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【完結済】へなちょこリリーの惚れ薬  作者: 水樹みねあ
第三章 雨の古城
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第11話 望み

■ 望み


「魔法がうまくない魔女は別に珍しくない。ただ、使えるようになる時期が、早いか遅いかの違いさ」

「……そうでしょうか」

「いずれ使えるようになる。きっかけさえあれば、力は目を覚ますものさ」


 返事をしない私に、ノア様は「……私の言葉を疑っているようだね」と言った。


「いえ、そんな」

「じゃあ、話題を変えようか。リリー、君の好きなものは?」

「好きもの?」

「好きなことでもいい」


 どうしてそんなことを聞くのだろう。


「他人の評価で、自分をきめることはない。君がしたいことはなんだい?」

「したいこと……?」

「魔法だけが人生じゃない。君がしたいことを教えて」


 そんなもの、何もない。聞かれたこともない。

 考えたこともない。

 私は空っぽだ。


「何も無い……です」

「本当に?」


 やりたいこととか、特に無い。


「綺麗なドレスを着てみたい、ぐらい」

「それなら、その方法を探せばいい」

「は?」

「自分で縫うとか。あとは……王子様と結婚するなんてどうだい?」

「はあ?」

「リリーは綺麗になるよ」


 もっと君が大きかったら、きっと恋に落ちているよ。

 そう言ってノア様は笑った。


 もっと大人だったら、か……。


「あたしは……」


 あなたが、好きです。

 ダメだ、ムリ。


 ……そんなこと、言えない。


「リリー。年上と話すときは、『私』といいなさい」

「あ、はい」




「学校は辛い?」

「……はい」

「リリーは言い返したりしないんだろう。そういう子は狙われるんだ。からかいやすいから」

 僕の知ってる子とは真逆だね。そういって彼は微笑んだ。

 どうして別の子の話をしたのか。私には関係ない。


「リリー。辛いなら、逃げてもいい。対象が変わるだけだからね」

「……」

「でも、学校には行かなきゃ」

「どうして……?」

「今は魔法が使えなくても、学ぶことはたくさんあるからさ。キライな奴に嫌味のひとつでも言ってやるとかね」

「ケンカしたくないんです。めんどうだから」

「面倒な、余計なことだけで世界は成り立っているんだよ。でも、それは必要なことなんだ」

 意味が解らず、私は彼の目を見つめた。

「例えば?」

「例えば、このドレス。リボンもフリルも、何の役にもたたないけど、『カワイイ』から必要なんだろう? 全部に意味があるのさ」


 そういうと、ノア様は指をパチン、と鳴らした。

 すると、ドレスはいつもの地味なワンピースに戻ってしまった。


「君を魔法で綺麗にしてあげるのは簡単さ。でも、それは君のためにならない」

「……」

「自分で、綺麗にならなくちゃいけない。それは、女の子の役目だろ?」

「……なにそれ」


 そんなこと言われなくても、わかってる。

 ……わかってるわよ。


「自分で王子様を捕まえなきゃ。学校は最高の社交場だよ。素敵な女の子になるために」


 だんだん腹が立ってきた。

 なんでお説教されないといけないのか。


「……ど…い」


 私のことを、何も知らないくせに。


「リリー?」

「ノア様ひどいよ!! なんでそんな簡単に言うの!?」

「……リリー?」

「あたしは好きで魔法が使えないわけじゃないのに、バカとか死ねとか毎日言われる! 外で魔法の授業がある日なんて、石まで投げられる! そんなことに行けっていうの!?」

「リリー」

「あたしがいじめられるにも、何か意味があるっていうの!?」


 部屋を飛び出した。

 こんな話をしたかったわけじゃないのに。

 胸が締め付けられて、悔しくて涙が出た。


 全力で走ったのに、大階段で、目の前にノア様が立っていた。


「リリー! 待ちなさい!」

 ノア様の腕に抱き締められる。

「離して!」

「落ち着いてリリー」


 ……抱き締められてる。


「すまなかった。君の気持ちも考えずに」


 髪を撫でられる。誰かに頭を撫でられたのなんて、いつぶりだろう。


「誤解しないで。リリーがいじめられることに意味があるんじゃない。そういう意味じゃない」

「わかりやすく話してよ。意味わかんない」

「リリー聞いて。いじめられる側に理由がなくても、暴力は止まらないんだ」

「……」

「終わらせないと終わらないよ?」

 ああ、こんな言い方をするつもりはなかったのに、と彼はつぶやいた。


「行動しないと、状況は変わらない。理由がなくても、辛い現実はやってくるし、それを変えるためには行動しかないんだ」


「ねえリリー。魔法が使えなことと、いじめられていることは違う」

「違わない、だって、それが理由だもん」

「いいかい、問題はそこじゃないんだ」

 ノア様の腕が離れた。

「問題は、リリーが「できない自分」を受け入れたこと。いじめられてる自分を受け入れたことなんだ」

「あたしのせいだっていうの?」

「悪いのは、相手だよ。ただ、我慢したって、状況は変わらないんだ。相手は弱い奴を求めてるんだから」


 思い出してみて、とノア様は笑った。


「最初は一人だったはずだよ。そいつの顔を殴ってごらん。でもねリリー。戦う相手は、いじめる子たちじゃない。敵はね、君の中の弱さ」

 とん、と彼の指がおでこをつついた。

「本当の敵は、自分の中にいるんだ」

「……意味がわからない」

「考えて。私だけに教えて」

「なにを」

「君の望みは?」




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