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【完結済】へなちょこリリーの惚れ薬  作者: 水樹みねあ
最終章
35/36

第35話 光の種

二人が決めた結末。



「……リリー。答えを聞いたね?」

「違う」

「じゃあ、答えを用意してきたんだね」

「それは当たり、です。自分で出した答えなの」


 本当はノア様といたい。おばあちゃんとトレニアは悲しむだろう。

 せめて私の気持ちを聞いて、欲しい。

 彼には、今の私を全部知っていて欲しい。


「私、自分が何をしたいのか、どうしたいのか、ずっと解からなかったの」

「うん」

「でもノア様は、私に聞いてくれたよね。『君の望みは?』って」


 それから考えた。


 変わりたい、強くなりたい。

 私が欲しかったのは、昨日とは違う自分。


「ノア様に認めてほしかった」


 だから、頑張れた。

 トレニアが、支えてくれた。

 黒百合の女神が知恵を貸してくれた。おばあちゃんが見守ってくれた。


「一人じゃないってわかったの」


 『君にしかできないこと。君がやるべきことなんだ』、ノア様はそう教えてくれた。

 それは、自分を信じること。

 でも、気付かせてくれたのは、ノア様だったり、トレニアだったり、おばあちゃんだったり、黒百合の女神だった。


 やっと気付いた。やっとわかった。

 愛されていることに。

 ノア様と出会えて解かった。


「ノア様がおばあちゃんを守ってくれたから、私がいるの」



 ひとりじゃない。

 ひとりじゃなかった。

 みんな繋がってるんだって、わかった。




「ノア様のことが……好きです」



 良かった。

 ちゃんと言えた。


「リリー……」

「ノア様とずっといたい。……でも……おばあちゃんとトレニアは悲しむから」


 きっと、二人はノア様を恨むだろう。

 そんな思いはさせたくない。

 黒百合の女神も「どうして止めなかった」と責められるだろう。

 自分だけの気持ちを押し通して、周りに悲しい思いをさせることはできない。

 ノア様についていって、……彼や黒百合に我慢を強いることはできない。


 誰も幸せになれない。

 それは、私の望みじゃない。





 だから……。

 





「ごめんなさい。一緒にはいられない」


 さよなら、ノア様。


「……リリー。顔をあげて」


 ノア様の口調はいつも柔らかくて、心が落ち着く。

 この人の目は、宝石、だ。見つめるとうっとりする。


 声も指先も。

 ……全部、好き。


「私も、君が好きだよ。たぶん、初めて会った時から」

「……それはおばあちゃんに似てるからでしょ?」

「違う。……それは違うよ、リリー」

「じゃあ、惚れ薬を飲んだから?」

「君は、あの薬を何時飲んだ?」

「えっ……。最初に作った時……だと思う」


 じゃあやっぱり違うよ、と笑う。


「あの薬はね。二人で一緒に飲まなきゃ効果がないんだ」

「……?」

「だから、私が君を好きになったのは、君の実力ってことさ」



「でも……嬉しいよリリー」

「……ノア様」

「私は、もう、この城で一人きりだとずっと思っていた」


 ローズと会えなくなって、誰もこの城を訪れなくなって、

 森を守る意識としてだけの存在になり、長い時間が経った。


「この森は、黒百合の女神の力を借りて維持している。結界が破られないように、敵が侵入してこれないように」

「ノア様は幽霊なのよね? どうして、私たちは……触れられるのかしら?」

「それは、リリー、君が望んだからだよ」


 城の前で、リリーが「誰かいませんか?」と言うから、姿を見せた。

 透明なままでは、気付かないだろうから、形を作った。


「黒百合の女神の姿に近いと思えばいい。彼女は精霊だから、実体があっても、血や涙が流れることはない」

 すっと手を握られる。

「ほら、手もつなげる。君の髪に触れることもできる。偽りの姿であっても、ね」


 神や精霊に近づいた存在。

 ……やっぱり、私は、ノア様とはいられないのね。


 この銀色の髪も、アメジストの瞳も、私のもの。

 今日だけは。


「ところで……。ねえリリー。ローズは幸せに暮らしているんだよね?」

「ええ。おばあちゃんは幸せよ。だって、育ててもらった私が幸せなんだから」


 そんな風に思える日が来るなんて、思ってもいなかった。

 私はいつも淋しかった。

 でも、おばあちゃんはいつもそばにいてくれた。


「……」



 私には、おばあちゃんがいた。

 トレニアがいた。


 でも、おばあちゃんには?



