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男子高校生は斯く有り

作者: 蓮と 悠
掲載日:2016/12/22

「お前さぁ、いきなり不思議な力に目覚めてワルモノと戦ってみたいとか思ったことある?」

「どうした急に頭大丈夫か、って思ったけどいつものことだったわ。勝手に続けてろよ」

「いや、今俺お前に質問してるんだけど。俺一人だと会話にならないんだけど」


 とある夏の日。とある教室。

 そこにいるのは夏服に身を包んだ男子生徒が二人のみ。広く使える教室の中、前後の席に座りながらなにやら言葉を交わしている。

 二人の額には大粒の汗が浮かんでいるが、爽やかな夏風が全開の窓から吹き込み、暑い夏の空気ごと二人の汗を吹き飛ばす。

 ……なんてことはなく、前日の雨が今日の快晴により蒸発し作り上げられた湿度と、照りつける日光の今年1番ではないかと疑うほどの温度、さらに一週間しか生きられない雄たちによる必死の蝉時雨により、絶賛クーラー点検中の教室は灼熱地獄と化していた。


 そんな訳で、後ろに座っている男子生徒はどうやら作業に集中できないらしい。下敷きを団扇のようにパタパタと仰ぎながら、前に座る男子生徒にちょっかいをかけている。

 二人は気の知れた仲なのだろう。前の男子は観念したかのように大きなため息を一つ吐くと、眉間にしわを寄せながらも振り向き、椅子の背もたれに肘を置いた。そして歪んだ形相で口を開く。


「あるに決まってんだろ。伊達に今をときめく高校2年生やってねえよ」

「お前ならそう言ってくれると思っていたぜ!」


 強く否定するかに思えた前の男子だが、意外にも好反応だ。声のトーンは低く、鋭い目つきで後ろの男子を睨んでいるが、内心は面白がっているようだ。


「いいか? 順を追って考えるぞ。まず前のドアから黒ローブを身に纏った正体不明の敵の間者が入ってくる」

「いや、正体不明なのになんで一目見ただけで敵の間者ってわかるんだよ」


「そこはほら、主人公スキル、嫌な予感よ」

「最高か」


 いや、それで納得しないでしょ普通。

 それにしても後ろの男子、めちゃくちゃ乗り気だ。


「そして言うわけだ。『紅蓮の破砕者よ姿を見せろ! この中にいるのはわかっている!』」

「二人しかいないけどな」


「そしてお前に危害を加えまいと、俺は静かに立ち上がり……」

「ちょいまて」


 前の男子がノリノリで話している中、後ろの男子は突然制止をかける。先ほどまで楽しそうに聞いていた彼だったが、雰囲気が急に一変した。……表情は全く変わってないけど。




「——俺が紅蓮の破砕者じゃね?」


 蝉の音にも負けない力強い低音が教室に響く。しかし前の男子、この返答を予想していたのかまるで怯まず、得意げな顔で一言。




「——まだお前の出る幕じゃないだろ?」

「そうだったわ」


 後ろの男子、驚くほどの切り替えの早さなんだが。


「んで、俺がワルモノをカッコよくぶっ倒すわけ。そうだなぁ、ほのおのパンチとかで」

「なんだお前、はがねタイプに恨みでもあるのか。てか、経緯とか感情の変化とかないと悪者っぽかったら問答無用で殴り飛ばす殺戮マシーンみたいになるぞ。もしかしたらその怪しいやつ味方の組織の人間かもしれないし」


「あー、そういやそんな面倒くさそうなこと考えてなかったな。かっこいい二つ名と能力さえあればそれで良かったわ」

「お前全国の漫画家とラノベ作家に謝れだが正直わからんでもない」


 悪者っぽいやつを殴れればそれで良いのか、この二人は。


「次にあれだ、その報復に敵組織が俺の妹を人質に取り、俺を無力化して拉致する」

「シスコンかよ。てかお前妹いないだろ」


「だって憧れるだろ?」

「うむ、俺もめっちゃ妹欲しい」


 この二人、さっきから欲望丸出しなんだよなぁ。


「んで絶対絶命のピンチにお前参上よ」

「待ってました」


「お前の獅子奮迅の働きで俺と妹は助け出され、そのまま二人で組織のボスとの最終決戦」

「連戦とかブラック企業かよ」


「ラスボスは言う。『よくぞ来た紅蓮の破砕者、そして——「氷晶の執行者」——氷晶の執行者よ』」


 ここですかさず二つ名を入れていくあたり、後ろの男子も相当ヤバい。

 

「『この領域は絶対不可侵。立ち去りなさい』」

「氷晶につられるんじゃないラスボス。自我をしっかり持つんだ」


「『しかし貴様たちは我に勝つことはできない。なんかもう凄い力でボロ勝ちだ。ここが貴様らの墓場となろう。お前たちを倒したら我は結婚するのだ。——だから、別に倒してしまっても構わんのだろう?』」

「設定あやふやかつ死亡フラグを無理やり立てるスタイル嫌いじゃない」


 たぶん好きなやつのほうが少ないわ。


「その後、まあなんやかんやで勝つよな」

「まあそうなるな」


 流石にもうツッコミようがないレベルで酷い。


「んで帰ってきたら可愛い妹とツンデレ幼馴染みと色気が凄いお姉さんと天然メガネクラスメイトがお出迎え。ジ・エンド」

「楽園かな?」


 さあ、そろそろ我慢の限界だぞう。


「あれだな。案外ハーレム系異能バトルってヌルゲーだな」

「ああ、よってたかって小説にする理由がよくわかる」


「じゃあ次は異世界転生モノ、いっとくか」

「望むところだこのやろう」

「おいお前ら」


 ……


「……点呼とりまーす、いーち」

「にー」

「さーん」


 ……


「お前ら、割と最初から聞いていたが補修をサボって妄想に耽るとはいい度胸だな」


 申し遅れました。地の文は私、国語教師の長谷川がお送りしましたー。


「……で、でたなー、悪の組織の幹部、ハッセよー」


 前の席の男子、小原は棒読みでそう叫ぶ。


「年端もゆかぬ純粋無垢な少年をこのような悪辣な施設に監禁し、重労働を押し付けるなど言語道断! 今ここに葬ってくれよう。我は氷晶の剣なり!」


 後ろの席の男子、伊藤はめちゃくちゃキメッキメにそう名乗る。なんだこのイケボ。めっちゃムカつく。


「ちなみに先生、高校時代は柔道部で主将を張ってたんだが、それでも戦うか? 紅蓮の現代文32点小原、氷晶の古典2点伊藤」


「「……ま、参りました……」」


 蝉の声の中、威勢の良かった二人の声は消え入り、まるでモブのような存在感の薄さであった。


 相変わらず、懲りることもなく、今日も男子高校生はいつも通りバカである。

センターが迫ってきます、怖い。

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