第09話 可愛くなりたい
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暖炉で火を焚いて、服を乾かす。
彼の肩にもたれて、お喋りをした。
綺麗な銀色の髪に炎の色が反射して、輝いて見える。
こんな近くに顔があったら、緊張する……!!
胸の鼓動が、聞こえてしまってるんじゃないとか、顔が真っ赤なのかバレてるんじゃないかとか、おばあちゃんには話せないとか、とにかく緊張してうまく話せない。
「リリー?」
「は、はははははい!」
「どうしたの?」
「き、緊張しちゃって! だってすごく、あの……っ」
顔が近くて!
「落ち着いて」
ぎゅっと肩を抱かれて、緊張が最高潮に達する。
逆効果です。心臓が口から飛び出そう。
喉がひりついて声が出ない。
「……」
「リリー?」
こんな間近で見つめられたら……。
帰れなくなっちゃうよ。
「……なに考えてた? 誰もいないから教えて?」
つん、と彼の指が、私の唇に触れた。
「帰れなくなるなって……。雨止まないし……」
「服が渇くまでには、きっと止むよ」
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お喋りをしていただけで、すぐに、雨は止んだ。
当然、家族・友人に言えないようなことは、何も起きず、村のすぐ近くまで送ってもらうことになった。
(わかってたー、うん、わかってたし! 全然残念じゃないし)
湖の周りを二人きりで歩く。
鳥の声しか聞こえない。
(世界に私たちしかいないみたい……)
そんなわけないのに。
他愛もない話をしながら、時々、休憩する。
湖を抜けて森を抜けたら、さよなら。
立ち止まって湖面を見つめた。
……帰りたくないよ。
「どうしたの」
「……」
水面に二人並んで映る。
光があたって、透き通る銀色の髪が風に揺れた。
いつまでも見つめていたい。
「ノア様」
「なんだい」
「また……、あ、あの……、会いに来ても、いいですか」
「もちろん。リリーなら大歓迎だよ」
また次があるって思っていいよね。
向こうから見たら、私なんて、ただの迷子なんだろうけど。
それでもいいや。
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家へ戻ると、おばあちゃんはいなかった。
顔を洗って、服を着替えてベッドに転がる。
机の上に放置してある惚れ薬が光を受けてキラキラ輝いている。
惚れ薬を作ったのは遊びみたいなもので。
私なんかにあの人は似あわない。
……まるで釣り合わない。
少し年上の素敵な人。話ができるだけでもいいと思っていた。
……そんなことなかった。
自分にこんな欲深い一面があるとは知らなかった。
ずっとお話していたかった。
「……はあ」
村の近くまで送ってもらって手を振った。
離れたくなくて。
胸に手を当てる。
ここが、苦しいの……。
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風が窓を叩いて音を立てた。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。昼寝から覚めて、首を回す。
四角い窓からは木々の輪郭が灰色の空を切り取っている。
今日も、また雨。
学校行きたくないな……。
私みたいなのが彼氏欲しいなんて、まだ早いのかな。
重い頭を起こし、机の引き出しを開ける。鏡をのぞけば、長いだけでほったらかしの赤い髪。
ブラシでとかして、三つ編みにしてみる。
気に入らなくて、半分を編み込みにしたり、リボンをつけてみたりする。
(あんまり変わらないわね……)
可愛くなりたい。
せめて、彼の隣にいても、恥ずかしくないくらいに。
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雨が止んだ合間に、着替えて学校へ向かう。
授業に出る気はない、図書館に本を返しに行くだけ。
「あー、リリー!」
「珍しい!」
下校時間のクラスメートたちが声をかけてきた。
「どうしたのその頭!?」
「全然似合ってないんですけど!」
キャハハハ、と下品に笑う彼女たちに会いたくなくて学校行ってないんですけど。
「……」
無言で通り過ぎる。
用事を済ませて、すぐに校門に出る。
「あれっ、リリーじゃん。珍しいね学校来てたの」
ちょうど帰るところのトレニアに会った。
「うん」
「どーしたの、髪、可愛いじゃない」
「……そう?」
「ちょっと編み込みヘンだけどね! リリー、不器用だもんね」
……ヘンかな。
「また練習すればいいじゃん。帰ろ」




