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女装男子とお見合い前のお嬢様とブラコンの妹。  作者: 岬ツカサ
三、女装男子と嘘と愛情
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ボーイズ?

「――というわけで、僕の女装がバレました」

「うわぁ……花音ちゃんだけに言うつもりだったのに皆に知られちゃったんだ……」

「あらあらまぁまぁ、大変ねぇ」

 夕食の後、藍と母さんに今日の事を説明すると藍は単純に驚いた様子。母さんは焦っているのかすらも分からないいつもの調子だ。

「多分明日には学校中に広まると思うんだ。だから先生に何か言われるのも遠く無いかも知れない」

「そっか、おにぃは女の子として入学してるから先生にバレたらヤバイじゃん! 大ピンチングじゃん!」

「それはお母さんがどうにでもするから任せなさい。理事長に頼めば何とでもなるわ。それより、夕貴は大丈夫なの? 簡単に言えば中学の時と同じ状況になっちゃたって事だよね? それでも同じ学校でやっていけるの?」

 母さんが表情を真剣な物に変えて、僕の目を真っ直ぐに見てくる。

「うん、似ている様な状況だけど全く同じって訳じゃないんだ。花音さんだっているし、茜さんっていう子も僕の事を気にかけてくれてる。正直他のクラスメートはどう思ってるか分からない……というか気持ち悪いって思ってるか。でも……僕は一度逃げちゃってるから……逃げた場所でまた逃げてしまったら僕はもう何とも向き合える気がしないんだ」

 友達の本心が分からないまま逃げるのは、もう嫌だ。

 僕も母さんの目を真っ直ぐに見返す。

「ふふ、男の子って感じの顔ね」

「え? おにぃはほぼ女の子みたいなもんだよ? ほら、今だってこんなに可愛いよ?」

 藍のとぼけた発言に僕と母さんは声を合わせて笑う。藍だけは不服そうに顔をしかめていた。

「夕貴が大丈夫なら母さんはいいの。ただ、転校っていう選択肢もあるんだよって教えてあげたかっただけ。息子が苦しむ所なんて、親だったら誰だって見たく無いもんだからさ」

「うん。ありがとう母さん。でも大丈夫だよ、僕にはこんなに優しくて頼りになる家族がいるから」

 腐っても母なんだなぁと、ヤオイ作家の母さんが誇らしい。

「ねぇ~おにぃ~? それって私も入ってる? 私もちゃんと頼りにしてくれてる?」

「あぁ、もちろんだよ藍」

「ぬふふ~、ならよかった」

 藍は満足そうに笑いながら体を猫の様に擦り寄せてきた。うん、可愛い妹だ。

「逃げ出さずに踏ん張っていれば何でもうまく行くものよ。ヤオイでもそう。最初は素直じゃなかった少年も求められ続けるうちに心と体を開くのよ」

「ありがとう母さん、前半だけ覚えておくよ」

 うん、やっぱり腐ってる物は腐ってるよね。腐女子って怖いです。息子の教育にも腐を持ち込むのですから。

「ねえねえ、おにぃの事バラした人ってやっぱりさっき言ってた電柱の所に居たって人かなぁ?」

 僕がこの先どうするか決まった所で藍が犯人の事を話し始めた。犯人って言ってしまったら犯罪者みたいになってしまうけど、僕からしたら充分に犯罪者として扱える被害を受けてるからいいか。

「うん、多分そうだと思う。僕と藍が話してた事を聞いていて今日学校でバラしたんだ。母さんは昨日外には出なかったの?」

「昨日はずっと家でお仕事してたから外には出て無いの。役立たずでごめんなさいね。でも、予想をつける事はできると思うのよ」

「予想って、顔も身長も分からないんだよ?」

「あらあら、外見の話じゃ無いのよ」

「外見じゃ無い?」

 見た目が分からなければ犯人を見つける事は難しいと思うんだけど、どういう事だろう。

「なんでその人がその場所に居て、しかも秘密をバラしたのかを考えればいいのよ。中学の時だって山田君がバラしたけど、夕貴はその理由を知ってる?」

「山ちゃんか……ううん、あれから山ちゃんとは一言も話して無い。山ちゃんは僕に何か言いたそうだったけど僕の方が避け続けた」

「んにゃ! 私分かった気がする!」

「うふふ、藍は夕貴と山田君がまだ仲良かった頃羨ましそうに見てたものねぇ。ちなみにお母さんも理由は分かっています」

 山ちゃんがバラしたことに理由があった?

