初恋
「花音さん、落ち着いて」
「お、おおお落ち着いているとも! しかしなんで私がこんな……本来夕貴からはっきりと言うべきではないのか? 私は決定的な事を聞いてない」
どう見ても落ち着いていない花音さんは僕に答えを委ねようとした。
確かに言われてみれば僕からは言っていない気がする。
「じゃあ僕から改めて言うよ」
「お、おぉ。自分で要求しといて何だが、言われるほうにもプレッシャーがあるな」
「花音さん、僕と……」
「僕と……?」
花音さんの表情が余りにも真剣で僕は思い切りが良く言えない。花音さんが来てくれた時点でほぼ確信してたけど……花音さんも迷っているみたいだし、言っても平気なんだろうか? 後悔しそうで怖い。
「夕貴、ちゃんと言ってくれ!」
花音さんは僕の不安を感じたのか言葉を強くして僕の背中を押してくれる。こんなに気遣ってくれる花音さんの事だ、きっと大丈夫。
僕は喉の奥にある物を振り絞って言葉にした。
「花音さん、僕と……友達でいてください!!」
言った! 言えた!
僕がずっと言いたかった事、不安で押しつぶされそうになっていた僕の願い。
どうだろう、花音さんはどんな返事をくれるのだろう。僕は下げた頭を上げ、花音さんの様子を窺った。
「――へ?」
花音さんの表情は……とても間の抜けた物だった!
「ちょ、ちょっと花音さん! 人が一生懸命言葉に出したって言うのになんて顔してるの!?」
「夕貴、もう一度言ってくれないか?」
僕の怒りを余所に花音さんはぼけっとした表情で呟いた。
「だ、だから僕と友達でいてくださいって……」
花音さんは聞きなおして、言葉をゆっくりと噛みしめるように頷くと深呼吸をする。空気を大きく吸い込んだ彼女が口を開く。
「ふ……」
「ふ?」
「ふざけるなぁあああああああああああ!」
余りにも大きい怒号が、僕の両耳から入って頭の中で弾けた。
予想外の言葉に僕はパニックだ。
「え? えぇ!? もう少し時間が欲しいとかは言われると思ったけどそんなに怒鳴るほどおかしい事言ったかな!?」
「違う! 違う、そうじゃない! でも何だそれ!? 今の状況でそれだけなのか? 悩みに悩んだ私の葛藤はなんだったんだ!?」
「え、えぇ……ごめん」
じゃあなんて言えば良かったのだろうか。もっとドラマチックにキザなセリフでも言えば良かったのかな?
よし、そういうことなら。
「君と出会い、ずっと友達でいたいと思ったんだ。僕とずっと一緒にいてくれないか」
「ぬ、ぬわあぁあああああああああああああ!」
花音さんの放った全力の右ストレートが僕の鳩尾に深く突き刺さる。
「ぐ、ぐぅ……どうしたらいいのさ」
「君はもう何も言うな!」
花音さんの目から涙が落ちた。なんで? 今泣きたいのは確実に僕だと思うんだ。何この状況、ついさっきまではいい感じだったのに、どうしてこうなっているのか理解でいない。
ただ一つ分かった。
「花音さんは僕と友達でいてくれないって事だね……」
「ずっと友達だよ、この野郎ぉおお!!」
これから僕はクラスで一人ぼっちで過ごすのだと決心しかけた僕に返って来たのは再び予想外の物だった。
「え!? えぇ!?」
僕は等々完全に事態を把握できないでいた。なんで友達でいてくれるのに殴られたんだろう。理不尽さを感じる。
「もう嫌だ……死にたい」
しかしなぜか落ち込んでいるのは花音さんの方だった。フラフラを教室を彷徨う彼女はとても不安定に見えた。
「花音さん、ありがとう。僕は嬉しいよ」
でもやっぱり一番大きい感情は喜びだ。今の状況は理解できないけど、花音さんが友達でいてくれるのはどうやら本当らしいから。
「……もう帰る」
唇を尖らせて拗ねるようにそう言った彼女は廊下に出る。
「花音さん、一緒に返ろう」
僕は彼女を追って二歩くらい後ろを付いて歩く。
「大体、ずっと友達でいるってのは約束したじゃないか……」
花音さんが何か呟いたけど、僕の耳は拾いきれなかった。
「明日からもよろしくね、花音さん!」
僕は後ろから声を掛ける。すると彼女は今度は僕にも聞こえる大きな声で高らかに叫んだ。
「私の初恋ぃいいいいい!」
なんと、花音さんは修一さんの事が本当に好きだったのか。親に言われて仕方なくだと思っていたけど、実際に会ってみて惹かれる所があったのだろう。彼女のためとは言え、お見合いを邪魔してしまって本当に申し訳なかったと猛省する。
会話の無いまま校舎を出ると夕日が僕達を照らしていた。
まだ完結ではないですが評価、お気に入りをお願いします(´;ω;`)
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