エピローグ
目を覚ますと、辺りが暗かった。
近くから、こちこちと言う、機械的な音がした。目覚まし時計の秒針だと、すぐに気が付いた。
少し周囲を見回すと、自分の部屋で寝ているようだった。時計の方を向くも、暗くて盤面が見えない。けれど、窓の外の色からして、夜中のようだった。
「夢オチ──じゃ、ないのか」
顔の前で手を開くと、白い包帯が、顔にふわりと落ちて来た。
「……戻って来た、か」
手の甲を額に置き、頭の中で、自分に起こった出来事を整理した。
買い出しに出て、大型トラックに轢かれかけ、ライラに召喚され、竜を目撃した。
時間を逆行して歴史を修正して、戻ると自分が消えて行き、最後にライラと──
「……」
むくりと、身体を起こした。
立ちあがり、部屋の電灯を点ける。
数歩歩き、パソコンデスクに腰掛け、PCの電源を入れた。ディスプレイから、人工的な光が発される。
「まずは……大検からか」
高校を中退していても、大学受験が出来る制度がある事は、元々知っていた。
ただ今までは、大学に行く理由を思い付かなかった。だから、見向きもしなかった。
だが、今は──
「約束したもんな」
また来るよ。俺は、ライラにそう言った。
だから、また行く。
物理学でも専攻して、科学的な手法で異世界に行く方法を見つけるか、あるいは世界中の、神隠しに関する文献でも研究するか──その辺りは、また考えればいいだろう。
行ける根拠はある。
俺は、ライラの呪術で一年前に行った際、当時のライラを起こした。
あの事象は、歴史が改変されても残っている。
ちょっとした聞き間違え程度の、小さな出来事ではあるだろう。
でも、確かにあの世界──アスラ・アムリタに、俺が居た痕跡があるのだ。
だから、あの世界とは、また繋がれる。
無謀と人は笑うかもしれない。無理だと嘲る奴もいるだろう。
関係ない。
俺は行くのだ。
もう一度、彼女に会うために。
約束を──果たすために。
そして俺は、ディスプレイに検索エンジンを表示させ、検索を実行すべく、キーボードを叩いていった。
(完)