れます!特にパスポートのスタンプとか!」

「変なとこ憧れるなぁ。」

 鼻で笑いながら言うそのアフロの言葉にトウカは「うるさいですよ!」と言い返す。


「あ!」

 突然そう声を上げたクミに視線が集まる。

「あ、私そろそろパスポートの更新しないとだ。」

 するとアフロは「驚かせるなよ。」と溜息を吐いた。

「でもまぁ、俺達の年齢だと5年だから更新細かいもんなぁ。」

「アフロ君は更新まだなの?」

「俺はあと2年くらい残ってたはずだ。」

 その答えが不満だったのか、クミは「えー」と口を尖らせる。

「誰かと一緒に更新に行きたかったのにー。」

 理由を聞くなり額に手を置いたアフロに、トウカは「失敗しましたね。」と鼻で笑った。

「ユウマ君は?」

 そんなアフロをよそに俺に来た質問に「自分もあと3年ほど残ってますね。」と答えると、クミは「そっかー。」と再度口を尖らせた。

「じゃあ1人で行かなきゃかー。」

「じゃあ俺が付き添おうか?」

「いや、いいや。」

「え……。」


「ジャッカロープの話に戻しますが、どうやって……はアフロ先輩の資金があるとして。いつ、行くと?」

 すると俺以外の全員が首を傾げ、声を揃えた。

「「「夏休み!!」」」

 ………まぁ覚悟はしていた。

 問題は。

「期間は?」

 恐らく今まで考えてもいなかったであろうクミは小さくうなると、笑みを浮かべて小首を傾げた。

「見つかるまで?」

 死刑宣告だ。




 ・海星学園 高等部棟 2年A組

 海星学園では90分授業が1時間目から10時間目まである。1時間ごとの休憩は30分。午前8時に1時間目が始まり、午前2時に10時間目が終わる。

 もちろんだが、その全ての授業に参加する必要はない。

 自分の体質に合わせて時間を選び、卒業や将来、才能に必要な授業を取り、単位を得る。この学園は特殊ではあるが、一応多部制単位制というものに分類される。

 ちなみに多くは取れないものの、高等部生の約10%は最低限必要な単位を授業で取り、残りを高等学校卒業程度認定試験で単位を取って高等学校卒業認定を取る。

 つまりは義務教育ではない高校3年間はできるだけ授業に参加せず才能を伸ばし、最低限の自主勉強で高校を卒業する生徒がいるのだ。

 まさしく天才と呼ばれる者にふさわしく、そしてそれを許す海星学園は才の学園と呼ばれるにふさわしい教育方針だ。

 まあ単純に天才を卒業させて、その天才が社会で活躍すれば学園に箔が付くから、と言うのもあるのだろう。


 さて、少し話が逸れたがなぜこんな話をしたのか。

 それは4時間目が始まって52分30秒が経った今。教師も含めた教室の全員が静まり返り、窓の外に目を向けていたからだ。

 窓の外。つまり校庭を挟んだ向こうの教員寮との仕切りの門。その門の中央に一匹の黒い犬がいた。

 いや、犬と言う物に当てはめてもいいのだろうか。

「何、アレ……。」

 そんな女子生徒の言葉につられて教室がざわつき始める。


 そう。一般的な犬は黒い煙を出すこともなければ、黒い炎を身に纏うこともない。


 もちろんあんな生物は図鑑に載っていなければ、学会にも提出されていない。

 だからこそ、言い切れる。


 UMAだと。


 確かに図鑑には載っていないが、記憶にはある。

 ブラックドッグだ。


 ブラックドッグ

 イギリス全土に伝わる、燃えるような赤い目と黒い体の大きな犬の姿をした不吉な亡霊、妖精である。

 夜中の人通りの少ない道や十字路に現れるとされ。死の先触れや殺されると言われている。

 その他にも「硫黄のような匂いと共に消える」「墓地の番人」「炎や雷のような自然現象を扱う」と言われている。


 次の瞬間、門の前には何もいなくなっていた。


 皆が目も逸らさずに見る中、一瞬にして消えたその存在に教室がさらにざわつく。

 しかし俺は見逃さなかった

 黒い炎が徐々に大きくなると犬を包み込み、まるで燃え尽きるかのように犬もろとも炎が消えたのだ。


 その日、高等部ではブラックドッグの噂で持ちきりになったのは言うまでもない。




 ・海星学園 高等部棟 UMA研究部室

 4時間目と5時間目の間の休み時間。静かにゲームをしようと部室に行くとトウカが先に来ていた。

 そして適当な雑談を済ました後、俺は静かなゲームタイムを過ごしていた。


「先輩。4時間目のアレ、見ました?」

 するとトウカは眠そうな目で俺を眺め、グミを食べながら呟いた。

 ブラックドッグの事だな。

「見たよ。」

