第22話 古い約束
誤解されがちな彼女の話。
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二人を送って、家に帰るとおばあちゃんは先に部屋に引っ込んでしまっていた。
もうすぐ夜が明ける。
「ベッドで寝てね」
「あんたは?」
「私はソファで寝るからいいよ。あなたはまだおばあちゃんの精霊だし、私なんかが扱える精霊じゃないんでしょ? ちょっと狭いかもしれないけど」
「……そう。ありがとうね」
「いいえ」
黒百合がベッドに入ると、私は練習を再開した。
明日の朝になったら、きっと魔法は解けてしまうだろう。コツを忘れないうちに……。
1回やってだめなら、100回やればいい。
諦めないって約束したから。
ちゃんとできるようになったら……ノア様にきっと会いに行こう。
床に座り込んで練習するリリーを、ベッドから薄目を開けてみていた。
(熱心な子ねえ……)
もともと精霊なので、眠らなくても支障ない。
しばらくすると、リリーは疲れてしまい、気絶するように眠ってしまった。
ソファに寝かせて、毛布をかけてやる。
(根性はローズにそっくりね)
どうしたものだろうと、寝顔を見ながらつぶやく。ローズは私を許さないだろう。
それは、別に構わない。
リリーはまだ子供だ。私と契約をするのは、幼過ぎる。かといって、ノアの頼みを無視するわけにもいかない。
人間に肩入れするのも、面倒なことね……。
ノアとの約束を今更ながら面倒だと後悔する。
ああ、面倒なことになった。
最後のノアの姿を思い出す。
『黒百合、ローズのことは頼んだよ』
『イヤよ、あんな女の面倒を見るなんて』
『そんなこと言わないでおくれ』
お願い、というように首をかしげて微笑む。
『長き時を生きる、あなたのような精霊にはわからないかもしれない。私たち人間は、千年の誓いを立てることはできない……。だから、自分ができることをするんだ』
『死ぬことが自分にできることなの? それは無責任なんじゃないの』
『また隣国が攻めてきたら、ローズも無事じゃすまないからね』
『自分の命を犠牲にして、他人の幸せを願うの? どうして』
『彼女の幸せが私の望み。私とローズ、そして女神よ、あなたと出会えたこともなにかの縁だ』
ぎゅっと強く両手を握り、ノアはやはり微笑んでいた。
『頼んだよ黒百合。あなたの力を正しく使っておくれ』
思い出せば、同情した私が悪かったのか。
人間たちの争いに手を貸した私が。
どうして、争うのか。
どうして生まれた土地で満足して、与えられたものに満足して暮らせないのか。
どうして他のひとを求めるのか。
リリーの机の上に本があった。
しおりを挟んだページには、惚れ薬のレシピが載っている。
(これは……)
見たことがある、そのページ。そう、それは私が教えてやったものだ。
(ローズったら、書き残しておいたのね)
なんて、よく似た祖母と孫だろう。
ノアが引っ掛かる理由がわかった気がした。
もう一度、会ったら……ノアはこの子を連れ去ってしまうのではないか。
もし、そんなことになったら。
ローズは泣くだろうか。




