表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】へなちょこリリーの惚れ薬  作者: 水樹みねあ
第三章 雨の古城
10/36

第10話 雨の古城 

■ 雨の古城  


 翌朝。私は一人でパイを焼き、もう一度森を歩いていた。

 あいにくの雨。

 ローブを着てきて正解だ。


 今日は何故か迷わず、すぐに城にたどり着いた。

 あのバラ園は、昨日も見た。赤いバラしか植えられていない、真紅のバラ園。

 好き放題に伸びた枝が、雨に濡れている。

 バラ園を通り過ぎ、扉に触れた。


 ……鍵、かかってない……。


 私は、錆びついた、鉄の扉を開けた。

 ギィィィィィィー……と耳障りな音がしたが、力を入れなくてもすぐに開いた。

 ローブを脱いで、城の中へ進む。

(埃っぽい……)


 古い赤い絨毯は、埃が積もっている。

 トレニアが言った通り、人が住んでいる様子は無い。

 昨日は普通にここで暮らしているようだった。


 あなたは、どこにいるの。



「これは……、リリー。また、ここに来れたのかい?」



 正面の大階段を、ノア様が音もなく下りてきた。

 まるで、光の化身のよう。

 ゆったりとした足取りに、思わず返事ができなくなる。


「どうしてここへ?」

「あっ、はい、あの……。こないだのお礼です」


 私は、持ってきたパイを入れた籠を差し出した。


「クランベリーのパイか。ありがとう」


 ミートパイは家に置いてきた。ごめんねトレニア、と心の中で謝る。

 あれを差し出す勇気が、私にはどうしてもなかった。


「この雨の中、大変だったね。今、拭くものを」



 ステンドグラスの前を通り過ぎ、二階の、小さな部屋に通される。

 きっと晴れている日は、鮮やかな色彩で階段を彩るに違いない。


「すぐ火を」


 暖炉に火を入れて、麻リネンのタオルを貸してくれた。

 服を拭いているその間、彼は廊下で待っていてくれた。


「もういいかい?」

「あっ、はい」


 扉を開けると、「せっかくだから」と、言って、杖を取り出した。


「目を閉じて」

「え」

「何色が好き?」

「え、ピンクとか」


 おでこに、杖の感触。

 なに、突付かれてる?


「もういいよ」

 

 目を開けると。

 あたしは生まれて初めて、フリフリのドレスを着ていた。

 幾重にも重ねられたボリュームのあるドレス。繊細なレースに、胸元は大胆に開いている。


「こんなのでいいかな?」

「わあ……! あ、ありがとうございます!」



 ベッドに腰掛けると、ノア様がすぐ隣りに座った。


 ち、近いんですけど!!


「どうしてここへ?」

「え?」

「学校は?」

「あたし、学校行ってないんです」

「どうして?」

「……魔法が使えないんです」


 魔法が使えず、学校でいじめられたことを話す。

 何をしてもうまくできなくて、独りぼっち。

「魔法の授業にはついていけないし、他の子たちに……」

 

 笑われたり、叩かれたりしている、なんて言えない。


「……すまなかった。辛いなら、話さなくていい」

「……」

「ずっと家にいるのかい?」

「いえ、友達と図書館行ったり、してます」


 惚れ薬作ったり、とかいえない。


「その子は学校行ってるの」

「行ったり行かなかったりです。そういう日は一人で森にいます」

「……寂しくない?」

「あたしは……誰にも必要とされてない、から」


 寂しさなんて、もう慣れた。


「どうしてそう思うんだい?」

「あたしは魔法が使えない、できそこないだから」

「誰かに言われたのかい?」

「クラスの子とか、先生とか」

「家族は?」

「言わないけど……、そう思ってるに決まってる」

 おばあちゃんは、村一番の魔女。たいていのことは一人でこなす。

 それに比べて、私は。


「いつからそんな風に思ってた?」

「……いつから?」


 私はいつからそんな風に思ってたんだろう。

 口に出して、初めて気付いた。


「わかんない、です」


 私は、ドレスを握り締めていた。知らないうちに。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