第12話 約束
■ 約束
「私の……望み?」
繰り返し問いかけられても、何もない。
つまんない子だと思われるかな。
「リリー、ひとつだけ魔法を教えてあげよう」
「教えてもらったって使えない」
「まあ、そう言わずに、簡単な魔法だから、練習してごらん」
どこからともなく、ノア様は石を取り出した。
ゴツゴツした紫色の石だ。
「アメジストの原石さ。これをあげよう」
「私に?」
「ああ。これは、君のイメージ通りの形にすることができる。例えば、こんな風に」
ノア様が握り締めて、また手を開くと。
ただの石ころが、バラの形に変わった。
「わあ……!」
「心の中で想像して、そして命令するんだ。『変われ』って」
「呪文は?」
「そんなものはいらない。本当の魔法に長い呪文はいらないのさ。ただ、命令するだけでいい。さ、やってごらん」
あたしは、ただの石ころに戻ったそれを握り締めて、ハートの形をイメージした。
……が、変化はない。
「……やっぱり」
「1回で諦めることないさ。1回でだめなら、100回やってごらん」
「今まで、何回練習しても、魔法は使えなかった」
「次はできるよ。チェーンだけつけてあげよう」
ノア様は、すぐに、石ころにシルバーのチェーンをつけた。
「これで、あとは、石を好きな形に変えるだけでいい」
「本当に出来るの……?」
「私の言葉を疑っているようだね」
■
「じゃあ、信じられるように、今だけ見本だよ」
もう一度、バラの形に変えてくれた。
「おかしい。なんで出来るの」
「これが魔法だよ。君には、こっちのほうが似合うかな」
もう一度、軽く石を握りしめる。今度は、丸みを帯びたハート型になった。
「……かわいい」
「うまくできたら、またおいで」
また?
「……それまで、来ちゃダメなの?」
「やるべき時にやるべきことをするのが、大切なんだよリリー」
自分を信じることは、自分にしかできない。
魔法を使うための最低条件だと彼は言った。
「君は原石。自分で磨くんだ」
「……」
「魔法は誰にでも使える。その力は誰にだってあるんだ」
なりたい自分になるのに、努力を惜しんではいけないよと彼は微笑んだ。
説教なんてまっぴらと思っていたけれど、この人は、真摯に私に向き合おうとしている。
「君にしかできないこと。君がやるべきことなんだ」
私はうなづいて、指切りをした。
二人だけの約束、と囁いた。
「……わかった。リリー、待ってる」
……誰かと指切りを約束するなんて、いつ以来だろう。
「ちゃんと練習するんだよ。ハート型になるまで、諦めちゃいけないよ」




