カナリア
――この空に響く歌声、あなたに聞こえますか?
世界を唄う、カナリアの物語。
『カナリア』
ある所に、空が大好きな鳥がいました。
晴れた空は、鳥が羽ばたくのを優しく見守ってくれる。
曇り空は、少し寂しくなるけれど、明日はどんな天気になるか楽しみにしてくれる。
そして、雨の空は、舞落ちる雨がしとしとと優しい音をたて大地を潤してくれます。
空から見下ろす世界も大好きでした。
太陽に照らされ、キラキラと輝く海。
茶色く力強さを感じさせる大地、生い茂る木々の緑。
色とりどりの家が集まった宝石箱のような人の街。
こんなにも沢山の素敵な景色や気持ちを与えてくれる空が大好きでした。
ある日、鳥はふと考えました
「この気持ちを、空に伝えたい」
自分の気持ちが伝われば空はもっと素敵になるかもしれない。
鳥は得意な歌で空に自分の気持ちを伝える事にしました。
この辺りで1番背の高い歳老た木にとまり、空にむかい歌いはじめました。
とどけ、とどけ、この気持ち――
たくさんの素敵をありがとう
とどけ、とどけ、この想い――
きこえているかい?大好きなそら
鳥の歌は風に乗りどこまでも流れていきます。
でも、空は何も応えてくれませんでした。
次の日も、鳥は歌を歌続けます
このうた、風になって――
きみ(空)のもとへ――
次の日も……
このうた、色になって――
きみ(空)のもとへ――
その次の日も……
このうた、響きになって――
きみ(空)のもとへ――
毎日、毎日、鳥は木の上で「空」へ歌い続けます。
それでも空はいつもと変わらず、青くて、……きれいで――。
いつまでたっても、鳥の歌声に空は応えてくれません。
「ぼくのきもちは、きこえないのかな……? 」そう思うと、なんだか悲しくなってきました。
こんなにたくさん、がんばってうたっているのに、どうしてこたえてくれないのかな?
悲しくて、涙が溢れました、その涙はポタポタと雨のように大地に落ちていきます。
「どうして泣いているの?」
泣いていると、どこからか声が聞こえました。
「どれだけうたっても、なにもかわらないから……。」
鳥は答えました。自分が一生懸命歌うことで空はもっとキレイに、素敵になって、世界は今以上に輝いて見えるだろうと思っていたから……。
「どうして、そう思うの?」
また風にのって声が聞こえます。
――なにもかわらないなんて、思うの?
鳥は声の主を見つけようと辺りを見回したけれど、姿は見当たりませんでした。
「きみのとまっている木をみてごらん?」
鳥は木を見ます、力強く伸びる幹、そして緑の葉は太陽の光りを浴びてキラキラ輝いています。
「この木は、きみがここで歌うようになってからとても元気になったんだよ?」
ふいに、風がさわさわと緑色に光る葉を揺らします。
「風はきみの歌をいつでもとおくにはこんでくれたよ」
サァ――……
風が流れる先を見ると、色とりどりの家が集まった人の街が見えます。
「このさきにある街の人たちはきみの歌がきこえる時間が大好きになった」
ガサリ、木のすぐ下で音がしました。
「ぼくはきみの歌をきいて世界が輝いて見えるようになった」
下を見下ろすと先程までの声の主と思われる少年が立っていました。
「ほら」
少年は空を見上げ指差します、鳥も空を見上げました。
「きみが歌うようになって、空はもっと青く澄んで、……前よりキレイになった」
少年は笑って言います。
「きみが歌いはじめて、世界はもっと輝きだした」
鳥は嬉しくて、涙が溢れました。
「大丈夫、きみの歌は空にとどいているよ」
風が涙を拭うように優しく鳥の頬を撫でてくれます。
「だから、歌って……?」
――君の歌を聞きたい、君の歌を聞いていたい。
鳥は答える変わりにまた歌い出しました、前よりも、気持ちを込めて。
空だけではなく、この歌を聞いてくれている全てに向かって……。
――このうた、風になり、君の心を優しく包め――
――このうた、色になり、君の心を優しく彩れ――
――このうた、響きになり、君の心を優しく揺らせ――
――このうた、翼になり、君の心へ、翔んでいけ――
……あなたに、この歌、聞こえますか?
世界を詩う、カナリアの歌、聞こえますか――?