「だったら僕が山ちゃんを避け続けたのは間違い? 何か理由があったのに僕が気付けなかっただけなの?」

「あらあら、夕貴が悪いわけでは無いわ。思春期の恋愛には衝動が付きものだもの。山田君にも悪い所はあったわね」

 恋愛? 僕が山ちゃんの好きな子を知らないうちに取ってしまったりしていたのかな? そう言えば山ちゃんはどれだけ問い詰めても好きな人の事を言わなかったっけ。うーん、僕の事を好きだった女の子とかに心当たりは全くないのだけど。

「……おにぃは本当に鈍感」

「うふふ、しょうがないわよ藍。夕貴も所詮は男の子って事」

「男の子って面倒臭いよね。これだから草食系は……」

 藍と母さんが二人だけに通じる何かを話しあっていた。

 僕が鈍感? 心の機微には敏感な方だと思っているのだけどなぁ。

「でもそれが今回の事と何の関係があるの?」

「人の行動にはちゃんと理由があるって事。山田君が行動を起こすのに理由があった様に、今回の犯人にも理由があったと言う事よ……例えばそう。女装少年に恋をしてしまった男の子が、真実を知って逆上してしまった……とかね」

「僕の可愛さがそんな裏目に!? でも学校に入ってから僕が関わった人って大体女の子なんだけど」

「片思いしてても声を掛けられない人なんていっぱいいるよ! これだから草食系は!」

 藍は草食系男子に何やら怒っているみたいだけど、僕とは全く関係は無いと思う。多分クラスの男子の事だろう。うん、きっとそうだ。

「じゃあ、女の子がやったのかも知れないわねぇ……夕貴に関わった事のある人がやったって可能性は高いと思う。これ以上は推測できないけど」

「ううん、充分ヒントになったよ。理由があるならそれを知りたいなぁ……」

「良い理由とは限らないわよ? 男のくせに女の私より可愛くてムカついたから、とか」

「現実世界に男の娘がいる事を証明したくなった、とか」

「うん、二つ目の理由はちょっとやるせないけど。一つ目だったらちょっと嬉しいかな」

「なんでバラされたのに嬉しいのさ? おにぃはドM?」

 さっきから藍の使う言葉がいちいち鋭さを持っているのは最近藍が母さんの小説を読み始めたからかな? 全く教育によろしく無いので禁止しよう。

「だって、恨むほど可愛いってことでしょ? この僕が」

「あらあら、喜ぶポイントがおかしい子ねぇ。でも何でバラしたかを考えるより、何で電柱に……というか家の傍に居たのかを考えた方が早いかも知れない」

「うん、そうだね。ありがとう母さん」

「私はぁ~?」

「藍もありがと!」

「うむうむ。ご褒美に撫でて!」

 藍の頭を撫でてこの会話は終了した。母さんはもう洗い物を始めている。

「夕貴、藍、お風呂に入っちゃいなさい」

「「は~い」」

 うん。何があっても家族はいつも通りの平常運転。今の僕にはこの空気がとても心地よかった。

「おにぃ、先に入っていいよ!」

「ん? そっか、じゃあ先に入るね」

 いつもは「一緒に入る?」とか「私が先!」としか言わない藍が珍しいな。今日くらいは僕を労わってくれるのだろうか。

「うん、ごゆっくり~!」

 藍の好意に甘えて僕は先に風呂に入って、いつもより早めに床に就いた。




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