クローゼット
「ごちそうさまでした」
朝食を食べ終わると花音さんは源次さんに連れられて別の部屋に行ってしまった。衣装は決まっているけどメイクはちゃんとしたプロの人にやってもらうのだそうだ。
「お二人はこちらにどうぞ」
柏木さんに案内されたのは食事した部屋の隣の部屋。大きなソファーが二つとテレビが一つ。食事をした部屋にテレビが無かったから、普段はここで団欒したりするのかも。
「のぁ! 忘れてたよ!」
藍がテレビを見て思い出したのか、急いでテレビの電源を入れて毎週見ている日曜朝のアニメに見入っている。
「ふふ、藍様は可愛らしいですね。天真爛漫といった感じで」
「えぇ、良く言えばそうですね。悪く言えばはしゃぎすぎですが」
そんな事を柏木さんと談笑する。初めの印象とは違って今日はとっつきやすい印象を受けた。
「夕貴様、ありがとうございました。お嬢様に何かしてくださったでしょう」
「分かるんですか?」
「えぇ、これでもお嬢様を生まれた時から見てきていますからね。あんなに晴れやかな表情をしているのは久しぶりです」
「生まれた時からって……いったい何歳なんですか柏木さん!?」
「フフ、秘密です」
そう言って妖艶に微笑む柏木さんはとても嬉しそうに見えた。この人も花音さんが心配で仕方が無かったんだろう。しかし彼女を見てまた僕の胸が痛んだ。何なんだろうこの……罪悪感? どこから来たのか分からないこの感情は、僕を不安にさせる。本当にこのまま花音さんにお見合いをさせていいのかな。
「……柏木さん、お見合いはどこでやるんですか?」
「場所はこの家の二階の部屋ですが、何か?」
「えと、まだどうするかは分からないんですけど……部屋に案内してもらえませんか? お願いします」
「何か考えがあるのですね? 夕貴様の頼みとあらば断る理由はありません、こちらです」
二階に案内され、お見合いが行われる部屋に入る。基本的にはさっきいた部屋の造りと同じか……違う所は、大きなクローゼットがある所くらい。うん、これくらい大きければ入ることはできるだろう。一応中を開けて確認する。うん、ばっちりだ。大人二人は余裕で入れる。
「柏木さん、ありがとうございます」
「もういいのですか?」
「えぇ、充分です!」
柏木さんは不思議そうな顔をしていた。そりゃそうだと思う。僕がやろうと考えてることは、普通考えない様なことだ。
クローゼットの中に隠れてお見合いの様子を窺うなんて、思いついても誰が実行すると言うのだ。
でも僕はやらなくちゃいけないと思った。花音さんのためもあるけど、僕自身のこの罪悪感を確認するために、やらなくちゃ。
まだ完結ではないですが評価、お気に入りをお願いします(´;ω;`)
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