悔しかった事
僕はとにかく可愛いものが好きで、小さい頃から戦隊物より美少女戦士、変身ベルトよりぬいぐるみと女の子みたいな趣味だった。
親は大きくなれば普通になると思っていたみたいだけど、そんな予想を裏切って僕は可愛い物が好きなまま中学生になっていた。
「高城! お前女装が趣味ってホントかよー!?」
山ちゃんが言った。
「えっ!? そうなの?」
「いやいや、冗談でしょー」
山ちゃんの声に反応した何人かが僕の周りに集まって口々に何かを漏らす。
「そんなことないよー、なに言ってんの? 山ちゃん」
僕はすぐに否定する。内心は秘密がバレたのかと不安で仕方がない。
本当は女装はしているけどそれは僕が可愛い物が好きだからで、女の子になりたいと思ったことは一度も無い。
皆も納得したようで山ちゃんに「冗談かよー」とか「今回のはいまいちだったね」なんて茶化していた。山ちゃんは普段からよく冗談を言う奴だから、今回もいつもの冗談だと思った。
図星を突かれた僕だって、山ちゃんが本気でそんなことを言っているとは思わない。
「これを見ろ!」
皆の言葉をかき消す大きな声と共に、山ちゃんが写真を取り出した。
皆でなんだよと覗きこむ。
写真を見た瞬間、冷たい汗が体中から噴き出すのを感じる。
女装した僕の写真だった。
なんで山ちゃんがそんなものを? 自分の部屋でしか女装はしていないのに、誰にも知られていない秘密のはずなのに。頭の中が混乱で埋め尽くされた。
「気持ち悪くね?」
誰かが言った。
誰かは分からないけど、聞き覚えのある声だ。友達の中の誰かだろう。
僕は秘密を知られてしまった。良い噂は広まることは無いけど、悪い噂が広がるのは早かった。翌日学校に行くと僕の秘密は学校中に広まっていた。
そこから起きたことは普通のこと、気持ち悪い奴がそうでない奴に虐げられる。暴力では無かったけど、制服を女子の物とすり替えられたり、着替える時に廊下に出されたりした。
悔しかった。
バレたことがじゃない。
自分の好きな物を好きと言えなかったことが、悔しかった。
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