1日目
母の、馴染みのある居酒屋に連れられて、飲み、歌い、喋りながら時を過ごしていた。
そこにいたのは、居酒屋を営む老夫婦、酒に溺れる女、仕事で疲れ果てた男、そして私と、私の母であった。
傍から見れば皆、仲が良いのだろうが、そこにいる者は何かを抱えているのであって、そこに踏み込もうとするのは野暮というものなのだ。
総人類、仮面を被り生きている。
私もその中の1人なのである。
ここまでは私の想像だ。
しかし、宛ら間違っていないのではないか。
つまりこんな考えの自分でありますから、人を信じる事が出来ません。
両親ですらも、きっと私を愛しているだろうとは思えど、心の底では、どこか冷めていて、信用していないのです。
居酒屋の老婆は、私の歌を聞く度に
「上手くなったね。」と、褒めてくれます。
しかし、そこで感じ取ったのでしょう。
私の、恋愛経験の浅さを。
きっとそこからなのでしょうが、色気が出せない事は自覚しています。
歌には、色気が必要なのです。
しかし、私にはそれが表現出来ない。
ですから、老婆は私に
「今、恋してる?」と聞いたのでありましょう。
前にも書きましたが、私は、人を信用出来ない性分な故に、恋など出来るはずがないのです。
私は人に恋をすることが出来ません。
恐怖さえしてしまうほどに。
ですが、人を愛することは出来ます。