「私には燃え尽きた様に見えたんですけど……。」

 奇遇だな。見間違えることのない俺と同じだ。

「詳しくはクミ先輩とアフロ先輩も一緒に……と言いたい所だけどその2人は?」

 ゲームを一時停止して話しているとトウカは首を傾げた。

「分かりません。クミ先輩は基本授業にも出ないので、昨日みたいに部活に来た時以外は分かりませんし。アフロも今日は休みみたいですよ。なんか株で儲けたお金を使って大きな買い物をしたとかなんとか……。」

 ん?

 なぜトウカはそんな事を知っている?確かにクミにひっつき回っているトウカなら今までにもクミの教室に行き、授業に出ない事は知れるだろうが、アフロを毛嫌いしているトウカには興味は無いはず……。

 そんなことを考えているとトウカは嫌悪の表所を浮かべて溜息を吐いた。

「聞いてもないのに自慢して来ましたよ……。」

 アフロ………。

「それは置いといて、アレってブラックドッグってやつですよね。」

 おめでとう。おそらく正解だ。

「よく知ってたな。」

 そう小さく笑いかけると、トウカは本棚のUMA辞典に目を向け「あれで勉強しましたから。」と笑った。

「とはいってもUMA。詳しいことはツチノコにでも聞こうかと思ってたけど……。」

 そう言って周囲を見渡すが部室のどこにも気配はない。

「クミ先輩がいない日はいつもいませんよね。」


 そう。いつもクミが連れてきているのだろうツチノコは、クミがいる日にしかいないのだ。そしてそのクミは基本授業には出ず、その日は部活にも来ないときた。勧誘した本人が部活に来ないとは退部してやりたいところだが………学園生活ゲームライフと金のためだ。


「でも、なんでこんな所に来たんですかね。」

 そう首を傾げるトウカの問いに、答えを出すことはできないまま、その日は終わったのだった。



 そして次の日。

 また4時間目の途中でブラックドッグが現れた。

 今度は写真に残そうとでもしているのか、教室のほぼ全員が立ち上がったり、机の上に乗ったりしてスマホのカメラをブラックドッグを向けている。

 もちろん、窓際最後列という特等席の俺の近くには誰も近づかないが……。

 さて、今は眺めるよりも………。


 すると次の瞬間、ブラックドッグを向いていた教室全員の視線が俺に集まる。

 当たり前だ、教室の誰とも関わらない学年主席が突然窓を開けて飛び降りようとしているのだ、注目されないわけがない。

 だが、飛び降りようとしているのではない。正しくは<跳ぼう>としているのだ。


 窓枠に乗った俺は膝を曲げたまま前に倒れていく。そして体が壁に対して90度になったところで、窓枠を強く蹴った。

 体は反作用により強く押され、高速で空中へと飛び出す。

 後ろでコンクリートが崩れガラスが割れているが、俺の周りには人がいなかったから被害はない……はずだ。

 着地地点や速度などは跳ぶ前に計算し、角度と力は調整してある。


 窓から跳んで2秒ほど経ったあたりでブラックドッグの炎と煙が大きくなり始めた。

 炎は昨日よりも速いスピードで大きくなり、すぐにブラックドッグを包み込んだ。

 それから1秒後。俺の足が地面に触れると、砂埃を巻き上げながら校庭を滑っていった。

 小石に弾かれ、バランスを崩すこともあったがそれも修正し、徐々に減速ながら進んでいく。

 そして計算通り生体に負担がかからない程度に減速したタイミングで、小さくなりつつある炎の場所にたどり着いた俺は、ブラックドッグがいるはずの炎の中を左手で掴んだ。

 逃したか………。

 その手に犬のような物を掴んだ感触はなく、俺は勢いのまま炎の横を通り過ぎていく。

 だが最後まで炎を観察すべく身体を捻って振り返り、右手と片膝をつきながら静止した。

 薄黒い煙を出しながら小さくなっていく炎はというと、焼痕を残すこともなく燃え尽きたのだった。

 そして煙が風に流れた後、服に付いた砂を右手で払いながら立ち上がる。

 炎を掴んだ左手。確かに犬のような物を掴んだ感触は無かったが、今もなお、何かを掴んでいる感触があるのは確かだった。

 その正体を確かめるべく左手を開くと、そこには数十匹の黒い羽虫が死んでいた。

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 見たところで大したことも無いですがもしよければ見てみて下さい(ほとんど呟かない笑)。

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