夢
今日もくだらない一日が終わってしまった。いつものように講義を受けバイトをこなし疲れ果てて寝る。これの繰り返しである。地元からこの生活に胸を膨らませていたのが懐かしい。
今日もおなじ臭いの染みついたベッドに入る。そして静かに目を閉じる。いつもはここでくだらない一日の朝を迎えるのだが、今回は久しく見ていなかった夢を見た。霧のような感覚が徐々に晴れていき映像が映った。
懐かしい店が立ち並んでいる。どうやら夢の中は地元が舞台らしい。懐かし感覚だ。地元はもともとは造船で栄えたためか居酒屋が多くある。その中の一つの店から出たようだ。お仲間も見えてきた。中学校の同級生で飲んでいたらしい。その中でも小学校からの付き合いのある京子に目を引かれた。酒が入っているからか、徒歩とタクシーで帰るようだ。様子を見ていると、京子は私のところに来て
「浩介、一緒に帰ろうよ。」
そう言った。ことわる理由も見つからないのでわかったと一言だけ言った。
どうやら徒歩で帰るようだ。飲んでいた仲間たちと別れ、京子と二人で帰っていく。
「ごめんね、無理に付き合ってもらって。親が夜遅いから誰かと一緒に帰りなさいだって、ほんと心配性だか ら困るよ。」
相変わらず誰にでも笑顔で喋りかける性格は変わらないようだ。
「俺はボディガードの代わりか何かなんだな。」
思わず口から出てしまった言葉に言い返すように京子は言った。
「違うよ、その為に一緒に帰ろうなんて言わないよ。本当にこうちゃん何も思わないの。私は。私はこうちゃ…ん…のこ…とが好…」
突然砂嵐のように映像が途切れ霧の中に放り出されてしまった。そして次の映像がつながる。
今回は中学校の部活帰りらしい。かなりきつい坂道を彼女と二人で歩いている。
「竹内先輩、どうかしましたか。」
当時付き合っていた西田瑠衣は一つ年下の部員だった。
「いや大丈夫だよ、海がきれいだなと思って」
ほんとにきれいだった、坂の下で輝いた水面に雲一つない青空。それを背にする笑顔で振り返る瑠衣も。
「へんな先輩。」
と一言だけいって先に行ってしまった。追いかけて顔を見ると、今までで見たことのない不安な顔をしていた。
「今日の先輩、いつもとちがってどこかへ行ってしまいそうで、私から遠くへ行ってしまいそうで怖いんで す…本当に好きなのかどうかわからないんです…」
思わず手を引き寄せようとすると振り払われ、涙を流しながら
「先輩は私を忘れて、好きな人見つけて幸せになってく…ださ…」
私は目覚めてしまった。涙を流しながら彼女がこの世を去る時にいった言葉を再び聞いて。
瑠衣とは中学校から高校卒業まで付き合っていた。ある日のデートの帰りに先を歩いていた瑠衣に車が追突し三日間昏睡した後に最後の言葉を残し亡くなった。
あれから5年も経ったが瑠衣のことは忘れたことはない。だが夢に会いに来た瑠衣に申し訳ないが新たな道に進もうと思う。どうやら明日、夢の中で見た居酒屋で中学校の同窓会があるらしい。時には、夢ぐらい信じていいかもしれない。
読んでいただきありがとうございます。これは実際に見た夢の一部をもとにして書きました。実のところ名前は違うにしろほぼノンフィクションなのですが、さすがに最後のようにはうまくいかないですね。私自身、こんな夢を見るとは思いもしませんでしたが目覚めは最悪でした。ですが今まで愛していた人の最後の言葉を夢の中でも聞けて良かったです。最後に愛は無限に存在しても愛する時間は有限ですから愛する人に正直な気持ちを伝えてください。後悔だけは残さないでください。