表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】へなちょこリリーの惚れ薬  作者: 水樹みねあ
最終章
33/36

第33話 女神の素朴な疑問

探している答えとは。

 一方その頃。

 ローズが孫がいないことに気付いていた。リリーなら出掛けたわよ、と私は答えた。


「黒百合、こんな時間にかい?」

「ノアのところに行ったわ」

「……!」

 どうして止めなかった、と言いかけて、ローズは口をつぐんだ。

 紅茶でも飲みましょうか、と私は言いつけた。

「……どうしてリリーには会えた? あの人が見えた?」

「……さあねえ」

「教えておくれ」

「珍しく素直じゃない」


 いつも素直ならいいのに。

 ローズが運んできた紅茶に手をかざす。

 小さなティーカップの中に、リリーとノアの姿が映し出された。

「……ノア……」

そっと目頭を押さえるローズが、小さく「変わってない」と呟いた。

 数十年会っていないのだから、当然か。


「ノアに会いたい、その思いだけがリリーの現実を変えた」


 人柱、森の神、呼び方は変わっても、ノアの現実は変わっちゃいない。何度もリリーと会うつもりはなかっだたろう。

 しかし、リリーは扉を開けた。


「ノアと出会ったことで、リリーは変わったわ。あの子が変わったことで、ノアが作り上げた小さな世界が変化した、といえばいいかしら」


 千年の孤独に耐えるために、自ら閉じた世界を。


「悲しみに耐えるために、ノアもお前も、扉を閉ざした。だから、お前にはノアは見えないし、ノアの声はお前には届かない」


 それが、お互いが選んだ現実。

 リリーと出会ったことが、すでに人ならざる者となったノアの心に本来の彼の心がよみがえった。


「ノア様はリリーをつれて行くと思うかい?」

「リリーの気持ち次第でしょう」


 あの子が正しく選択できるかどうか。

 そんなことは、私にはわからない。責任も持てない。


「私は、お前とノアが起こした戦いの話をしてやったわよ。ノアは無理強いはしない性格だし、決めるのはリリーよ」

「……」

「リリーが戻らなくても、泣くんじゃないわよ。めんどくさいから」



 私は。

 本当はお前の涙を見たくないのよ。





 私は家を出ると、トレニアの家へ向かった。

 直接、二階の窓にコツンと、小石を当てる。窓から、トレニアがひょこっと顔を出した。

「いちゃいちゃしてるところ悪いわね」

「……何の用?」

「リリーがノアに会いに行ったわよ。アンタたちには教えておいてあげようとおもって」

「……こんな時間にか?」

 とシャーロット。

「あら、だってノアは死んでるのよ? 会おうと思えば、夜に出向くのが正解よ」


 待っててとトレニアは言い、玄関まで降りて来た。

 表情に戸惑いとも不安とも、つかない色がうかんでいる。


「……リリーはもう、彼に会ってるわよね」

「そうねえ」

「3回会ったら、連れて行かれるわ」

「そうねえ。死者に何回も会うのはよろしくないわ」

「……なんで、そうかもしれないわねって言わないのよ」


 ノアが、リリーを遠くに連れ去ってしまうかもしれない。

 森のお城の、退屈な王子様。

「可愛い子が訪ねてきたらお話したいと思うわよねえ」

「……」

 トレニアの不安は、そこにあるのはわかる。


「リリーは、ノアが幽霊だってちゃんとわかってるわ」

「止めなかったの?」

「あの子が決めることよ」


 会いたいなら、会いに行けばいい。

 一緒にいたいなら、いればいい。

「どうせノアは森から出られない。そのために死んだんだから」

「リリーは。リリーはまだ生きてるんだから、死なれたら困るのよ」

「どうして? あの子が決めることよ。あの子の人生じゃない。恋だと愛だの言うなら、私は別に止めないわ」

「そういうことじゃない」

「アンタたち人間は、どうして一人で生きていけないのかねえ。いずれ死ぬのよ」


 私にはわからない。


「たった100年ぽっちで滅びゆく身で、何を望む?」

「一緒にいる時間よ」

「なぜ?」

「人間には時間がないからよ」


 女神に向かって、トレニアは意見があるようだ。


「楽しいだけならいいけど、辛いときも悲しい時もあるの。助けて欲しかったり、励まして欲しかったり。永遠なんてないの。わかってるけど、同じ時間を分け合いたいの」

 永遠を望んでいるわけじゃないのね。

「あなたは、リリーやローズばあさんがいなくなったら悲しくない?」

「いや別に?」

「……そう。私はリリーがいなかったら、淋しいわ」


 淋しい、という気持ちはわからない。

 ローズがいなくなったら、私は悲しいだろうか。

「リリーは学校で浮いてた私に話し掛けてくれたわ。何をするにしても、リリーは『すごいね』と受け入れてくれた。私をリリーは認めてくれた」

 初めての友達だと、トレニアは顔を上げた。

「だからリリーは私が守ってあげるの」

「……ふーん」

「あなたには私たち小さき者の気持ちはわからない」


 そうね、わからない。

 私は、ノアとローズと出会った時、ひょっとしたら楽しかったのかもしれない。

 多少なりとも、退屈しなかったのかもしれない。

 精霊として生まれついた私には、時間は無限。同じくらいの退屈の中にいる。

 リリーがいれば、わかるのだろうか。

 永遠という退屈から抜け出す答えを。


「城に行くけど。アンタと猫もついてくる?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