第21話 ローズと性悪女神
ローズばあちゃん登場。
■ ローズと性悪女神
「おばあちゃんただいま……」
恐る恐る玄関のドアを開ける。
「ローズ、久しぶりー。元気してた?」
「……っ!!」
黒百合の姿を見て、おばあちゃんはひっくり返りそうになった。
それはそうよね。自分が閉じ込めたはずの女神を、孫が連れてきたら驚くだろう。
「茶ぐらい出しなさいよね」
友達か。
ズカズカとテーブルに向かう黒百合を、おばあちゃんは呆然と見ている。
我に帰ると、「リリー! どういうことだい!?」と怒鳴った。
なんて説明したらいいのか。
「いやー、あのね? 学校の地下で見つけて。ね?」
「ねー」
「ねー、じゃないよ! アホか!!」
怒鳴られても、黒百合の女神は肩をすくめるだけで笑っている。
「リリーの「アホか!」はおばあちゃん譲りなのね」
「トレニア、どういうことだい」
うっかり、矛先はトレニアに向かった。
「えー、リリーが夜中に出歩いてたから、なんかあるのかなーって」
「どうして連れて戻らなかったんだい」
「ちょっ、私のせいですか。少しならいいかなって思って。ねー?」
「ねー」
ため息をひとつつくと、おばあちゃんは黒百合の女神を指さした。
「リリー、魔法を得たいがために、悪魔に魂を売ったのかい」
「おばあちゃん、彼女は悪魔なんかじゃないよ」
「天使でもない」
性格も相当悪いしね。女神とか精霊とか、もっと、近寄りがたいものだと思っていた。
「彼女は力の使い方を教えてくれたの。私、出来たんだよ」
「他人の力でかい」
「私の力よ!」
そこは違うよ!!
「リリー、こいつは……。人間のことなんて、これっぽっちも考えない。今すぐもとの場所に戻しておいで」
「ちょっと、自分の精霊を捨て猫みたいに言わないでくれる? アンタとの契約はまだ切れたわけじゃないのよ」
黒百合の口調がきつくなった。
「私が死んだって、お前を自由にさせたりはしないよ。お前は危険過ぎる」
「ふん。私がいなければ、この国はとっくに滅びてる。そのことを忘れてはいないだろうね」
「ああ、そうさ! お前が……結界を張ってくれたおかげて、この国は独立できてる」
「その枠組みの中で、お前は生きてる。私に生かされていることを忘れるな」
こんなに怒っているおばあちゃんを初めて、見た。
「……その小さな枠を守るために、誰を殺したか、覚えているのかい?」
「一人だけじゃない。たった一人の犠牲で済んだ。私はお前達を開放してやった。戦を終わらせてね」
どうしても、触れないわけにはいかないみたい。
ノア様のことは、トゲになって、ずっとおばあちゃんの胸に刺さっていたのね。
「ノア様のことなら、誤解なのよ」
「……リリー。なんでそれを……」
「彼はおばあちゃんを死なせたくなかった。だから……。自分で国を守ることにしたの」
伝えないと伝わらない。
ノア様は、そのことだけを手抜きした。
「彼女は、おばあちゃんを殺さなかったじゃない。ノア様の頼みを聞いてくれたのよ」
彼の気持ちが解る。
彼のためなら、きっとおばあちゃんは自分の命を投げ出していただろう。
だから、ノア様はぎりぎりまで黙っていた。
自分の命を使って、おばあちゃんを守った。
「おばあちゃんが生きててくれたから、お母さんが生まれて、私が生まれた。私は、ノア様と黒百合がいたおかげで、生きてるの。だから……」
彼を責めないで。
彼女を恨まないで。
「自分を責めないで、ノア様は……。国よりなにより、おばあちゃんだけを守りたかったの。黒百合は悪役を買って出てくれたのよ」
おばあちゃんは何も言わなかった。
わかってもらう、なんて、無理かもしれない。
いや。私は伝えるべきを伝えた。
私にしては頑張ったと思おう。
「……リリー。トレニアたちを送って行きましょう」