「……ねえ、ノア様。本音を聞かせて」

「なんのことだい」


 納得できない。


「……そうよ。ノア様は後悔してないって言ったわ」






 違う。

 違うわ。


「国を守るのがノア様の仕事だったかもしれない。でも、黒百合に聞けば……、貴方が彼女に聞くべきだったのは、『攻め込まれない方法』じゃなくて、『勝つ方法』だったんじゃなの!?」

「リリー?」


 初めて、黒百合の女神に会った時、彼女は言ってた。

 別の方法はあったって。


「あなたは『1回でだめなら、100回やってごらん』って言ったわ。100回戦ったら、隣の国に勝てたかも知れないじゃない」

「負けたら? もっと大勢の犠牲者が出た」

「ノア様は『負けるかもしれない』って想像して怖くなったのよ。だから、ノア様の現実はそうなった。貴方が選んだ未来だったのよ」


 私は一気に喋った。

 そしておばあちゃんに「ノア様の気持ちはどうなるのよ」なんて言った自分を恥じた。


 問題は、ノア様が「できない自分」を受け入れたこと。



「負けるかもしれない、おばあちゃんを失うかも知れない……。ノア様がそう思ったら。そう思い込んで、黒百合の女神に聞いたからまずかったのよ。『勝てる方法を教えて』と聞けば、きっと彼女は答えてくれたわ。でもそうしなかった」


 本当にノア様が望んでいた未来は。



「おばあちゃんとともに生きることだったはずよ」




「……そう、か」


 そうだ、思い出したよ、と彼はつぶやいた。


「あの時の私は、戦を前にして、怯えていた」

 

