第05話 惚れ薬完成
■ 惚れ薬完成……?
「……というわけなの」
「ふーん。ノアって……知らないなあ……?」
「でも、『ラウネルで私の名を知らないものがいたとは』って言ってたよ?」
「ふーん……?」
まあ、いいか、とトレニアは首を、こきっと鳴らした。
「その人に、惚れ薬を飲まそう」
いまなんて言った?
「えええ!?」
「そのつもりだったんでしょ?」
「そ、そんな恐れ多いよ!」
「表現オカシイって。いいじゃん、年上の彼氏~」
「ムリ! 絶対ムリ!!」
「じゃあ止めようか」
トレニアはさっさと本と材料を片付け始めた。
ハーブを皿にまとめて、「捨てていいよね」と笑う。
「ちょっと、待って!」
「止めるんでしょ?」
「ちょっと待とうよ」
トレニアはニヤニヤ笑っている。
「イヤ、リリーが嫌ならいいのよ? 無理強いはよくない」
「そんなこと言わないでよっ」
「じゃあ決まりね。大丈夫だって、成功するとは限らないんだからさ」
「それも困る」
話が決まると、私たちはもう一度材料をチェックした。
「だいたいあるかな」
「トレニア、桃の種がないよ.赤ワインも」
「うーん。赤ワインは、台所にあるやつ貰ってこよう。桃……。桃の種か」
裏の畑に桃の木があることはある。
「まだ熟してないけどいいかなあ?」
「種の中身を使うんだし……。まあいいんじゃない……?」
「やめておこうか。ひとつ抜いても大丈夫だよ。たぶん」
■
基本はすべての材料を分量通りに混ぜるだけのようだ。あとは、月夜の光に一晩あてて、太陽が昇らないうちに取り込む。
一晩、眠らずに月の光にあてる。
うまくいくわけがない。
でも、もし。惚れ薬が上手にできて、あの人に飲ませることができたら。
この退屈な日々が、少しは変わるんだろうか。
眠れない夜をやり過ごして、昼間はふらふらしているだけの毎日。
翌朝、夜が明ける前に、部屋に取り込んだ。
朝食もそこそこにトレニアが家にやってきた。
「できた」
「……じゃこうが入ってないよ?」
「バジル飾ってあるから大丈夫だよ」
「だから、何が大丈夫なのさトレニア」
見た目だけなら、オレンジジュースだけど……。
シナモンほかいろいろ、混ざりこんでいるので、味は期待できそうもない。
じっと怪しい液体を見つめる。
「惚れ薬の味見ってのも、ヘンな話だね」
とトレニア。
「でも、味見もしないで他の人に飲ませるのもアレだよね」
「まあナンだね」
「飲んでみよう」
「……そうね……。よし、リリー、まかせた」
「まかせて。……って、トリニアも飲むのよ」
ごく……。
……。
…………。
「うぇぇぇぇぇぇ……!!」
「コリャヒドい!!」
なんだこの味。
サワヤカなオレンジジュースの甘さを、バラの苦みが鮮やかに消し去り、シナモンの風味がまったく噛み合わないハーモニーを奏でている。
「コレ、飲めたもんじゃないね」
「例え惚れ薬として成立してるとしても、百年の恋も冷めるよ」
「……冷めちゃ困るよね……」
でもきっとこれは、惚れ薬として完成してるんだろう。
そう思うことにする。
これをどうやって飲ませるかが問題だ。
トレニアが、「お礼を兼ねて『自分の家のオレンジです』って、惚れ薬を渡したらどうかな?」と提案した。
あまりの不味さに、『どうしたら飲んでもらえるか』と検討したところ、
「塩をガッツリ入れた、しょっぱいミートパイを作って、『しょっぱい!!』となったところに、オレンジジュースを差し出そう」
という計画に落ち着いた。やはりトレニアは天才かも知れない。
味がわからなくなるほど、塩を入れたパイを焼くなんて。
「絶対にうまくいくって思って行動しないと」
「……その通りね。よし、やろう」
そんなわけで、見た目はおいしそうだが、塩辛いミートパイと、オレンジジュースとみせかけた惚れ薬を持ち、あたしたちは森を進んだ。
……ところが。




