第02話 材料調達
図書館の判子が押してある、古い本をめくる。
「オレンジの秘密……。ソレっぽい名前ね」
……そうか?
『材 料… ハチミツ・シナモン・グローブ・カルダモン・オレンジの絞り汁
満月の夜に咲いたバラの絞り汁・ 桃の種・桃の葉・ 赤ワイン・ じゃこうのエキス 』
恐ろしい味になりそうだ。それに、じゃこうって何だろう。
「トレニア……マズそうだよ」
「自分が飲むわけじゃないから、問題ないよ」
「こんなマズそうなのを、好きな人に飲ませるってどうだろう」
「リリーは、惚れ薬作ってみたくないの?」
「……」
「失敗したって死にそうな材料じゃなくない?」
「それもそうね」
台所にありそうな材料は用意し、シナモンなどスパイスの調合まではすぐできた。
「夜に咲いたバラの絞り汁ってどうする?」
「夜中に起きるしかないね。どこかバラ咲いてるとこあったかしら」
「学校の中庭は?」
「……仕方ないか。見つかったら問題だけど」
あいにく、今日は満月ではない。
3日後の満月の夜。
私たちは真夜中に校門前で待ち合わせた。
「見回りの先生とかいないかな」
「いるかもね。静かに行こう……キャッ!」
「トレニア!!」
言ったそばから、彼女は乗り越えたつもりの鉄製の校門から落っこちた。
「あいたたた……。リリー、気をつけてね」
「う、うん」
着地成功。
「あ、こっちから開ければ良かったね」
「……ま、気にしない。行こう!」
緊張しながら侵入したのに、 結局誰にも合わず、私たちはバラを数十本入手した。
たぶん、学校で問題になるだろう。
続きは明日やることにした。
「学校どうする?」
「胸のドキドキで学校休みますって言っとけばいいよ」
さ、帰ろう、とトレニアが振り向いた途端。
「帰るぞ、御主人様」
背の高い影が、喋った。
「だ、誰?」
「シャーロット! 迎えにきてくれたの?」
「だから、誰ってば!」
「こんな時間にうろついてたら、心配するだろ。親にバレないうちに帰るぞ」
「お兄さんいたっけ?」
「違うよリリー、シャーロットだよ」
トレニアの家では、シャーロットという黒いデブ猫を飼っている。
その名前と、目の前の黒髪のオニーサンがどうしても繋がらず、「はあ??」と二人の顔を交互に見た。
「うちのシャーロットだよ。デブでハゲてる猫。アレがコレ」
「コレっていうな」
「うるさい、アンタはペット。あたしが主人」
禿げているのは、皮膚病がなかなか治らなかったときの名残で、太っているのは、トレニアがたくさん餌をあげるからだそうだ。
「最近、変身させる魔法の本を見つけて練習したの。話してなかったっけ?」
「聞いてない!」
「そっかー。カッコイイでしょ!」
大きいわりに切れ長の目とか、スラッとした足。
黒の革パンってのは、トレニアの趣味なのかな。
どうしてこうなった。元の姿を知っているせいで笑えてくる。
「うん、カッコイイね」
「リリーは素直だな」
ポンポンと頭を撫でられる。トレニアの頭二つくらい、背が高い。
闇夜でもキラキラ光る目は、「やっぱり、猫だな~」と
あたしは一人納得した。