 怖かったことを、誰にも言えなかった。

 逃げ出してしまいたかった。



 自分が始めた戦いなのに。


 勇気を出せたのはローズがいたからだ。

 彼女は私に、戦う勇気をくれた。

 彼女の光が、怯えていた僕を照らしてくれた。


 だから……守りたかった。命を使っても。



「君は、間違っていたと言いたいんだね」







『私を使ってくれ、女神よ』

『何故そこまでする? 別にローズでも構わないのよ?』

『彼女の幸せが私の望み』



 誰よりも願っていた、ローズの幸せ。

 叶えられると信じていた。


「私は自分が正しいと思っていた。リリー、君は違うと言いたいんだね」

「……やり方を間違えただけよ。ノア様は」


 そう。

 方法を間違えただけ。

 現に、私は守られて、生きてる。

 ノア様がいなかったら、私は今、ここにいない。やり方は間違ったかもしれないけれど……。


「私は……貴方にとても感謝しています」





 伝えなきゃいけないこと。

 好きでも、愛してるでもない。





「ノア様。……ありがとう」



 ノア様は、もう一度私を抱き締めてくれた。

 ふんわり、とノア様の銀色の前髪が触れた。


 たぶん、この人は、自分の過ちに気付いていた。


 ドレスを着せてくれたのも、宝石をくれたのも、本当はおばあちゃんにしてあげたかったこと。

あのバラ園も、きっと。


 彼が描いた、幸せな未来。

 私は一瞬それに付き合った。




 それでもいい。

 それでも、いいよ。


 私はノア様と出会えた。




「ノア様が笑ってくれたから、私は嬉しいよ」

「リリー……」




「私が望んだ彼女の幸せは……君が生まれた奇跡に続いてる」


 ノア様の手が私の髪を撫でた。


「君が生まれてきたのなら、私の生は意味がある」





 ローズが生きて、そしてリリーが生まれた。

 私は彼女を守れたんだな。

 不器用だったローズ。不器用だった私。


 ローズのため、国のためと自分に言い聞かせながら、彼女を悲しませる選択をした。

 幸せにするといっておきながら。


「私の死は無駄じゃなかった。私が生きたことは、無駄じゃなかったんだな」

「うん。ノア様がいてくれて、良かった」


 後悔はしていない。

 ただ、『本当に正しかったのか』、不安だった。

 ローズが泣いていたのを知っているから。


「君は私を認めてくれるんだね」


 間違ってると言いながら、それでも、リリーは「ありがとう」と言ってくれた。

 私は、自分をもう一度愛することができる。


「十分に幸せだよ。出会えただけで……。リリー、君に会えた」



「ローズに伝えて欲しい。必ずまた会えるから、と」

「……わかりました。必ず、伝えます」


 約束、と私たちは指切りをした。

 これで2回目ね。




「君は誰かの光になれる」


 私にとっての、ローズのように。

 忘れないで、ひとりじゃない。


「今、そばにいる人たちだけじゃない。これから出会う人の大切な存在なんだ。忘れないで。未来で君を待っている人がいることを」

「未来で……?」

「そう。これから、君を待ってる人がいる。君が探しに行かなくちゃいけない」



 王子様は、自分で見つけるんだ。



「見つけられるかな私に」

「必ず、見つかるよ。君はもう、女神の力を使えるんだからね」

「女神の力?」

「黒百合が、君を嫌いじゃないなら、君が彼女を嫌いでないなら。いつでも君は力の使い方を学ぶことが出来る」


 学ぶって、どういうことなんだろう。

 ノア様は笑って、「君はもう解っているよ」と言った。


「君はすべてを変えられる。誰にでも、その力はあるんだよ」




 今は眠っているだけ。

 だから、君を帰さなくてはいけないね。

 この森から。

 王子様を探しに行かせないとね。私以外の誰かを見つけるために。




 だから……さよなら。




「ちなみに、うちの家系は有望株だよ」

「ぷっ……」

「君の理想に近ければいいけど」

「……そうね。ノア様みたいな人ならいいな」


 もう終わりなのね。

 私たちが決めた結末。



「さよなら、ノア様」

「さよなら、リリー」


 誰にも内緒だよ。

 ノア様と私は、一度だけ、キスをした。



 初めてのキスは、柔らかかった。

 明け方の、月の光、みたいに。



 光の粒になって、ノア様は消えてしまった。

 ノア様は消えることは無い、ただ、見えなくなっただけ。


 きっと、私にはもう見えない。


 そして私は、自分の足で城を出た。





 もう、二度と来ることは無いだろう。








 窓から、城を出るリリーを見つめていた。


 涙をこらえている自分が可笑しくて、私は無理に笑った。

 ……二度までも、愛した人と別れなければいけないなんて。


 それが私の罰なのか、戦を始めて、大勢の命を奪った私の。

 永遠にこの森で、私は一人きり。







 それでも構わない。


 ……そう思っていた。




 違った。

 違ったんだな。

 私が過ごした長い時間は、彼女に会うための待ち時間。

 思い返してみれば、ほんの一瞬だったじゃないか。


「退屈させない女だな……。二人とも」



 私が生きた証は、ローズが生きて、そしてリリーが生まれてきたこと。

 私の魂は永遠に救われる。


 ひとりぼっちじゃない。


 恋人にも、家族にもなれなかったけれど、こうして出会えた。

 君は光の種、きっといつか大輪の花を咲かせる。




 ありがとう。

 君に出会えて良かった。







 城を出ると、トレニアが待っていてくれた。

 黒百合の女神と、シャーロットも一緒だ。


「良かった! 帰ってきたんだねリリー」

「トレニア……」


 黒百合が連れてきてくれたのよ、とトレニアは言った。


「もう、会えないんじゃないかって、ちょっと思ってた」

「……私も、ちょっと迷ってた」

「ノア様のとこに、行こうとしてた?」

「……うん。ほんの少しね」


 もう会わない。

 二度と会わない。

 たぶん、私とノア様の約束。言葉にはしていないけど。


「トレニア、私、ちゃんと言えたんだ。好きですって」

「……そっか! 良かったじゃん」

「トレニアのおかげだよ。私がくじけそうになると、いつも助けてくれるから」


 リリーが頑張ったんだよ、とポンポンと、髪を撫でてくれた。

 これは、シャーロットの癖なのね、きっと。移ったんだ。


 もう、友達の彼氏を羨んだりしない。

 ……ノア様のそばにいたかった。

 いたかったよ……。 





「あたしね……。黒百合がノア様を殺したと思ったの。ひどいって思ったの。違ったのに……」

「……リリー?」

「ノア様が選んだことだったのにね」


 ごめんなさい、と私は黒百合の女神に頭を下げた。

 黒百合は、ノア様の気持ちと、おばあちゃんの命を守ってくれていたのに。


「別にいいわよ。知らなくて当たり前なんだから」


 ノア様の選択が間違ってたなんて、もう言えない。

 だって、私は生きてるんだから。


「黒百合……。ありがとう」

「いーえ」


 もう帰らなくちゃ。

 おばあちゃんに、ノア様の言葉を伝えたい。


「……あっ」

「リリー?」


 ……ノア様と、キスした。

 優しい唇の感触がまだ残っている。

 どんな顔しておばあちゃんに会えばいい?


 トレニアとシャーロットは顔を見合わせて、黒百合は軽く肩を上げた。


「おばあちゃんの好きな人だって知ってたのに……怒るかな?」



 怒るよ。

 きっと。


「私、醜い」


 知っていたのに。

 おばあちゃんの大切な人だって、知ってたのに。




「……怒らないよ!!」


 トレニアが、大声で言った。


「リリーは、初恋の人がうっかりおばあちゃんの元カレで、辛かったんだよね」

「……うん」

「手のひらだって、血が出るぐらい苦しんだんだよね」

 リリーの部屋のじゅうたんに血がついてたもの、とトレニアには言った。


 それは、魔法の練習をしてたからなんだけどね。

 嫉妬に苦しんでた……わけじゃ、ない。


「おばあちゃんに全部言ったって良かったんだよ本音を。でも傷つけたくなかったんだよね……」

「……」

「リリー、優しいから……」


 ぎゅっと、トレニアは私を抱き締めてくれた。


「醜いなんて思うわけないじゃん!」

「……トレニア。ありがとう……」


 今だけ、少しだけ泣いてもいい?

 歯を食いしばって、こらえていた涙が一気に溢れて、私は大声で泣いた。

 泣いている間、トレニアは私を抱き締めていてくれた。



次回、最終話。

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