花音さんの気持ち
「やめて!」
僕は叫んでいた。
「やめて……もういいんだ。花音さん、茜さんはもう十分に苦しんでるよ」
僕の声に動きを止めた花音さんが手を下ろして僕を見る。茜さんは俯いたまま嗚咽を漏らしていた。
「茜君は君をはめようとしたんだ! 私がもしも茜君の言葉を信じてここに来なければ君はどうなっていた!?」
「分かってる。すごく悲しいし苦しかったと思う。でもそれでまた茜さんに復讐したら終わりが無くなっちゃうよ。僕が嘘をついて二人を傷つけて、茜さんは僕を傷つけようとした。花音さんは許してくれたのかも知れないけど、これは僕の身から出た錆ってやつだから仕方が無いんだ」
始まりは小さな嘘だった。でも関係が深くなるほどに傷付ける事が不安になって、身動きが取れなくなる。茜さんがした事は悪だと思う。でもそれは因果が周って僕に返ってきただけなんだ。
「……夕貴がそれでいいのなら私はもう茜君に言うことは無い」
「私は謝らないよ! 私は悪くない」
「茜さん、今はそれでいいよ。でもよく考えてみて欲しいんだ。僕が君を許した意味を」
「……」
茜さんは置いてあったバッグを乱暴に掴み取り部屋から出て行った。
「あぁ……またうまくできなかった」
「いや、なぜ君はそこまで相手を気遣う? 私の事だってそうだ。夕貴の秘密を知ったくらいで信じられなくなりかけていた私に君は優しすぎるぞ」
「それはだって、悪いのは僕だから……ねぇ花音さん。どうしてここに来てくれたの? 茜さんからは来なくていいように聞いていたんでしょう?」
「夕貴は大切なことは自分で言わないと気が済まない性格だからな。柏木から聞いた伝言だって、今日念を押して自分で言うくらいだ。その約束を茜君に伝言で断らせるなんてこと、誰だって変だと思うさ」
「花音さん……」
僕は僕の事を理解してくれている彼女が嬉しかった。
僕が一人で悩んでいる間に彼女は僕を信じる事を選んでくれたんだ。
「そ、それでな、夕貴。私がここに来たということはだな……その、答えを伝えに来たのだ」
「……ふふ」
改まってそんな事をいう彼女に僕は思わず笑ってしまっていた。ここまで僕の事を思ってくれていて、ここに来てくれた時点で彼女の言いたい事は分かっていたから。
「わ、笑うな! というかなぜ私が困っているんだ? そもそも私を騙していたのは君だろう!」
「ごめんなさい」
それを言われてしまうと僕にできる事はひたすらに頭を下げる事だけだ。
「ああ……違うんだ、その……余りにも考える時間が少なくてな? 自分の答えに自信が無いんだ。本当に夕貴の気持ちは固まっているのか? 私にはその、お見合い相手もいるしその状況でと言ったらやはり責任は取ってもらいたいというか、いや違うなこれでは将来の事まで考えさせる重い女になってしまう。いやしかしそういう関係になるというのであればちゃんと考えて欲しいというのも本音なわけでだな。夕貴は大切な女友達だと思っていたのに突然男だと分かって怒りが収まったら持っていた好意がそっちに向かってしまって……こんな気持ちは自分でも初めてなんだ」
なんか花音さんの様子がおかしい。わたわたと手を振って慌てる様は、さっきまでの格好良さが消えてもはや可愛く見える。
ところでそっちってどっちの事だろう? 異性の友達は作ったことが無いってことなのかな? 言っていることが繋がっていなくていまいち把握できない。
まだ完結ではないですが評価、お気に入りをお願いします(´;ω;`)
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