第27話 リリーの伝言
城に行くことを決めると、突然、
「前髪切ろうか」
と黒百合の女神が言った。
「どうして?」
「形から入るって大事なのよ」
黒百合は、はさみを持ってきて、さくさくと私の前髪を切った。
ついでに後ろも、とさくさく切られる。
「ヘンになってない?」
「なってないわよ」
10センチぐらいは切られた。
地味な赤い髪。瞳の色も、くすんだ茶色だし、どうにもぱっとしない。
トレニアみたいな、明るい金髪に生まれたかったな。
「長いからあんまり変わらないわねえ」
「いいよ、このくらいで。……ありがとう」
「どういたしまして」
ご飯にするよ、と階段の下からおばあちゃんが呼んだ。
食事を済ますと、会話がぱたっ、と止まってしまう。
ノア様に会いに行こうと決めたが、おばあちゃんの顔を見るとどうしても躊躇してしまう。
なんとなく家にいたくなくて、散歩に出た。
まだ決心がついていないんだ、と気付くのに、しばらくかかった。
これはもう自分の問題なんだ。
ノア様は初めて好きになった人。
幽霊でも、ちゃんと伝えたい。
結ばれないとわかっていても。
会いに行くその前に、私は、トレニアの家に行くことにした。
歩いて15分ほどの距離を一人歩く。
部屋に引きこもってばかりいたが、そろそろ夏が来る。家々の庭や花壇に植えられた花々を見て気づく。
時間はあっという間に過ぎていく。
「ごめんください、トレニアはいますか?」
ドアの向こうから、「ぐぎゃー」とシャーロットが返事をした。玄関を開けても問題ないだろう。
変われ、と命令すると、うまく変身させることができた。
シャーロットは驚いて、階段から転げ落ちた。
「リリー、いつのまに……。こんな魔法まで」
「うん。慣れると応用がきくみたい」
「ふーん……便利だな。たいしたもんだ」
シャーロットは私の頭をぽんぽんと叩くように撫でた。
「前髪切ったのか。男ができると変わるもんだな」
「よく気が付いたね」
「そりゃわかるさ。似合ってる。……城に行くのか?」
「うん」
俺は止めないけど、とシャーロットは言い、「帰ってくるよな」と膝をかがめた。
「うん」
「トレニアが心配するからな。帰ってくるんだぞ」
「うん。トレニアは?」
「学校の図書館に行ってる」
「そう。ちゃんと帰ってくるって、トレニアに伝えて」
「わかった。それと……。あー……」
「なに?」
ぽりぽりと頭をかきながら、シャーロットは言った。
「トレニアは別に怒ってるわけじゃない」
わかってる。
「……私は、いつもトレニアがうらやましかったよ」
「……」
「可愛くて魔法の天才で年上の彼氏がいて。でも、トレニアはいつでも私の味方してくれた」
自信過剰で。
でもすごく優しくて。
「ノア様は、私に魔法を教えてくれた。トレニアはなんだかんだ言って、協力してくれた。おかげで私は魔法を使えるようになったの」
ひとりじゃ、きっと諦めてた。
惚れ薬を作ることもなかった。
「とても感謝してるの。だから……ノア様のことは自分で答えを出すわ。トレニアには、その後で会う。そう伝えて」
いま会えなくて、ちょうどよかったかもしれない。
きっとトレニアは引き止めるだろうから。
優しくて素直な、私の親友。
「……わかった。オレにとっても、お前は友達だからな。帰ってこいよ」
「必ず戻る。約束するわ」




