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【完結済】へなちょこリリーの惚れ薬  作者: 水樹みねあ
第四章 黒百合の女神
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第17話 地下への扉

■ 地下への扉


 半透明の、ぼんやりした姿を走って追いかける。


 ……速い……。


『リリー、あなたなら扉を開けられる』


 頭の中に声が響く。


「どこの扉よ!?」


 ノア様もそうだったけど、彼らにはやっぱり実体がない分、速いのだろうか。


 ……実体?

 ノア様とは手が繋げた。幽霊じゃない、けど。

 でも肉体はもうないはず……?


 彼女は、そもそも人ではなさそうだ。

「あっ、しまった」


 いないし。




 一方その頃。

「ギャー……」

「シャーロット、うるせーよ……」

「ニギャー……」


 肉球が頬をグニグニと押す。

 シャーロットの鳴き声に気づき、目を覚ました。


「どうしたっていうのよ……」

 変身させると、シャーロットはカーテンを開けた。


「リリーが、夜中に出歩いてる。様子がヘンだ」

「……なんですって!?」


 窓から、確かにリリーが見える。

 こんな時間なのに、ちゃんと着替えている。

 どこに行くの。こんな真夜中に。

(どうしたっていうの……? やっぱり城に行ってからおかしい)


 魔法が使えない、へなちょこリリーを放っておけないわね。



「行くよシャーロット」



 走って追いかけて呼びかけるが、リリーは足を止めない。

「リリー!」

「……」


 私の声に気付いていない。

 リリーは、学校の鍵を、カシャンと、壊した。


(いつのまに、あんな魔法を……?)


 開錠の呪文なんて、使えなかったはず。

 迷わずに学校の庭に入っていく。


「リリー、待って!!」

 ようやく振り返ったリリーは汗だくだった。

「……トレニア? どうしたの?」

「どうしたのって聞きたいのにはこっちよ!」

「黒百合を探してるの。話したでしょ?」

 話がまるで見えてこない。

「話したでしょ、じゃないよ! 今何時だと……」

「私の部屋に来たの」

「はあ? 誰が」

「だから! 彼女が来たの! 『探しなさい』って」

「……で、なんで学校なの?」


 なんて、説明したらいいかしらと、リリーは肩をすくめた。

「案内されたから。それにね、城のバラ園があったでしょ? そこと、学校のバラ園が、似てるの」

「……ゴメン、意味わかんない」

「天才なんだからわかってよ」

「……じゃー、行こうか。止めたって行くんでしょ」


 どうするの、と聞いても、リリーの回答は要領を得ないものだった。

「どこに行ったらいいのかしら」

「……あのさあ、リリー、似てるってだけで学校に来たの」

「いやー……。校門が、城の扉に似てたなって思って、学校まで来たんだけど……」

「……それだけ? そもそも案内されたって」

「扉を開けろと言われたの。……何か思いつかない? トレニア」


 バラ園には、噴水がある。

 私たちは、そこに腰掛けた。


「学校にあるデカイ扉って言ったら、校門ぐらいしか」

「そうだよね……。ノア様が埋められてたのは、バラ園だったから、扉はなかった」


 冷たい土の下で、あなたは。たったひとりで。

 そうつぶやくと、リリーは涙ぐんだ。

 涙の影がぽつんと土に染みを作った。


「……地下」

「どこの?」

「ここよ。やっぱり。思いつかないもの」

「噴水の中は?」

「中?」


 二人で噴水に頭を突っ込んでみた。


「……ゴバモゴガ」

「ゲボガボ」


 会話はできないことが解った。


「……水を捨てて、噴水の底をさらってみよう」

「どうやって?」

「うーん……」

「牙を引け」

 シャーロットが横から口を挟んだ。

「ここの作りは古いから。こういう噴水は、左の牙をひけば、排水できるようになってる」

「そーなんだ?」


 リリーを残し、私が水に入って牙を引いた。すると、噴水の水はバラ園に流れ出した。

 明日、学校で問題になるだろう。


「リリー。扉だ」

 



 水がすべて流れて出てしまうと、噴水のすぐそばに、鉄の扉があった。

 引っ張ってみたが、ビクともしない。

 リリーが進み出て、「……開けるよ」と手をかけた。

 扉は、簡単に開いた。

 まるで、リリーを待っていたみたいに。


 地下に続く階段があった。


「……行こう」

「リリー、気をつけて」


 真っ暗な石の階段はとてもとても長く感じた。冷たい空気が頬を刺した。


 階段を降りた先には、小さな部屋があった。不思議と、その場所は暗くはなかった。ほのかに光がある。

 私たちは、部屋の真ん中に立っている、『彼女』を見つけた。


「……黒百合の女神、ね?」

「よくできました。簡単だったかしら」


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