友達の形
「電気を消すぞ」
花音さんはリモコンを使って部屋の電気を消した。豆電球も消す派らしい。あぁ、そっちの方が緊張しないかも知れないから少しだけありがたい。僕は花音さんに背を向けて寝転がる。
「お、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
就寝の挨拶をして僕は目を閉じた。
二十分くらい時間が経っても全然眠気は来なかった。だって花音さんの匂いとか体温とかを直に感じてしまって、緊張してしまったんだ。
時計の秒針の音と外から聞こえる風の音。部屋の中は静かで、多分花音さんはもう眠っているだろう。様子を確認してみる。
花音さんの方に向き直ると彼女は目を閉じて眠っているようだった。時間だ経って目も慣れていたから顔くらいは見ることができる。
花音さんにとって明日が勝負の日だ。
「がんばって」
花音さんの頭を起こさないように優しく撫でる。
「あぁ、がんばるよ」
「あ、起きてたの? ごめん、撫でちゃって!」
開かれた瞳と至近距離で見つめ合う。やばい、結構恥ずかしいよこれ。
「いや、撫でていてくれ。安心する」
「う、うん」
「夕貴、ありがとう。ずっと友達でいると言ってくれて」
「か、花音さん、聞いていたの!?」
花音さんのあまりに突然な言葉に僕は返事に詰まってしまった。
「あぁ、友人が自分の父親に呼び出されて話をしているとなったら、気になるのが普通だろう?」
「あぁ、うん。そうだね」
確かにあの状態で僕だけ呼ばれるなんて、花音さんからしたら違和感しかなかっただろう。
「あの話を聞けて本当に良かったよ。私は父さんに利用されるだけの、家を大きくするためのただの道具なのかと思ってしまっていた。だってそうだろう? 私のお見合いの話が決まっても父さんはいつものあの調子のままで、心配されているなんて全然分からなかったんだ」
そうかも知れない。自分の中ではすごく大きな事なのに、それに親が関心を持っていないように見えたら、不安になると思う。
「お見合い相手に合わせて自分を殺して、気に入られて結婚して、私は自分の人生はそれだけの物だって、割り切ってしまっていた。家のために、家族のためになるならそれでもいいかって。でも違ったんだ。父さんは私の本当の気持ちに気付いてくれていたんだな。そして私のために泣いてくれていた。愛してくれていた……私はそれが嬉しい」
暗闇の中、花音さんを目から涙が零れるのが見えた。
花音さんがそんなことを考えていたなんて僕は気付きもしなかった。特訓中の彼女の笑顔は、なんて悲しい笑顔だったんだろう。今になって源次さんに返事をした時の考えの浅さに自分で自分が嫌になる。そして夕食の時からの花音さんの妙にご機嫌な様子にも納得がいった。
「私は、私はもう未来を見ない振りなんてしない。自分で自分を諦めたりなんかするものか。父さんの期待に答えて、お見合いも成功させて、そして自分の未来もちゃんと掴む。父さんがいて柏木がいる、私の未来を!」
花音さんは強い。誰がいなくても、自分で決めて進んでしまうんだ。それが悲しい道だとしても。でもそれが分かってしまったらもう、放ってなんかおけるはずが無い。だから僕はちゃんと伝わるように言うんだ。
「僕もいるよ。僕も花音さんの近くに、ずっといるよ」
「あぁ、分かっているさ。だから今日も父さんと約束をしてくれたのだろう?」
「そうなんだけど、違うんだ。僕は花音さんの気持ちに気付けていなかったから。でも今は聞くことができたから、もう一度約束したい。僕はずっと、花音さんの友達でいるよ!」
彼女の弱さを知って、強さも知った今だからできる、本当の約束。花音さんの小指が僕の小指を掴む。
「うむ、約束だ」
花音さんは笑っていた。あぁ、僕達はやっと本当の友達になれたのかもしれない。
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