階段
「夕貴、こんな所で何をしているのだ?」
花音さんの声が後ろから聞こえた。
「いや、これはそのなんと言うか……」
「ん? どうした呆けたような顔をして、ボケたのか?」
ボケてなどいない。僕はただ目の前にいる花音さんの変貌ぶりに驚いていたんだ。
「お嬢様、お綺麗でございます!」
「とても綺麗で、可愛いよ」
「フフ、やはりそうか! この衣装とメイク、私は今、完全体となったのだ! これならば見合い相手もイチコロ!」
花音さんの言っていることに間違いは無いと思った。洋服は昨日見た物なのに、花音さんのメイクが加わって可愛いと格好良いの完璧なコラボレーションを生み出していた。それはまるで苺とケーキが出会って苺ショートになるような。そんな必然性すらも感じさせる組み合わせだ。こんな容姿の女の子が目の前にいたら断る男なんていない。お見合いの成功は約束された様なものだ。
「じゃ、じゃあ僕はもう下に戻るよ! もうすぐお見合い始まるんでしょう?」
「あ、あぁ、まだ一時間ほどあるが……なぁ夕貴ちょっと話を――」
「ごめん花音さん、また後で! お見合いがんばってね!」
タイムリミットは後一時間……いや、三十分って所だろう。時間が無い、今は花音さんと話すよりも藍の意見を聞きたかった。
「――あっ、なんだよもう、お見合いの前くらい一緒にいてくれてもいいじゃないか……」
「フフ、お嬢様のために奔走してくださっているみたいですよ」
階段を駆け降りる中二人の会話が少しだけ聞こえた。ごめんね花音さん、不安な気持ちは分かるけど、絶対後悔の無いようにさせるから!
読んで頂けて嬉しいです。
ランキングに参加していますので↓クリックをお願いします。




